ゲームをプレイするためのモニター、すなわちゲームモニターにとって、生命線ともいえるものは表示遅延の少なさだ。もともとゲームの映像はゲーム機から直接出力されるベースバンド映像であるため、一般的なテレビに搭載されるような信号処理を駆使した画質復活系の高画質化機能は言ってみれば不要なのだ。それよりはゲーム機からの出力映像をそのままなるべく"高速に"、そして"正確に"という方向性での高画質表示が望まれる。
ここでいう"高速に"というのは、表示遅延が少ない…という意味。
ゲーム機が映像を出力し、映像ケーブルを通してテレビやモニターに映像信号がやってくる。そしてテレビ/モニターに表示される映像を見てプレイヤーはゲームコントローラの様々なボタンやレバー操作をすることになる。ここで、もし、テレビ/モニター側で画面に表示されるまで時間がかかったとすると、映像が画面に出たときには、すでにゲーム進行が次に進んでしまっていて、プレイヤーが表示画面を見て入力した操作は手遅れということになる。よく、「今、夜空に輝いている星の光は何千年、何億年も前の光。だからこの瞬間にはあの星はもう存在しないのかも」なんて彼女にロマンチックな話をしたことがある人もいるかもしれないが、これと同じこと(比べる是非については置いておいて)がゲームとモニターの関係でも起こりえるのだ。
本当にそんなことがあるのか?…と思われそうだが、実例は結構ある。有名どころでは、とあるゲーム機メーカーでありテレビメーカーでもある有名電機メーカーがン年前に出したテレビシリーズで、映像処理に力を入れすぎた関係か、表示遅延がとても長い製品があった。筆者は、そのユーザーから相談を受けて見に行ったことがある。シューティングゲームをプレイしてみたが、たしかに操作してから自機が動くまでに明らかに一呼吸があってまともに操作できなかった。
Wiiや携帯ゲーム機のヒットに後押しされる格好で、最近ではゲームプレイはマニアだけのものではなく、身近なホームエンターテインメントになってきている。そこで、最近では、各社テレビメーカー、ディスプレイメーカーもこの「表示遅延問題」について真剣に取り組むようになってきているようだ。
PCモニターであり、AVマルチユースPCモニターとしての存在感を強くアピールした先代FlexScan HD2451Wは、当然、ゲームモニターとしての使い道もアピールしていた。第二世代としてモデルチェンジしたFlexScan HD2452Wでは、さらにこの表示遅延問題改善の取り組みがなされたようだ。
FlexScan HD2452Wにはゲームユーザーのための特別なモードとして「スルーモード」を搭載させたのだ。
スルーとはその名の通り、FlexScan HD2452W側の高画質化エンジン部をスルーする(Through;スキップする、飛ばすの意)モード。ナナオの発表によればこのスルーモード時は、表示遅延をスルーモードオフ時と比較して最大約2フレーム分(60分の2秒)短縮し、約1フレームに抑えることができるとしている。
スルーモードへの移行はFlexScan HD2452W付属リモコン上の[スルー]ボタンを押すことで行える。[スルー]ボタンを押すたびにスルーモードが交互にオン/オフされる操作系だ。
スルーモードはPC入力には適用できないが、コンポジットビデオ、Sビデオ、D4のアナログビデオ入力、HDMI入力に対して適用できる。
スルーモードの設定状態は各入力系統ではなく、FlexScan HD2452W全体で設定されるので、他の入力系統で別のビデオソースを楽しむときはスルーモードをオフにして高画質化処理を有効に戻すことを忘れないように。
このスルーモードの実力はどうなのか。
実際にゲームプレイで試してみることにした。
評価には、操作タイミングがシビアにスコアに反映されるリズムアクションゲームが最適と判断し「beatmania ⅡDX 14 GOLD」(ビーマニ)を選択。
ビーマニはプレイステーション2(PS2)用のゲームなのでFlexScan HD2452WとはD4端子で接続。
FlexScan HD2452Wに映像が表示されたことを確認し、スルーモードを有効化してみた。
ビーマニ画面の表示がスルーモードオンの状態になったことを確認。一般的な液晶テレビでは、インターレースをI/P変換してプログレッシブのフレームに変換して表示するため、I/P変換の実装の仕方によっては数フレーム分の遅延が発生する。FlexScan HD2452Wにおけるスルーモードでは動き適応型I/P変換が無効になることで遅延を排除しているわけだ。
逆に、もしDVDやビデオレコーダの映像をFlexScan HD2452Wで見るのならスルーモードはオフにしてやろう。スルーモードがオフであればインターレース映像はちゃんとI/P変換されて出力されるはずだ。
実際にビーマニをプレイしてみたところ、プレイに支障はなし。
ビーマニは画面上から落ちてくる音符(ノート)に対応した鍵盤をリズムに合わせて叩いて行く(スクラッチを指示するノートの場合はターンテーブルを回す)ゲームだ。
FlexScan HD2452Wでは、スクロールダウンしてくるターゲットノートが判定ラインに到達するタイミングと、音楽のリズムとがしっかり合致しておりプレイに違和感がない。このゲームでは、表示遅延のあるモニタでプレイしたときの違和感を抑えられるよう、ゲーム内で設定できるようになっているが、その設定を行わずともFlexScan HD2452Wのスルーモードなら、違和感なくプレイできた。
そして、このビーマニをプレイするにあたっては、落ちてくるノートの表示に残像が強くてはプレイが難しいわけだが、この点においてもFlexScan HD2452Wはがんばっている。FlexScan HD2452Wには、中間階調での液晶素子の動きが鈍るのを過電圧駆動するオーバードライブ回路が搭載されており、残像は最低限に抑えられているのだ。ナナオの発表によれば黒(0)→白(255)→黒(0)で16ms、階調レベル31-63-95-127-159-191-223での各応答速度の平均値は6msとなっている。1/60秒=16.66msなので、FlexScan HD2452Wの表示応答速度は60fpsの要求性能を満たしているのだ。
ちなみに、筆者がプライベートで所有している2004年製の某大手メーカー製液晶テレビ、そして最近仕事で評価した最新型の某大手メーカー製テレビと比較しても、FlexScan HD2452Wのスルーモードの方がビーマニはプレイしやすい。
この他、対戦格闘ゲーム、シューティングゲームなどもプレイしてみたが、FlexScan HD2452Wのスルーモードは遊びやすかったことを報告しておこう。
最近では、FlexScan HD2452Wと同コンセプトのPCモニターにマルチメディア入力を備えた製品は増えてきているが、FlexScan HD2452Wほど、ゲームプレイにシビアな作りをした製品はまだ少ないと思う。
そして最近は液晶テレビにも「ゲームモード」と呼ばれる画調モードを備えた機種も出てきているが、実は表示遅延については何の対策もなく、長時間視聴に適した画面輝度低減と階調調整をしただけの製品も中にはあると聞く。
FlexScan HD2452Wは声を大にして「表示遅延を約1フレームに抑えるモードを用意した」とアピールしているので、その点については間違いない。インターレース映像のI/P変換までバイパスするのだからホンモノだ。もちろん、スルーモードをオフにすればナナオがFORISで培った映像処理を通した高画質映像は楽しめるので別に高画質表示が苦手なわけではない。この点は誤解なきように。
それにしても、さすがは二世代目のAVマルチユースPCモニター。まさか徹底した表示遅延低減のようなマニアな機能を搭載してくるとは思わなかった。
(トライゼット西川善司)
(C)1999 2008 Konami Digital Entertainment Co., Ltd.
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