こんなに違う!ブルーレイの魅力
 自宅で映画を見る時、みなさんは「なにで」見ているだろうか? 「もちろんブルーレイ」と答える筆者のような存在は、まだ多数派とはいえないかも知れない。

 「映画は映画でしょ。レンタルでもセルでもDVDビデオがたくさんあるんだから、買い換えなくてもそちらでいいんじゃない?」

 そんな風に思っている方。
 それはちょっと、いやかなりもったいない。
 確かに、ストーリーは変わらない。

 でも、DVDビデオとブルーレイでは、同じサイズの円盤なのに、クオリティや情報量が段違いなのである。実のところ筆者は、ブルーレイ発売以降、ブルーレイがあるタイトルについては、もうブルーレイしか買っていない。

 「高画質・高音質」と言うが、具体的にどのくらい違うのだろうか? その点を、ワーナーのブルーレイ・タイトルで確認してみよう。

ブルーレイロゴ ブルーレイは俗にいう「次世代DVD」。規格争いも遠い昔の話となり、新作がDVDとブルーレイの両方で発売されるのも、ごく普通のことになっている。

 じゃあ、DVDとブルーレイはどう違うのか? 技術的にとにかく簡単に言えば、「容量がでかい」の一言になる。

 DVDもブルーレイも、デジタルデータを記録した光ディスクであることに変わりはない。しかし、1990年代に作られたDVDは、一般的な市販DVDビデオ(片面二層DVD-ROM)で8.5GBしか入らないのに対し、2000年代の技術で作られたブルーレイ(片面二層BD-ROM)は、その約5.9倍にあたる50GBもの容量がある。

 容量が大きければ、それだけ解像度が高く、より容量の大きな映像が収録できる。音楽にしても、品質の高いものを収録できる。要は「容量=高画質・高音質」、というわけだ。

 一般に「ブルーレイはハイビジョン、DVDは標準画質」と言われる。その本質は、ハイビジョン映像は標準画質に比べ容量が大きく、収録するにはDVDは狭すぎる、ということだと考えればいいだろう。

 だがそれでも、まだその効果にピンと来ていないかも知れない。

 「最近はMPEG-4/AVCなどの圧縮技術も進化して、『DVDにハイビジョンを記録』を謳うブルーレイ・レコーダーも増えている。なら、ブルーレイとの差は小さくなっているんじゃないの?」と。

 それが違うのだ。特に、市販のブルーレイ・タイトルとDVDでは。

 最新の圧縮技術と光ディスク技術の組み合わせは、映像のクオリティを一気にDVDの時代とは違う次元へと引き上げているのだ。

 

映像ソース 解像度
DVD 720×480
地上デジタル放送 1440×1080
ブルーレイ 1920×1080
 ハイビジョンは、アナログ放送やDVDビデオに使われる標準解像度に比べ精細な映像が見られる。

 でも、「精細」であることの意味ってなんなのだろう。

 細かいところまではっきり見えること、と解説されることが多いが、それは正確ではない。

 むしろ、とても大切なのは「ニュアンス」がよりリッチに表現される、ということである。

 それでは、実際の例で説明していこう。

 例えば映画「300」のワンシーンで、荒れる海に群れなす大軍を表現している場面があるが、DVDとブルーレイでは、その印象が大きく異なる。荒れ狂う空と波、そこで翻弄される船、という要素は同じでも、荒波の「荒さ」がくっきりと感じられる分、ブルーレイには「厳しさ」がひしひしと伝わってくる。他方、ディテールがつぶれてしまっているDVDでは、印象が薄まっている。

 キャストが演技しているシーンでも同様だ。汗と泥、返り血にまみれ、絶望的な戦いを繰り広げているクライマックスでも、DVD版の印象はどこか「薄い」。ブルーレイからは、監督が映像に込めたニュアンスがしっかりと伝わってくる。それは、単にきれいになったのではなく、映画館で上映されたマスターの持つ感触を「そのまま再現する」よう、努力がなされているからである。

 300は、もともと映像にCGエフェクトを多くかけ、グラフィック・ノベル的な効果を重視している作品だ。その命はディテールに宿っており、ディテールの再現性が、映画としてのクオリティに大きく影響している。

 DVDビデオ版は解像度が低いだけでなく、古い圧縮技術であるMPEG-2を使っているがゆえに、色情報の一部が失われている。ブルーレイでは緻密な肌の凹凸であったものが、虹色の圧縮ノイズに隠れ、べた塗りの質感に変わってしまうシーンも少なくない。

 ブルーレイのハイビジョンを知らないときは、それが「手に入る限りの本物」だと思っていた。だが、ブルーレイがある今、DVDビデオ版は、映画の持っていた魅力の一部しか与えてくれなかった、とわかってくる。

 同様に、DVD版とブルーレイ版がはっきりと違うのが「ダークナイト」。バットマンシリーズ、いや、ヒーローを描いた映画の中でも最高傑作ともいえる作品だ。劇場公開時は、IMAX撮影を使った精緻で開放感のあるシーンと、夜の闇が作る、陰影の強いシーンのコントラストも印象的だった。だが、DVD版ではIMAX撮影シーンとそうでないシーンの差がわからなくなっており、光と影の表現も、暗い部分がつぶれた、コントラスト感のない映像になっている。ストーリーのすばらしさは同じでも、キャラクター達の抱える「闇」を思わせる光の描写は感じられない。だが、ブルーレイ版ではそれがきちんと再現され、家庭のテレビでも胸に迫ってくる。

 CG全盛以前の、古い映画でも、ブルーレイの効果は発揮される。SF映画の名作「ブレードランナー」の魅力の一つは、蒸気とスモッグ、東洋的なガジェットに彩られた退廃的な世界観だ。幾多の映像・ゲーム・小説に影響を与えた原点だが、その劇場公開時の姿は、DVDビデオ版では、すべてを体験することは難しい。しかも、ブレードランナーは陰影の強い作品で、周囲がはっきり見えてこないシーンも少なくない。

 ブルーレイ版では、有名な「強力わかもと」の広告からピラミッド状のタイレル社屋のディテールまで、その世界観がしっかりと堪能できる。そして、DVD視聴時には気づかなかったような「思わせぶりな、細かななにか」も、ブルーレイならばいくつも見つかるだろう。筆者はVHSからLD、DVDまで、すべての媒体でブレードランナーを見ている「マニア」だが、それでもやはり、ブルーレイ版では新たな発見があった。そのくらい「映画館のマスターが持っていたはずの情報」が手に入る、ということなのだ。

 

アマデウスアマデウス
 ブルーレイで大切なのは映像ばかりではない。むしろ、はっきりと違うのは「音」の方だ。

 DVDビデオでは、5.1chのサラウンドこそ実現していたものの、映画館の持つ「圧倒的な音の力」は再現が難しかった。特に、ミュージカルやライブなどの「音楽を主体とする作品」では、その違いがはっきり感じられる。

 ブルーレイでは、DVDやCDと違い、圧縮のためにどこかの音を切り捨てたりしない「ロスレス」音声が楽しめる。例えば「アマデウス」では、宮廷音楽の弾むようなタッチ、サリエリの心象を表す劇伴の繊細さが、DVDよりも豊かになっており、クラシックファンのみならず、映画ファンの心を打つ。その違いを楽しむためには、スピーカーやAVアンプへの投資が必要となるが、それだけの価値はある。なにより、「切り捨てていない音」を持てる、ということは、大きな魅力だ。

 また、実は筆者は日本語吹き替えの大ファンなのだが、DVDビデオ時代には、廉価版や初期のタイトルの場合、コストや容量の問題で、日本語音声がカットされたり、サラウンド収録が見送られたりすることも少なくなかった。だがブルーレイでは、吹き替え版がカットされることは減り、さらに、原語版に近い仕様で音声が収録されることも増えている。この点は、「映像を買った人」ならではの特典といえるかも知れない。

 

 高音質・高画質、という言葉で語るのは簡単だ。だが、精緻に作られたブルーレイ・タイトルは、単にきれいにするのではなく、「映画館のテイスト・ニュアンス」を忠実に残し、音声や字幕、追加コンテンツの面で「映画館以上の体験」を目指している。

 一度ブルーレイの魅力にとりつかれると、「もうブルーレイしか買いたくない」と思うようになる。しかも今回ワーナーは、4月21日より、ブルーレイの価格を大幅に下げてくる。

 DVDビデオと同じような価格ならば、やっぱりブルーレイを買いたい、というのが人情。どうせライブラリーとして持っておくなら、「映画監督が残したかったもの」に、できる限り近いものを持っていたいじゃないですか。

【著者プロフィール】
西田宗千佳


1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「iPad VS. キンドル日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)、「iPhone仕事術!ビジネスで役立つ74の方法」(朝日新聞出版)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。