5GHz帯を2系+LAGでボトルネックを解消へ
ハイエンド無線LANルーター「Nighthawk X8 R8500」
2016.5.23 清水理史
ネットギアから現状考えられる最高の性能を詰め込んだハイスペックな無線LANルーター「Nighthawk X8 R8500」が登場した。最大2166Mbpsの5GHz帯×2系統と有線LANのリンクアグリゲーションで複数無線LAN端末への高速伝送を実現可能する製品だ。その実力を検証してみた。
エンドtoエンドのボトルネックを解消
たとえば、NASに保存された動画を無線LAN経由で再生したい場合。
再生端末が1〜2台なら、一般的な1733Mbps対応のIEEE802.11ac準拠の無線LANルーターでも対応できるが、それ以上の台数になると、万が一、同時に再生するタイミングが発生すると、ちょっとキツイ……。
無線LANの帯域が台数で分割され1台あたりの帯域が少なくなるだけでなく、無線LANルーターにつながるその先、つまり有線LANの1Gbpsという帯域がボトルネックになり(再生する動画の品質にもよるが)、快適に動画を再生できない可能性があるからだ。
そんなことは滅多にないと思うかもしれないが、スマートフォンやタブレット、テレビ、PC、ゲーム機など、あらゆる端末が無線LANでつながる状況を考えると、動画再生やバックアップなど、複数台の無線LAN端末の大量通信がどこかに集中するケースというのは、実は日常シーンでは珍しくない。
そんな状況の中、ネットギアから登場したのが、このNighthawk X8 R8500だ。IEEE802.11ac準拠の無線LANルーターだが、そのスペックがすごい。詳しくは後述するが、無線LANは2166Mbps+2166Mbps+1000Mbpsと2系統の5GHz帯と1系統の2.4GHz帯を搭載しているうえ、6ポート搭載された有線LANポートのうちの2ポートを束ねるリンクアグリゲーションにも対応している。
これにより、無線LANに多くの端末を接続した場合でも1台あたりの帯域を多く確保できるほか、これまでボトルネックになりがちだった有線LAN部分も1000Mbps+1000Mbpsへと強化することが可能になった。
同じくリンクアグリゲーションに対応したNASなどを組み合わせれば、複数端末からの無線通信でも、1台あたりエンドtoエンドで通しで1000Mbpsを実現し、これまで問題になりがちだったボトルネックを解消することが可能となる。
目立つアンテナ
それでは実機を見ていこう。まずデザインで目に付くのは、そのサイズとアンテナだ。
本体サイズは幅316×奥行264×高さ61mmと、高さ(厚さ)を除けば13インチクラスの液晶を搭載したノートパソコンと、さほど変わらないサイズである。
ただし、デザインがシンプルだからだろうか? 設置してしまえば、意外なほど威圧感はない。以前のNighthawkシリーズは、多角形を組み合わせた独特のデザインで存在感が強かったのだが、その点では控えめな印象さえある。
アンテナは本体背面に4本搭載されているが、実際には内部4本+外部4本という構成になっており、背面にあるのが外部の4本だ。
この外部アンテナは、携帯ネットワークの基地局などでも採用されているアクティブアンテナとなっている。内部がアンテナ素子に加えて無線装置が一体化されているため、従来のようにアンテナ素子からの配線に起因する信号損失が発生しにくく、高い効率を実現可能。主に、信号強度が弱い離れた場所にある端末との通信環境を改善できるとされている。
実際に本体を設置して電源をオンにすると、アンテナの先端部がブルーに光るようになっており、いかにも役立ちそうな雰囲気もある。
インターフェイスは、側面にUSB2.0×1、USB3.0×1、背面にWAN×1、LAN×6を搭載し、前述したとおり、うちポート1〜2がリンクアグリゲーションに対応している。
価格は、2016年5月時点の実売価格で45,000円前後と、現在発売されているコンシューマー向けの無線LANルーターでは最高値となっているが、仮に、1024QAM採用で2166Mbps対応であることで1.2倍、5GHz帯が2系統あることを1.5倍、LAG対応のスマートスイッチ相当の機能を備えていること(+10,000円)と想定すると、16,000円前後の1733Mbps対応無線LANルーターをベースにした際、16,000×1.2×1.5+10,000=38,800円となる。アクティブアンテナの価値などを考えても、実質的な価値で考えれば妥当と言ってよさそうだ。
強烈な無線LAN性能
それでは、製品の特徴に迫っていこう。まずは無線LAN部分だが、4ストリーム対応のIEEE802.11acだが、変調方式に1024QAMを採用したことで、その最大速度は2166Mbpsとなっている(一般的な256QAMでは1733Mbps)。
しかも、この最大2166Mbpsの無線LANを2系統搭載しており、2166Mbps+2166Mbpsと、5GHz帯を使った通信を2系統同時に実現することが可能となっている。もちろん、2.4GHz帯もこれとは別系統として備えており(しかも1024QAM対応)、2166Mbps+2166Mbps+1000Mbpsでの通信が可能となっている。
たとえるならば、無線LANの親機3台分が1台にまとめられたようなものだ。
もちろん、一般的なIEEE802.11ac対応の無線LANルーターも5GHz帯と2.4GHz帯をそれぞれ1系統ずつ備えているので、同時に2系統の通信が可能となるが、Nighthawk X8 R8500はこれにさらに1系統、しかも干渉の少ない5GHz帯をプラスして使えるようになっている。
これまでの無線LANルーターでは、たとえば1733Mbpsの親機に4台のクライアントを接続した場合、同時通信で1台あたりに割り当てられる帯域は1733÷4の約433Mbpsとなるが、Nighthawk X8 R8500の場合、5GHz帯の2系統に端末を2台ずつ割り当てることで、2166÷2で約1083Mbpsの帯域を割り当てられることになる。
前述したように2.4GHzも1000Mbps対応なので、理論上の計算では、1Gbpsの帯域を最大で5端末に割り当てることができることになる。
一方で、有線LAN部分のリンクアグリゲーション(LAG)だが、これは先にも触れたように背面のポート1とポート2を利用する。
リンクアグリゲーションは、2系統の有線LANを束ねることで帯域を増やす技術だ。少々、表現が難しいが、単一の通信速度が1Gbps+1Gpbs=2Gbpsになるわけではなく、無線LANと同様に1Gpbs×2系統で合計2Gbps分の帯域を使えるという意味になる。
もちろん、これを利用するには、リンクアグリゲーションに対応した機器が必要になる。オフィスなどであればスマートスイッチを利用することになるが、身近なところでは2ポートのLANポートを備えたNASなどを接続できる。
Nighthawk X8 R8500は標準でポート1とポート2のLAGが有効になっているので、NAS側でリンクアグリゲーション(チーミングやポートトランクと記載される場合もある)を有効にし、実際にLANケーブルを2ポートに接続する。
これで、Nighthawk X8 R8500とNASの間の通信が、自動的にポート1、ポート2に振り分けられるようになり、たとえば、PC1とPC2から同時にNASにアクセスした場合でも、従来のように1Gbps÷2=500Mbpsずつではなく、それぞれ1Gbpsで通信できるようになる。
つまり、Nighthawk X8 R8500なら、NASから有線を経由し、無線LANで接続された端末まで、通しで1Gbpsの帯域を複数台の機器から同時に実現することも不可能ではないというわけだ(現状PCなどは866Mbpsが上限となるため1733Mbps/2166Mbps対応のコンバーターを利用する必要がある)。
パフォーマンスは上々
パフォーマンスに関しても問題はなさそうだ。木造3階建ての筆者宅にて、1階に設置したNighthawk X8 R8500に対して、各階で速度を計測した結果は以下のとおりだ。
本来であれば、同一機器を2台用いて対向で計測すべきだが、機器調達の都合上、クライアント側にはASUS EA-AC87(最大1733Mbps)とMacBook Air11(最大866Mbps)を利用していることをお断りしておく。
EA-AC87との相性の問題か、テスト中の最大リンク速度が1300Mbpsまでしか上がらず、1階でも最大696Mbpsとあまり高い速度は実現できていない。
しかしながら、アクティブアンテナの効果だろうか。2階で計測してもほとんど速度の低下がみられないほか、3階でも400Mbpsオーバーとなるなど、遠距離での通信結果は優秀と言ってよさそうだ。
続いて、リンクアグリゲーションの効果を検証してみた。利用するNASの性能にも左右されるが、手元のNAS(QNAP TS-241+)を利用して、866Mbpsと1766Mbpsの2台の無線LANクライアントから、同時にファイル(4GBのMEPG2映像ファイル)を読み込んだ際の値は以下のようになった。
まずは、「同一AP/1LAN」となっている項目に注目してほしい。両クライアントを同一のSSIDに接続し(つまり5GHz帯1系統のみ利用)、LAN側も1本のケーブルのみを利用してNASと接続した結果となるが、この値はやはり低くなる。
無線LAN1系統に同時通信が発生することで、スループットは単独時の約半分に低下し、トータルのスループット(18.7+49.4)も68.1MB/s(544.8Mbps)と有線の1Gbpsの半分程度にとどまっている。
同一フロアでこの結果なので、全体的に速度が低下する遠距離での通信では、867Mbpsのクライアントのスループットが10Mbps以下に低下する可能性が高く、高ビットレートの動画再生などがスムーズにできない可能性が高くなる。
これに対して、「個別AP/1LAN」では、有線側の条件は同じで、無線LANのみ5GHz帯を2系統利用し、それぞれのクライアントを個別に接続している。この場合、無線LANの帯域はどちらもフルに使えるようになる。
結果は、35.3MB/s+60.6MB/sと1766Mbpsのクライアントの帯域が60.6MB/sと物足りなかったものの、867Mbpsのクライアントの速度は先の結果の18.7Mbpsの倍近くとなっており、単独で通信した際と同等の結果が得られた。
最後に有線のリンクアグリゲーションも併せて有効にしたのが「個別AP/LAG」だ。この結果では、867Mbpsのクライアントはそのままの速度だったが、1766Mbpsのクライアントは95.5MB/sと単独通信のときと同等の速度を実現できた。
この結果からもわかるとおり、無線LANを分割するだけでなく、リンクアグリゲーションを併用すると、NASやサーバーなどの通信時に、複数クライアントからの同時アクセスが発生しても、速度の低下をかなり抑えられることがわかる。
接続クライアントが多い環境で、しかも大容量のデータを取り扱う機会が多い環境に最適だ。
付加機能や使いやすさも充実
以上、ネットギアから登場したNighthawk X8 R8500を実際に試してみたが、前評判に違わぬ実力の持ち主と言ってよさそうだ。
このほか、アプリケーションに応じて自動的に優先度を割り当てるDynamic QoSを搭載し、たとえばストリーミングとダウンロードが同時に発生した場合にストリーミングの優先度を上げて快適な通信を維持することなどができる。
また、USBポートに接続したストレージのネットワーク共有、インターネット経由でのストレージへのアクセス、OpenDNSを活用したペアレンタルコントロールサービス、VPNサーバーサービス(OpenVPN)などの機能も備える。
このほか、最近ではセキュリティ機能として訴求する製品も多い接続デバイスの一覧表示機能も当然のことながら搭載する。デバイスによってはiPadやMac、Androidなどのアイコンがきちんと表示されるほか、デバイスごとのダウンロード速度やアップロード速度も表示可能。前述したDynamic QoSと組み合わせることで、優先度を設定することも可能となっているなど、かなり多機能となっている。
ネットギアの無線LANルーターは、かつては機能がシンプルな印象があったが、年々、高機能化が進み、現在ではかなり豊富な機能が備えられるようになってきた。かといって、使いきれないほどの機能が搭載されているわけではないので、必要な機能を、必要なだけ、しかも使いやすく備えている印象だ。
スペック的には間違いなくハイエンドユーザー、もしくはオフィス向けの製品と言えるが、使いやすさという点では、一般的な家庭向けと言っても違和感がない製品だ。使いやすさという点でも安心できるだろう。
最後に安定性についてだが、フレッツ光ネクストへのPPPoE接続環境のルーターとして利用しつつ、PCやプリンター、タブレット、テレビ、ゲーム機など十数台の機器を接続して1週間ほど使ってみたが、特に不具合が発生することはなかった。海外メーカー製品でありながら、3年保証と充実しているのもネットギア製品の魅力なので、予算さえ都合がつけば、購入を検討したい製品と言えそうだ。
(清水理史)
関連リンク
- Nighthawk X8 トライバンド・ギガビットルーター R8500
- http://www.netgear.jp/products/details/R8500.html
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