急速に拡張を続けているWiMAX 2+エリア。今年度末にはWiMAXエリアとWiMAX 2+エリアはほぼ同一になるという。そして、今後数年で下り通信速度を倍々にしていく「ヤ倍速」により、下り220Mbpsの提供が間近、下り1Gbpsへの増速も射程距離に入っているようだ。今回は、その革新を支える技術的な側面をUQコミュニケーションズの要海敏和氏(執行役員 技術部門長 兼 ネットワーク技術部長)に聞いてみた。
ふたつの仕組みが実現、圧倒的な「下り220Mbps」
2013年10月末にサービスインしたWiMAX 2+は、これまで、下り110Mbpsを提供してきた。その仕組みは、WiMAX 2+用の20MHzの帯域を使い、2つの送信と2つの受信を同時に行う2×2 MIMOだった。
今回の「ヤ倍速」化では、110Mbpsを2倍の速度にするために、ふたつのアプローチをとった。
まずひとつめは、20MHz幅の電波をふたつ重ねて計40MHzの帯域幅を利用し下り220Mbpsにするキャリア・アグリゲーション(CA)という方法だ。
もうひとつの方法は20MHzの周波数帯をひとつだけ使い、アンテナの数を増やして、4つの信号を同時に送受信することで効率を上げる「4×4 MIMO(フォーバイフォーマイモ)」だ。
かつて、3G通信の時代には、アンテナはひとつ、受信機もひとつというシンプルな構成で通信が行われていた。ところが、無線通信技術の進化によってMIMOが実現、同じ周波数帯域を使って、複数の異なる通信をやりとりすることが可能になった。同じ周波数帯域で2つの電波を送受信すると、本来なら混信して使えなくなるのだが、信号処理の技術が発達し、受信側で複数の電波を正しく復号することができるようになった。
4×4 MIMOでは、それを4つまでやりとりできるようにする。電波の道が4つ作られ、ひとつの周波数帯域で4倍の効率が得られるのだ。WiMAX 2+でいえば、シングル通信だと55Mbpsのところを2×2 MIMOで2倍の110Mpbsになっていたが、今回4×4 MIMOでさらに2倍になり、結果としてシングル通信の4倍の220Mpbsとなるわけだ。
4×4 MIMO技術の「産みの苦しみ」
4×4 MIMOに関しては、すでに無線LANの技術としては広く使われているが、広域モバイル通信に関しては、WiMAX 2+が今回、世界初の商用化となる。その開発は、まさに手探りだったようだ。
「技術が確立されて広く使われ始めているCAに比べて、特に4×4 MIMOの難易度が高かったですね。世の中で実際に稼働しているシステムがなかったわけですから。
実は、UQは2011年に大手町で、4× 4 MIMOを用いたWiMAX2のシステムトライアルのデモを行っています。その結果は大成功で、4×4 MIMOの効果に自信をもち、次に提供する技術は4×4 MIMOにしようという思いを強く持ったのです。
だから、WiMAX2からWiMAX 2+に舵取りした際も、はじめから4×4 MIMOへの対応を前提として進めていました。とはいえ、その時点では、基地局も端末も世の中には存在しておらず、非常に苦労しました。たとえば基地局ベンダーにしてみれば、端末もないのに基地局は作れない。端末ベンダーにしてみれば、基地局がないから端末を作っても動作検証できない。そうした困難を乗り越えつつ、少しずつ同時に進めてきました。
二人三脚ですから、端末の開発が遅れれば基地局側が進まず、という局面もありました。それでも、ソフトの修正をしながらパフォーマンスを追求し、端末と基地局が同じテンポで最終の目的に向かって突き進んできたわけです。
基地局と端末、双方にはこれまでにないパフォーマンスが求められました。基地局は送信機が4つあって、4つのアンテナから電波が出ます。そのぶん送信機も処理能力が高いものが必要です。また、端末側も4つの電波から通信を復号する必要があるので、やはり高い処理能力が要求されました」(要海氏)
そうした取り組みを表して、「産みの苦しみ」と表現する要海氏。一方で、出だしが難産だったぶん、その後の対応エリア展開はスムーズになる見込みだ。
「2013年のWiMAX 2+サービスイン時、各基地局を準備する段階で4×4 MIMOの採用を決めていました。ですからその時点で基地局の設備は対応済みだったのです」(要海氏)
そう、4×4 MIMO への対応はすでに全国の基地局で完了し、対応ルーター「Speed Wi-Fi Next WX01」の発売開始のタイミングで、即、全国でエリア展開ができる状態なのだ。
CA(キャリアアグリゲーション)技術は「育てる苦しみ」
対するCAはどうか。こちらは2つの異なる周波数帯を使い、それぞれの電波を連携させることで倍速を実現している。すでに前例のある技術だったため、導入自体に大きな労力はかからなかったと要海氏はいう。
CAのハードルは、実現のためには異なる周波数帯をふたつ用意しなければならない、という点にある。これは国から電波の割り当てを受けなければサービスを提供できない通信事業者にとってはきわめて高いハードルだが、UQが持つ連続50MHzの周波数帯は、そのための十二分なポテンシャルを持つ。
一方で、現在WiMAXに割り当てられている周波数帯を、WiMAX 2+に順次移行することが必要になる、という第2のハードルがある。
「WiMAXで使っていた30MHz帯のうち20MHz帯をWiMAX 2+に割り当てることによって、CAを実現します。一方で、10MHz帯になったWiMAX通信は下り最大13.3Mbpsまで通信速度が下がります。だから、今WiMAXをご利用中のお客様には、現在実施中の「史上最大のタダ替え大作戦」をご利用していただき、できるだけ早期にWiMAX 2+サービスに移行していただきたいと考えています。
もちろん、周波数帯の移行は、WiMAX利用者の方々にはご迷惑をおかけしないように、WiMAXの利用率が低くなり、10MHzになってもWiMAX通信の快適度に支障が出ないと判断した上で行なっていきます。ただ、WiMAXを使っていただいているお客様はデータ通信を快適に使いたいと思っているでしょうから、WiMAX 2+に乗り換えることで、もっと快適になることを知っていただきたいのです(要海氏)」
CAの対応エリアについては基地局単位で移行していくことになる。その最初のエリアとして選ばれたのが栃木県の真岡市だ。
「このエリアはすべての基地局がWiMAX 2+対応で、さらにCA対応を完了しています。UQ社内で2波化の基準を決めて、WiMAXのトラフィック量がこれを下まわると一部帯域をWiMAX 2+に移行しても問題がない、という指標をクリアしていたんです。基準に合うエリアは基地局単位ではいくつかあったのですが、周りのエリアから独立しているというところが重要でした。同じ周波数帯でWiMAXとWiMAX 2+が混在すると、干渉して本来の速度が得られなくなってしまうからです。こんな事情もあり、CA対応は全国いっせいにできないことが悩みの種ですね」(要海氏)。
エリアのCA対応は、ユーザーのWiMAXからWiMAX 2+への移行の進捗をみながら順次進んでいくが、要海氏によれば、気になる首都圏の対応は、ちょっと先になりそうだ。
「1年間はかからないはずです。が、東京都が難しいですね。いずれにしても、首都圏は一斉にということになるでしょう。そうしないと、先ほど申し上げた電波干渉が懸念されるからです。」
技術的には難しいところはなかったというCAだが、実際の展開に際しては、これからが大変だとのこと。4×4 MIMOの「産みの苦しみ」に対してCAは「育てる苦しみ」と要海氏は表現する。
ちなみに、「ヤ倍速」化されたWiMAX 2+だが、220Mbpsといってもそれは理論値だ。実際、220Mbpsの実効速度はどのくらいの体感速度なのだろうか。
要海氏は、混雑や反射物の量などが影響するとした上で、基本的には、現在出ている速度がほぼそのまま倍になると考えてよいとのことだ。ちなみに、要海氏の自宅で測定すると現在下り70Mbpsくらいなので、倍速後は下り150Mbpsに迫る速度が期待できるそうだ。
ついにWiMAX 2+のエリアはWiMAXに追いついた
CA対応という課題は別として、WiMAX 2+自体のエリア展開は、現在どんな進捗なのだろうか。
WiMAX 2+がサービスインしたのは2013年10月。当初、500局からスタートした基地局は、2015年2月に20,000局を達成している。そして2014年度末にはWiMAX 2+のエリアがWiMAXに追いつく。
これは、当初のUQの抱いていた計画通りの展開といえる。つまり、現時点でWiMAXを使える地域で、ほぼ確実にWiMAX 2+を使えるようになるのがこの年度末のタイミングだ。
また、完全新規の基地局ももちろん建設されている。直近では、石垣島にWiMAX 2+基地局ができた。WiMAXをサポートせず、WiMAX 2+のみ対応の、全国でも珍しい基地局だ。ここにUQの覚悟が感じられる。
公共の場所を中心とする屋内対策については、新開発の小型基地局などを使い、低コストで素早く対応できる体制を整えているとのことだ。地下鉄に関しては、列車の運行時間帯に工事ができないといった制約や、安全の問題で難しいなどのハードルがあり、通常よりも時間はかかる傾向があるそうだが、光ファイバー等がすでに敷設済みで、それを活用できることで、初めて基地局を作るよりは難度は低いともいう。早期の整備を期待したいものだ。
「下り1Gbps」はすでに見えている
第一世代のWiMAXがサービスインした2009年当時、3GではHSPAがまだ出始めたころで、最大14.4Mbpsの通信が関の山だった。しかも、世の中の端末は、その半分の7.2Mbpsしかサポートしていなかった。その時点で40Mbpsのサービスを始めたUQのWiMAXは画期的ともいえる革命をモバイルネットワークの世界にもたらした。
「当時、WiMAXに匹敵するサービスは当面出てこないだろうと思っていました。でも、結果的には2011年にLTEが37.5Mbpsから始まり、今、150Mbpsですよね。振り返ると、6年で実に5倍以上の速度が実現されています。そこだけ見ても相当な速度で通信システムが進化していることがわかります。」(要海氏)
これからのWiMAX 2+にしても、さらなる速度向上が、これまでにないペースで進むという。
「今後の速度アップにおいては、今回実現した4×4 MIMOとCAを組み合わせることができます。また、WiMAX 2+はグローバルなTD-LTE互換の技術を採用していますから、当然、その流れに乗っていきます。そこで見えているのはまず、変調方式の改善です。」(要海氏)
まず確実なこととして、CAと4×4 MIMOに両対応する端末が登場すれば、下り440Mbpsが実現する見込みだ。
さらにその後の速度向上のキーポイントとしては、ふたつの要素がある。ひとつは現在の64QAM変調方式を256QAMまで拡張することだ。それで効率が30%程度あがり、440Mbpsから約580Mbpsまでスピードアップする。
加えて8×8 MIMOを導入すれば、最終的には1.16Gbpsまで向上させることができるところまで見えている。
「WiMAX 2+はそうしたテクノロジーを着実にフォローしていきます。次世代では5Gということで、すでに業界では検討が始まっています。違う領域での拡張が起こるのではないかとも言われていますが、それがどういうものになるか、具体的に言えるようなところまでは達していません。いろんな検討が併行して進んでいる状況です。
世の中の動きとしては、特別に作ったものを専用品として用意してもすごくコストがかかるので、技術観点ではおもしろくても、それを廉価に提供するというUQの使命を考えると採用は難しいでしょう。だから汎用技術をうまくとりいれ、世界標準からはずれることがないようにしていきたいと考えています。それでいて、4×4 MIMOのように、まだトレンドになっていないけれども、今後普及していく技術をいちはやく実現するアプローチを継続したいですね。」(要海氏)。
(Reported by 山田祥平)
関連リンク
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