WiMAX 2+サービスインを間近に控えた10月のある土曜日、都内のイベントスペースにおいて、第9回目となる「UQお客様の会」が開催された。この会は、UQコミュニケーションズが2009年7月1日に有料サービスを開始して以来、都度に開催され、同社の今と今後をしっかりと伝える場として開催されているもの。さらには、UQがお客様の貴重な意見に耳を傾ける対話の場でもある。今回は、WiMAX 2+開始を目前に控え、注目の内容も満載だった「UQお客様の会」実地レポートをお届けしよう。
野坂社長による「3倍速プレゼン」からスタート
今回は特に多かったという応募の中から、抽選で招待された27名のユーザーが集まった会場。冒頭の挨拶でUQコミュニケーションズ 代表取締役社長 野坂章雄氏は、この会が9回目であることを告げ、日本では9という数字はあまりよくない印象があるかもしれないが中国では「久しい」と同じ発音で縁起のいい言葉となるとして場をなごませた。
引き続く野坂社長のプレゼンテーションは、もちろん、新たに始まるWiMAX 2+のサービスに関する詳細の解説だ。
野坂社長はWiMAX 2+の準備が、UQらしくきわめて急ピッチで進められてきたこと、サービスの詳細については、2~3週間前までも、その要件がめまぐるしく変わる状況だったことを明かした。だが、常にお客様のことが頭の中にあり、それを大事にしているためだと野坂氏。この日のわずか20分程度のプレゼンテーションのために用意されたスライドは実に60枚。「三倍速で行きましょう」と説明を始めた。
まずは、WiMAX 2+のサービスインに至る歩みについての説明。UQは昨年10月に「WiMAX 2」から「WiMAX 2+」、すなわちTD-LTE互換への進路変更を表明した。そして、WiMAX 2+のサービスを開始するためには、なんとしても、新周波数を獲得しなければならなかった。
安倍内閣が誕生し、政権は民主党から自民党へと代わり、周波数の新規割り当てがオークション制から比較審査制へと移行したという追い風もあったが、なにより、常にユーザーに対して真の驚きを提供するというUQの姿勢、そして過去に積み上げてきた実績が割り当てに際して大きな影響を与え、同時に認可を申請していたライバル、WCP(Wireless City Planning)に打ち勝つことができたのだ。
申請に必要な書類のファイルは一組5冊からなる大規模なものだった。これを紙の書類として提出する必要がある。それを6組だから、全30冊という構成だ。まるで長大な長編小説を書いたようだったと野坂社長。その申請書によって6/24に開設計画を申請、その一ヶ月後、7/29に、見事、新周波数を勝ち取ったのだ。勝因は、なんといっても現状における契約数であったという。
新周波数の獲得に伴い、UQはまず、墨田区に第一号基地局を完成した。奥にスカイツリーが見える写真を参加者に披露し、その場所をスタートとして急ピッチで基地局建設が開始されたことが説明された。
秋葉原や渋谷など、混雑しているエリアからWiMAX 2+化を進める。サービスインの時点では、環状七号線の内側から順次エリア化し、来年3月末には7000局を実現、2015年3月の全国拡大に向けて急ピッチの工事を進めていくという。
トライブリッドの新ルーターで無敵のサービスに
2013年9月現在、UQは427万人のユーザーを抱える大規模サービスだ。しかも、モバイル通信事業者があまたあるなかで、速度制限ナシの「ノーリミット」をアピールできるのはUQだけだと野坂社長。J.D.パワー 2013年モバイルデータ通信サービス 顧客満足度調査でナンバーワンとなるなど話題も多い。そして、そのユーザーが満足できるサービスを提供していくためにも、都市部における容量拡張と高速化は急務だ。だからこそ、連続する50MHz分の周波数確保はUQの悲願でもあったわけだ。
WiMAX 2+導入により、UQはこれまでのWiMAXとシームレスなサービスを提供しつつ、さらなる進化を遂げることができる。周波数利用効率はさら良くなり、TD-LTE互換により世界規模のエコシステムも最大限に活用できる。たとえば新幹線が時速350キロで走っても車内で安定した通信ができる高速モビリティ機能を持ちながら、システムの構成は簡便なものとなっているのが特徴だ。そうした特徴も反映し、WiMAX 2+のロゴを新たに作成。斜体を使ってスピード感を、また「+」を上に上げて、さらに先に進化していくことを演出したという。
サービス開始に伴い、トライブリッドの新ルーター「Wi-Fi WALKER WiMAX2+」が用意される。このルーターは会場にも展示され、参加者の興味をひいていた。3つのモードを持ち、UQのDNAとしての「ノーリミットモード(WiMAX)」、今後2年間は料金そのままで使い放題の「ハイスピードモード(WiMAX and WiMAX 2+)」、そして抜群のエリア展開を誇るau 4G LTEを使う「ハイスピードプラスエリアモード(WiMAX 2+ and au 4G LTE)」をサポートする。
野坂社長は、他サービスと比べて速度制限があるか無いかしか違いがないと思うかもしれないが、それはとても大きな違いであり、同じ値段なら食べ放題がいいし、おかわりができるほうがいいとアピールした。
WiMAXとWiMAX 2+をシームレスに利用するために
野坂社長に続き、WiMAX 2+を支える技術について、要海敏和氏(執行役員、技術部門長 兼 ネットワーク技術部長)が解説した。多くの要素は先の技術解説インタビューの内容をなぞるものではあったが、ここでしか聞けない新たな情報もあった。
要海氏は、WiMAX 2+は「TD-LTE端末をネットワークで扱える」ということをまず挙げ、そのメリットとして、端末価格が安くなることや、端末自体のバリエーションも増えていくことになるだろういうことを明らかにした。ワールドワイド向けに普及するTD-LTEスマートフォンやタブレットを、そのままWiMAX 2+に接続できるようになる可能性もあるということだ。その中には、iPhoneやiPadが含まれることが推測できる。将来の話とはいえ実に興味深い。このことは、一般のメディア向けのプレゼンテーションでは語られることはなかった部分だ。
それらの標準端末を支えるネットワークを、きちんと動かしていくことが要海氏らのミッションとなる。既存サービスであるWiMAXとシームレスに連携させるために、WiMAXの上にWiMAX 2+ネットワークをかぶせるスタイルで、ハンドアップ、ハンドダウンによって両サービスを往来する仕組みが説明された。
両サービスを往来してもIPアドレスは変わらない。だから、ユーザーはどちらのサービスを使っているのかを意識する必要はないという。
基地局に関しては、今までの基地局アンテナが2つのアンテナを使ってデータを扱っていたが、「UQは貧乏な会社なので」と前置きして、会場の笑いを誘いながら、同じサイズでエレメントを2つ押し込んだ新アンテナシステムを披露した。
これによって、従来とほとんど見かけは変わらないままで、4アンテナの基地局を構築できる。スペース効率も同等だ。アンテナ角度を120度ずらして4ビームを実現、よくよく見れば、ステーとの相対関係で、60度回転したアンテナによって、新基地局であることがわかるという。実にマニアックな説明だ。
速度が速ければユーザー同士も干渉しない
新ネットワークは、セントラルスケジューラと呼ばれるサーバー群によって複数の基地局が集中管理される。これは、個々のセルのエッジにおける電波干渉を抑制し、そのスピードを上げるためのテクノロジーだ。
一般に基地局は、自分の配下にいる端末の面倒は見るものの、隣にある基地局のことはあまり考えない。ところが、電波は狙った端末だけに飛ぶわけではないため、それが干渉となってデータ転送スピードに悪影響を与える。つまり、複数の基地局からの電波が重なったところではスピードが出づらくなるのだ。世の中の基地局では必ず起こっている現象だという。
そこでUQは新しい技術として、セントラルスケジューラを導入、それに基地局を管理させることで、この現象を低減していくという。
また、基地局に関しても、従来は1つの装置にBBU(Base Band Unit)とRRH(Remote Radio Head)を内蔵していたが、それを2つの装置に分離、BBUを取り替えるだけでWiMAX 2+専用局に移行できるようにするという。来たるべきWiMAX 2+完全移行に備えるためだ。
続いて、要海氏はWiMAX 2+のフィールド試験についても説明した。TCP/IPヘッダによって10%程度のロスはあるが、速度は実測で100Mbps近い、ほぼ理論値通りの実力を発揮できているという。
試験の測定ポイントは墨田区にある第一号基地局から200メートル程度離れたコンビニの駐車場が使われた。ずっと測定車を駐車させているわけにもいかないので、定期的にコンビニにコーヒーを買いに行くという苦肉の策でテストは続けられた。その経費を会社は認めてくれないとこぼす要海氏。
WiMAX 2+は、速度が速いので、通信している時間がすごく短くなるのも特徴であると要海氏。例として、YouTubeでテストしているときの電波使用状況を動画で見せ、そこに他のユーザーが入ってきても高速通信を維持できることが実際の計測結果で示された。必要な通信が瞬時に終わることで、受け入れることができるセッションの数が多くなるわけだ。高速化のメリットはそこにもある。
ハンドオーバーの際も、シームレスに通信は続き、切り替わったことがユーザーにはわからない。ハンドアップの仕組みを工夫することで、不安定な接続で行ったり来たりするピンポン現象を回避、Webブラウザーでページを読んでいるスキや、メールを書いているスキを狙ってハンドオーバーすることによって、常に安定した通信環境が得られるという。
UQは携帯事業者ではない、7GBは「携帯事業者のスタンダード」
お客様の会に招かれたユーザーに対して行われた事前アンケート結果についても紹介された。WiMAX 2+サービスの検討状況として、端末の変更は考えているかと尋ねたところ「変更したい」が52%、「検討中」は34%という結果が出たという。実に、86%が期待を持って移行を考えていることがわかる。
再び壇上に立った野坂氏。速度制限はどうなるのか、エリア展開は、そして既存契約者はどうなるのかといったユーザーの素朴な疑問にコメントした。
野坂氏は、モバイル通信の世界は短いスパンで大きく変わっていくものだとし、2年後に予定されているWiMAX 2+の7GBの制限も、「これからの検討課題」とした上で、仮に速度制限がかかった時でも「ノーリミットモードで最低でもWiMAXの40Mbpsで使えることが他社にはない最大の魅力」と述べた。
加えて、「われわれは携帯事業者ではない」と前置きした上で、現在、通信量制限として「業界標準値」となっている7GBという値は携帯事業者のスタンダードであり、UQのお客様にとってみれば、7GBがいいのか10GBなのか、といったことは、お客様の間の公平感を考慮しながら、2年間のうちによく考えていきたい、とした。お客様のことを考えるUQらしさと、その意思決定の柔軟さとスピード感がここにある。
速度制限に関しても、特定の利用者が多く利用することで、他の利用者の利用機会を排除するといった、ユーザー間の「不公平」を是正する目的があるとした上で、それでも常に、ユーザーの利便を最も大切に考えるというUQの立ち位置は忘れないようにしたいという。
会の最後には、福島徹哉氏(執行役員 建設部門担当)から基地局建設の進捗について説明があった。従来のWiMAXの際、決意表明して7000局を作ったときには1年間かけたが、今回は無線機器を受け取ってから半年以内で7000局を作る必要があるとのことで、その苦労を吐露。正直に言えば、開始当初のエリアはそれ程多くない、と明かした。それでも、最初は駅、そしてそこまでの導線を完璧にすることを目標に、まずは首都圏からエリアを作っていきたいとした。
このあと、会場では各テーブルにそれぞれUQの役員が着席し、テーブルごとにユーザーと対話しながら、これからのWiMAX、WiMAX 2+について議論した。この日の議論によって、既存ユーザーの意見や懸念、希望を吸い上げ、検討していくという。これが、UQの2013年下期の最大のテーマなのだとも。
既存ユーザーにとっては気になることが満載のWiMAX 2+だが、UQにはこのお客様の会における既存ユーザーとの対話によって、今後の方向性を柔軟に変えていく姿勢がある。いいサービスとなることを期待していよう。
(Reported by 山田祥平)