無線LANアクセスポイントは一家に2台以上の時代に!
ネットギア トライバンド・ホームWiFiシステム「Orbi」
2017/01/13 清水理史
ネットギアから2017年以降の無線LANのトレンドを先取りした無線LAN製品「Orbi」が登場した。ルーターとサテライト、2台の機器を設置することで、家庭内の隅々まで通信をカバーできる製品だ。その実力を検証してみた。
複数台アクセスポイントを家庭でも
企業向けの無線LANシステムと同様に、ついに家庭でも複数台のアクセスポイントを活用する時代が到来しそうだ。
ネットギアジャパンは、「世界初のトライバンド・ホームWiFiシステム」として、新製品となる「Orbi(オービ)」の発売を国内で開始した。
Orbiの最大の特徴は、見た目がそっくりな2台の本体がセットで販売されること。前述したように、企業などでは広いフロアを無線LANでカバーするために、複数台のアクセスポイントが設置されるケースが一般的だ。これと同様に、家庭内に2台のアクセスポイントを設置することで、これまで1台でカバーしきれなかった隅々まで、通信エリアとしてカバーできるようにしてしまおうというのが、Orbiの狙いとなる。
ネットギア「Orbi」。通信機器らしからぬデザインとパッケージ
ルーターとサテライトの2台セットで広いエリアをカバーするメッシュ対応の無線LANルーター
同様のコンセプトの製品はGoogleなども発表しているが、Orbiのアドバンテージは「トライバンド」に対応していること。
詳細なメリットは後述するが、ルーターとサテライト、それぞれの機器がそれぞれ5GHz+5GHz+2.4GHzの3つのバンドを同時に利用可能になっており、家庭内にあるPCやスマートフォン、家電などの接続とは別に、独立した5GHz帯の中継専用バンドを確保可能となっている。
これにより、単に2台のアクセスポイントで広いエリアをカバーするだけでなく、無線ネットワークに接続した機器のスループットを最大限に発揮できるように工夫されている。 もちろん、同じようなネットワークは、複数台のアクセスポイントを購入してローミングさせることで実現することは可能だ。
しかし、Orbiなら、帯域だの、チャネルだの、干渉だの、SSIDだの、ローミングだの、面倒なことは一切考慮しなくていい。
最初からセットで設定済みの本体を箱から取り出して、任意の場所に設置し、簡単な初期設定をするだけで、最適な無線LANネットワークを自動的に構成することが可能だ。
中継機との違いは?
「わざわざ同じ機器を2台使わなくても、中継機でいいのでは?」
そんな意見も聞こえてきそうなので、中継機との違いをまとめておこう。ポイントとなるのは以下の3点だ。
- 設置場所の自由度が高い
- 高い通信速度を確保できる
- 同じSSIDでシームレスにつながる
まずは、設置場所だが、多くの中継機はコンセントに直接接続するタイプとなる。家庭内のちょうどいい場所にコンセントがあればいいが、そうとも限らない。Orbiは、ケーブルの届く範囲に限られるが、コンセントから離れた場所にも設置できるメリットがある。
続いて、通信速度の高さは、先に少し触れたトライバンドに対応している点が大きく影響する。以下の図は、現状、ネットギアから販売されているハイエンド無線LANルーター「R8500」と中継機「EX6120」を組み合わせた場合の使用帯域と理論上の最大速度の図だ(スペックは本セクション最後の表を参照)。
たとえば、1階と2階を中継機で接続する場合を考えてみよう。この場合、中継機となるEX6120(2階設置)は、最大866Mbpsまでの対応となるため、1階のR8500がいくら2166Mbpsに対応していたとしても、2階の機器の最大速度は866Mbpsに制限されてしまう。
また、利用できる周波数帯も問題になる。図の矢印の色は、通信に利用する周波数帯を表していると考えてほしい。たとえば、1階のR8500は、トライバンドに対応しているため、赤とえんじ、黄色の3本の矢印が同時に通信できることを示している。
これに対して2階のEX6120は、デュアルバンド(866Mbpsの5GHz+300Mbpsの2.4GHz)にしか対応していない。問題は、赤の5GHz帯の部分だ。
R8500との中継用に5GHzを利用した場合、2階に設置した機器との接続にも5GHz帯を利用してしまうと、同じ帯域を使うことになり、この間の通信速度が半分(866Mbsの半分で433Mbps)になってしまう。
2.4GHzは周波数帯が異なるため、この影響はないが、もともと最大速度が300Mbpsなので、いずれにせよ中継部分の866Mbpsの帯域をフルに使うことができない。仮に2.4GHzの端末と5GHzの端末が同時通信すれば、300+433Mbpsの帯域を433Mbpsの帯域で中継しなければならないので、完全にボトルネックになってしまう。
これに対して、Orbiを利用した場合が以下の図になる。
Orbiでは、1階のルーター、2階のサテライトともに5GHz帯を2系統ずつ利用できるうえ、そのうちの一系統(最大1733Mbps)を中継専用に利用できる。このため、2階で5GHz帯に機器を接続したとしても(茶色)、別のバンドでの通信となるため、その通信が中継部分(赤)に影響を及ぼすことがない。
それだけでなく、図のすべての矢印が異なる色(つまり異なるバンド)を使い分けるため、すべての通信を同時に実行できるうえ、2階で2.4の400Mbpsと5GHzの866Mbpsを同時に使ったとしても、その合計は中継部分の1733Mbpsより低いため、中継部分がボトルネックになるようなこともない。
中継部分は1733Mbpsが最大速度だが、433Mbpsの通信4ストリーム分と考えることもできる(MU-MIMOにも対応している)ため、複数台の端末の同時通信も問題なく捌くことができるというわけだ。
最後に、SSIDについてだが、上の図で示したとおり、EX6120では親機側と異なるSSIDが設定されるため、基本的に1階につなぐのか2階につなぐのかをユーザーが判断する必要があるうえ、1階から2階に移動する場合も切断と接続という切替が必要になってしまう(もちろん、電波が弱い状態で別フロアにつなぎ続けることも可能だが……)。
これに対して、Orbiは、ルーターとサテライトで同じSSIDを利用するため、ユーザーが接続先のSSIDを使い分ける必要はない。1階から2階へのローミングも自動的に行われるため、端末を持ってフロアを移動してもシームレスに接続することが可能というわけだ。
このような点からも、単なる2台セットではなく、従来のソリューションとは発想がまったく異なる新しいWi-Fiシステムであることがわかるだろう。
Orbi | R8500 | EX6120 | |
---|---|---|---|
実売価格 | 45,800円(2台) | 43,791円 | 3,615円 |
最大速度(5GHz) | 1733+866 | 2166+2166 | 866 |
最大速度(2.4GHz) | 400 | 1000 | 300 |
アンテナ | 内蔵 | 外付け×4 | 外付け×2 |
MU-MIMO | 〇 | 〇 | 〇 |
サイズ(幅×奥行×高さmm) | 170.3×78.9×225.8 | 316×264×61 | 55.17×67.17×39 |
設置や設定は簡単
それでは、実際の製品をチェックしていこう。
本体は、見た目がシンプルなので、写真ではコンパクトな印象を受けるが、実際に手にすると、やはり無線LANルーターとして一般的なサイズであることを実感させられる。
しかしながら、横置きが主流の海外製ルーターとしては珍しく、縦置きとなるため、設置面積が圧倒的に小さくて済む。壁際やちょっとした棚などに無理なく設置できるうえ、アンテナ内蔵で縦横すべての方向に対して無駄な出っ張りがないので、設置に苦労することがないだろう。
白を基調としたすっきりとしたデザインもあり、実際に設置してみると、思った以上にコンパクトで威圧感をほとんど感じさせない製品だ。
正面
側面
背面
実際に設置した様子。本体サイズはそこそこ大きいが、設置面積が小さく、邪魔なアンテナもない。デザインもスッキリしているため、非常に「なじむ」デザイン
セットアップは、非常に簡単、というか、ほとんど何もしなくていい。
箱から2台の機器を取り出し、まずルーター側を設置する。本体背面の「INTERNET」ポートに既存のルーターと有線LANで接続し、電源を入れればいい。
その後、サテライトを取り出し、家庭内で通信を中継させたいポイントに設置して、電源を入れる。しばらくすると、自動的にルーターに接続され、本体上部のリングが青く点灯する。
サテライトは設置後しばらくすると自動的にルーター側と接続される。接続状況は本体上部のリングの色で確認可能。青なら良好
基本的には、これだけで設定は完了だ。もちろん、インターネット接続の設定が必要になるが、基本的に接続した回線に合わせて自動的に構成される。PPPoEでユーザー名とパスワードが必要になる場合のみ、設定しておけばいいだろう。
なお、ルーターには、ペアレンタルコントロール機能やVPNサーバー(OpenVPN)、ダイナミックDNS、USBファイル共有などの機能も搭載されている。機能的には、同社製のほかの無線LANルーターと同等なので、高度な使い方をしたい場合にも満足できる仕様となっている。
あとは、PCやスマートフォンからふつうに無線LANに接続するだけだ。WPSを利用して接続することもできるが(背面のSyncボタン使用)、ネットギアの無線LAN機器は接続用のパスワードが一般的な単語と数字の組み合わせで覚えやすいので、本体に記載されているパスワードを手動で入力して、簡単に接続することができる。
また、スマートフォン用のアプリ「Netgear Orbi」も利用可能となっている。このアプリを利用することで、Orbiの初期設定を実行したり、サテライトを追加したり、接続状況を確認することなどができる。PCレスでも日常の管理に支障はない。
その効果はいかに
実際の効果だが、かなり優秀だ。以下は、木造3階建ての筆者宅で、1階にOrbiのルーターを設置し、2階にサテライトを設置した場合に、各フロアでiPerfによる速度を計測した結果だ。
今回は、Orbiの効果を見るために、3階での計測がなるべく遠くなるように設置場所を工夫した。具体的には、以下の図のように、1階の東側の端、床の上に直にルーターを設置し、2階は西側の窓際、3階は1階のルーターから対角線上に、もっとも遠くなる3階の西側の棚の上に、それぞれPCを配置して速度を計測している。
結果を見ると、Orbiの効果がよく発揮できていると言える。
まずは、グラフのブルーのバーに注目してほしい。これは、サテライトなしの状態(Orbiルーター単体)で動作させた際の速度だ。1階の同一フロアでは555Mbpsという非常に高い速度で通信できているが、2階で76.7Mbpsに落ち込み、3階では24.8Mbpsでしか通信できない状況であった。
これに対して、Orbiのサテライトを稼働させた場合(オレンジのバー)では、2階で404Mbpsと1階と比べても遜色のない速度で通信できているうえ、3階のもっとも離れた場所でも200Mbps近い速度で通信できている。
1階から3階までの距離が、サテライトを2階に設置したことで、グンと近くなった恩恵が見事に表れていることになる。
なお、サテライト利用時に2階の計測結果が、1階と同等(100Mbpsほど低いだけ)になっているのは、まさにトライバンド対応のメリットが表れた格好だ。クライアントと中継の両方に同じ5GHz帯を使う一般的な中継機であれば、理論上、2階の結果が半分ほどになるはずだが、Orbiでは中継部分に専用の5GHz帯を使えるため、5GHz同士の干渉を意識しなくて済む。
現状、無線LANの通信速度の低さに悩んでいる場合は、十分に改善が期待できると考えていいだろう。
ただし、今回は2階の中間地点にサテライトを設置したが、実際には、サテライトを設置する場所をいろいろ変えて、最適な場所を探し出す必要がある。単にルーター側との距離だけでなく、クライアントとの距離も考慮して配置しないと、Orbiの実力をフルに発揮できない場合もあるので注意が必要だ。
サテライトをシームレスに管理可能
なお、Orbiでは、ネットワーク上の複数台の機器を管理することが前提となっているため、その管理も簡単にできるように工夫されている。
たとえば、無線LANのSSIDやパスワードを変更する場合だが、基本的にルーター側の設定のみ変更すればいい。ルーター側の設定画面で値を変更すれば、自動的にサテライト側にもその変更が適用されるため、2台の機器を個別に設定しなくて済む。
同様にファームウェアの管理も非常に楽だ。
従来のWDS接続や中継機などでは、2台の機器のファームウェアのバージョンを個別に管理する必要があったため、主に中継側のファームウェアが古いまま放置されるようなことも珍しくなかったが、Orbiではルーター側のファームウェア管理画面からサテライトのファームウェアのバージョンも確認可能となっており、「すべてアップデート」をクリックするだけで最新バージョンがあれば、その場で両方ともアップデートすることができる。
日本では、2台以上サテライトを追加(計3台以上)するシーンはほとんどないと思われるため、2台の組み合わせでは中継機的なイメージがどうしてもぬぐい切れないが、こういったあたりこそメッシュならではのメリットと言えそうだ。
なお、1点惜しいのは、ルーターの「接続デバイス」画面で、現在接続されている端末を確認できるのだが、ルーターとサテライトのどちらにつながっているのかを確認できない点だ。
サテライト側の設定画面を開けば、2.4GHzと5GHzのどちらに端末がつながっているかを確認したり、サテライトに接続されているデバイスの一覧を表示することができるのだが、ルーター側からは、これらの区別ができない。
実質的に、区別できるようにするメリットがないと言えばその通りだが、せっかく2台あるのだから、どちらに何がつながっているのかが「見える」ようになっていてくれたほうが面白味がある。
クライアントがルーターとサテライトのどちらにつながっているのかがわかりにくい
サテライトのステータス画面。この画面を拡張するようなイメージで、ルーターと何Mbpsでつながり、クライアントがどの周波数帯に何台つながっているのかが見えるようになるとよりうれしい
後から悩むくらいなら最初からOrbiを
以上、ネットギアから登場した「Orbi」を実際に使ってみたが、無線LANの通信エリアを拡大する効果は非常に大きいと言える。
その割に、小難しいことを考えずに済むのがOrbiのいいところで、設置や設定はほぼ不要で非常に手軽に利用できる。
サテライトの設置場所に若干悩むが、サテライト上部のランプの状態でルーターとの通信状態を確認できるので、これ(とクライアントの距離)を考慮して設置するといいだろう。
唯一の難点は、2台セットとは言え、4万円オーバーとなってしまう価格だが、多くの環境ではハイエンドルーター1台よりも通信エリアを拡大できる可能性が高いことを考えると、決して高い投資ではない。
そこそこの性能の無線LANルーターを購入後、やっぱり速度が遅いとハイエンド製品に買い換えたり、後から中継機を追加することなどを考えれば、手間がかからない分だけ、むしろ安いと言える。
古いIEEE802.11nの無線LANルーターの買い替えを検討している場合などは、まさにうってつけの製品と言えるだろう。
(清水理史)
関連リンク
- トライバンド・ホームWiFiシステム「Orbi」
- https://orbi.netgear.jp/
- Nighthawk X8 R8500
- http://www.netgear.jp/products/details/R8500.html
- ワイヤレスエクステンダー EX6120
- http://www.netgear.jp/products/details/EX6120.html