いよいよサービスインするWiMAX 2+。これまでのWiMAXと何が違い、このサービスがぼくらの暮らしにどんな変化をもたらすのか。今回は、WiMAX 2+を支える技術的背景について、UQコミュニケーションズの要海敏和氏(執行役員、技術部門長 兼 ネットワーク技術部長)に話を聞いてきた。
WiMAXとTD-LTEはもともと「基本技術は、ほとんど同じ」
―そもそもWiMAX 2+は、WiMAXと何が違うのでしょうか。
要海氏現在のWiMAXは、業界団体であるWiMAX Forumが標準化したWiMAX Release 1.0によって運用されています。WiMAXは、IEEE802.16eという標準化規格を物理層とMAC層に採用した通信方式です。実は、昨年夏頃までは、そのチャンネル帯域を広げ、さらなる高速化を図ったIEEE802.16mという規格を採用したWiMAX Release2.0の技術開発やさまざまな導入準備作業を進めていました。それを、WiMAX 2としてサービスを開始する予定だったのです。
移動体通信のトレンドがCDMA技術を用いた3Gが趨勢であった2010年頃までは、WiMAXは唯一、OFDMAやMIMO技術、64QAM多値変調などを採用した先進的な方式で、これを更に進展させるシナリオでした。一方で携帯電話の世界では同様の技術を用いたLTEが商用化され、これを採用する通信事業者が世界的に増加する事で、グローバルマーケットの視点でLTEが大きな存在になってきました。
そこで、元々は基本的な技術が同じであるのだから、LTE規格を取り込むことでWiMAXの市場を拡大することができる、という発想に向かって行ったとの背景があります。
その結果、WiMAX Forumは、昨年11月に、WiMAX Release 2.1を発表し、世界各国のWiMAX事業者は、この規格を採用し、足並みを揃えていくことになったのです。
―WiMAX Release 2.1について詳しく教えてください。
要海氏今年サービスインする予定だったWiMAX2、つまり、WiMAX Release2.0に対して、Additional Elements(追加要素)として、3GPPが標準化した TD-LTEの互換性を持つ技術を取り入れたものとなります。
LTEには2種類の方式があります。いま、日本の携帯電話で使われているLTEはFDD、つまり上り下りを別の周波数に割り当てるFDD-LTEですが、上り下りに同じ周波数を使い時間で分けてピンポン式に用いるTDD方式は、中国が提唱して、世界的に採用する事業者が増加する動きが進んでいます。そのTD-LTE規格について、具体的には物理層とMAC層の規格を参照し、互換性を確保したものがWiMAX Release 2.1です。
そもそも、WiMAXには、TDD方式が採用されており、上り下りを切替えるフレームの長さも5ミリ秒だし、変調方式もOFDMAですから、TD-LTEとは基本的な部分は同じ技術だったんです。
そのため、IEEE802.16規格に3GPPのLTE技術を追加参照することで、WiMAX技術を維持しつつTD-LTE標準との互換を実現する事ができ、これをWiMAX 2+と呼ぶことににしました。ただ、TD-LTE互換とするには、端末ごとにSIMが必要になるなど、利用形態に違いはありますね。
つまり、両者には基本的な通信技術として大きな違いが無く、WiMAX 2+をWiMAXの拡張方式として採用する方針となりました。今回は、新周波数として20MHz幅の帯域を割り当てられましたから、WiMAX 2+では、それを全部使います。従来のWiMAXでは30MHz幅を10MHz幅に区切って使っていましたから、10MHzから20MHzで、システム当たりの無線のリソース帯域は単純に倍になる計算です。
さらに、大きなポイントとして、4×4のMIMOを導入します。これで電波の利用効率が上がることになります。
つまり、基本的な技術の構造は同じだったからこそ、比較的容易に移行できたといってもいいでしょう。
WiMAX 2+の2.5GHz帯は「データ通信にはバランスの良い」帯域
―WiMAX 2+のネットワーク網は、すでに完成しているといってもいいWiMAXのネットワーク網を置き換えることになるのでしょうか。
要海氏いえ、共存します。既存の基地局は、120度毎の3つの方向にアンテナの指向性を持たせ、2つの送信エレメントを配置して運用しています。そのアンテナを4つのエレメントに拡張し、4系統の送受信ができるようにします。また、装置の中には、既存WiMAXとWiMAX 2+に両対応した無線機を入れて構築することになりますね。要するに、機材は総入れ替えとなります。
さらに、これまでのバックボーンは100Mbpsだったのですが、高速化するWiMAX 2+にあわせてギガビット化することになります。これは将来のさらなる無線高速化も視野に含めた対応ですね。
―周波数帯という点ではどうなのでしょうか。
要海氏WiMAXがサービスしている2.5GHz帯と同じです。現行では2,595MHzから2,625MHzまでの30MHz分を割り当て済み周波数として使ってきましたが、新規に割り当てられた周波数帯は、その上方に20MHz幅分広がって2,645MHzまでとなります。その20MHzをそっくりWiMAX 2+に使います。
―周波数帯はほぼ同じと考えていいのですね。最近、プラチナバンドという言い方で、低い周波数帯がもてはやされていますが、2.5GHz帯というのはどのような性格を持った周波数帯なのでしょうか。
要海氏携帯電話がどこでも接続できるようにするには、ネットワークの周波数帯が低い方が有利ですね。それは事実です。プラチナバンドは800MHzで、かなり低いバンドで、どこまでも飛んで行く感じです。でも一方で、最近、次の世代の周波数帯として注目されているのは3.5GHz帯なんですよ。今、WiMAXが使っている周波数帯よりもさらに高いバンドです。
これだけ周波数が高いと、電波が伝わる時の損失も大きく、直進性も強いことからビル影にはほとんど回り込まないというデメリットがあります。そんな周波数帯がなぜ注目されるのかというと、次世代の通信は、今よりも、ずっと高速でなければならないという命題があるからなんです。
周波数が高ければ、結果として、限られたエリアに電波を閉じ込めることができる、と考えられます。そうなると、飽和状態にあるセルを、もっと細分化できるということになります。つまり、ビル影に弱い周波数の特性を逆手に取り、エリア内のユーザーの通信環境を良くすることができるんです。今よりもずっと高速な通信に対応することができるというのが3.5GHz帯が注目される1つの大きな理由です。
こうした背景を前提に2.5GHz帯を考えると、3.5GHz帯と、プラチナバンドといわれる800MHz帯との中間に位置することがわかります。
直進性は3.5GHz帯ほどではないが、800MHz帯ほど電波が回り込むわけではない。だから、ある程度のエリアの広さを確保したうえで、それでいてどこまでも電波が飛んで行かないので干渉を抑えやすく、セルの細分化もやりやすいという、データ通信を提供するにはバランスの良い周波数帯だと考えることができるのです。
ただ、回り込みが少ないので、基地局をそれなりの数打つ必要がありますし、室内対策も必要となりますね。
こうして狭いエリアに電波を閉じ込めることで、そのエリアにおける電波の強度は強いものとなりうるので、2.5GHz帯はWANにおけるデータ通信ということでは良いバンドなんですよ。昨今では、その認識が高まっています。実際、米ClearWire、韓国のKT、チャイナ・モバイルなど、多くの事業者がこの帯域を積極的に利用しています。
WiMAX 2+の使い勝手を高める技術
―WiMAXとWiMAX 2+が共存するとなると、双方はシームレスに行き来できるものなのでしょうか。
要海氏両者のエリアはWiMAXネットワークの上にWiMAX 2+ネットワークを重ねたオーバレイ構造で構築していきます。WiMAXとWiMAX 2+の双方がカバーしているエリアでは、WiMAX 2+を優先し、WiMAXのみのエリアではWiMAXで接続され、両者はシームレスにサービス提供が行われます。勿論、ハンドオーバー前後でIPアドレスが変わる事もありません。
サービスインに伴って提供する新ルーターは、WiMAX 2+のエリア内で電源を入れると両方の電波を見つけ、優先するネットワークとしてWiMAX 2+に接続を行います。電源を入れた場所がWiMAX 2+のエリア圏外にいれば、WiMAXを見つけWiMAXに接続が行われます。
WiMAX 2+のエリアでデータ通信をしているユーザーが、WiMAX 2+のエリア圏外に向かって移動すると、ルーターはWiMAX 2+の電波が弱くなってきていることを検知します。ルーターはWiMAX 2+で通信をしている最中も、周期的にWiMAXの電波をサーチする事ができ、WiMAXの電波が見つかり、WiMAX 2+がさらに弱くなると、WiMAXに切り替わります。それが「ハンドダウン」です。
―そこからさらにWiMAX 2+のエリアに戻るときはどうでしょう。
要海氏WiMAX 2+のエリアに入っても、データ通信が続いている状況ではWiMAXを維持するようにしました。そして、データ通信が途切れた状態になり、WiMAX 2+の電波が弱くないと判断できる場合にWiMAX 2+に移行します。これが「ハンドアップ」です。
WiMAXで通信している際も、周期的にWiMAX 2+を探す動作が続いていて、WiMAX2+のエリア内である事が確認できる状況にあります。
ハンドダウンとハンドアップ、ともに瞬時に切り替わります。こうして、セッションを維持しながら通信システムを切り替える方法をとります。
―エリア対策についての新たな工夫はありますか。
要海氏今回、基地局でのスループットをできるだけ高くするために、基地局間のオーバーラップによる干渉を回避する新たな工夫を取り入れました。
具体的には各基地局をグルーピングし、その上位で、個々の端末との通信を管理して基地局同士を連携させる仕組みを導入します。
これをセントラルスケジューラと呼んでいるのですが、そのインテリジェントな仕組みによって、エリアの境目に位置するケースなど、隣接セルの干渉などで速度が落ちていた現象が改善されるはずです。
同じ周波数の電波を送るAとBという基地局があった場合、基地局Aからの電波とぶつからないように、基地局Bが送る電波を次のタイミングにずらすなどで、基地局Aの電波が良好に受信できるような仕組みを実現できます。これをセンターサーバーが制御するんですが、広域で多数の基地局が扱う通信をまとめてサーバーが管理していくのです。
―WiMAX 2+の速度は理論値で110Mbpsということですが、WiMAXの40Mbpsに対して倍以上の速度ですね。でも、実際に体感できるものなのでしょうか。
要海氏今の周波数に対して、新しい周波数に移ることになり、実スループットはかなり上がり、相当快適になるでしょうね。使ってみれば、かなりスピードがあがった実感を持っていただけると思います。広いエリアで実効40Mbps以上は確保できるはずです。ただ、それだけの速度を要求するアプリケーションは今そんなにないですね。
また、WiMAXとはサブフレーム構成は同じですが、それが細分化されて扱われるため、レイテンシーの面では向上します。それも大きなメリットになるんじゃないでしょうか。
―なるほど、サービスインが楽しみです。今日はありがとうございました。