■インターネットが産んだ映画
さて『リリイ・シュシュのすべて』はその映画だけで一応完結した世界ではあるが、実はインターネット上のウェブサイトから生まれた映画である。この生い立ちは一風変わったモノであり、試み自体がかなり実験的なものなので、これを抜きにしてはこの作品を語れない。
2000年4月。まずインターネット・インタラクティブ・ノベルとして『リリィ・シュシュのすべて』は始まった。これはサティと名乗る人物が作ったリリイ・シュシュのファンサイト「リリイ・ホリック」という設定になっている。この中のBBS(掲示板)上では、渋谷のライブハウスで起こった事件と、時期を同じくして消滅したサイト「リリイフィリア」の謎について語られている。つまり、この架空のサイトそのものが小説となっているのだ。一般の読者の書き込みも取り込みながら、岩井俊二は複数のハンドルネームを使い分けて物語を展開していった。一般読者の書き込みの中には実際に映画の中に使用されているものもある。
現時点ではリンクははずされているが、 この“インターネットバージョン”の過去ログと、雑誌ananに掲載された“オリジナル小説版”は以前はこちらのサイトで読むことができた。この小説版では、第1章から第6章(volume.1~13)までは掲示板に集う人々の書き込みで構成されている。いかにもファンサイトらしいファン同士の交流やケンカ、ご丁寧に掲示板荒らしのような書き込みまで登場する。彼らの話題が事件の核心に近づいたところで、管理人以外の書き込みは遮断される。そして第7章から終章(volume.13~27)までは管理人の「サティ」なる人物ひとりの書き込みで事件に至るまでの全貌が語られる。つまり、この後半部
分が映画の原作となっているわけだ。
映画の内容がどうしても気になる、はやくストーリーを知りたい、という人はとりあえずこの小説版を読んでみるといいだろう。もちろんネタバレといえばネタバレなので、映画を完結したひとつの作品として楽しみたい、という方は読まないほうがいいだろう。個人的には、映画を観た後でじっくり読むことをオススメしたい。もっとも、小説版と映画版ではまったく違うエピソードになっている箇所も一部あるので、既に小説版を読んでしまった方でも「えっ、こんな展開になってしまうの」という意外性は用意されているので、ご心配なく。
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