vol.23『オーシャンズ11』 vol.22『プリティ・プリンセス』 vol.21『ピアニスト』 vol.20『アモーレス・ペロス』
vol.19『ハリー・ポッターと賢者の石』
vol.18『殺し屋1』
vol.17『ムッシュ・カステラの恋』
vol.16『インティマシー』
vol.15『Short6』
vol.14『メメント』
vol.13『GO』
vol.12『赤ずきんの森』
vol.11『ドラキュリア』
vol.10『陰陽師』
vol.9『サイアム・サンセット』
ウディ・アレンの辞書には「枯れる」という言葉はないようである。今年で65歳になるウディ・アレンだが、ほぼ年に1本というハイペースで新作映画を発表し続けているだけでなく、1997年に39歳も年下の元養女と結婚するなど、私生活でもバリバリ現役。また、ジャズクラリネット奏者としての顔も持っているスーパー部長、じゃなかった、スーパー映画監督である。『セレブリティ』、『ギター弾きの恋』など、新作を発表する度にまったく違うタイプの作品を私たちに提供し、ファンをお楽しみ袋を開くような気持ちにさせてくれるウディだが、そんな彼の監督31作品目に当たるこの『おいしい生活』は、中年泥棒夫婦のドタバタ劇を描いた、コメディの王道的作品。そして、スピルバーグ率いるハリウッドの王道(?)ドリームワークスが配給し、アメリカで大ヒットを記録、フランスでも初登場一位を獲得している。 ストーリー自体はよくある話といえばよくある話で、銀行強盗を企てたおとぼけ夫婦とその仲間たちがひょんなことで大金持ちになるのだが、ただお金だけを手に入れて、マイアミでのんびりと過ごしたかったレイと違って、芸術家のパトロンになったり、社交界にデビューしたりと、上流階級の仲間入りを強く望むフレンチーとの間には序々に亀裂が走りはじめる。そこにフレンチーのお金目当てに近づくイギリス人アートディーラーのデビッド(ヒュー・グラント)や天然ボケキャラのフレンチーの従姉妹メイ(エレイン・メイ)などが絡み、珍騒動を繰り広げるていく。 ウディ自身も語っていることだが、本作では彼は徹底的に娯楽作品を作ることに専念したようである。もちろん、本作品にも「理想を実現させても、物事はそうそう思った通りに運ばない」といったテーマは存在するし、フレンチーが陥る成金悪趣味の世界などの描写はかなり笑える風刺となっている。しかし、ストーリーは捻りがないといってしまえるほどシンプルだし、主人公のレイは徹底的なダメ男である。『アニー・ホール』等の作品でウディが演じたようなインテリの香りは微塵も感じられないし、強烈な批判精神、毒などは存在しない。純粋に万人受けするコメディ作品を目指したといえるだろう。
とにかくセリフのシャワーである。ウディ扮するレイとトレーシー・ウルマン演じる毒舌妻フレンチーはしゃべるしゃべる。強盗するより、二人でコンビ組んで漫談にデビューしたらいいんじゃないの? と思うくらいのユーモアあふれる軽快なトークを最初から最後まで続ける。また、従姉妹役のメイを演じるエレイン・メイのおとぼけ演技がサイコー。彼女はこの役で2001年度全米批評家協会賞最優秀助演女優賞を受賞している。レイの泥棒仲間に『ブロードウェイと銃弾』、『地球は女で回っている』等、昨今のウディ作品に立て続けに出演しているトニー・ダロウ、『ハピネス』、『ウェディング・シンガー』のジョン・ロヴィッツ、『誘惑のアフロディーテ』のマイケル・ラパポートが扮し、これまたいい味を出している。また、『ノッティングヒルの恋人』、『フォー・ウェディング』など、真面目でお人よし系キャラのイメージがすっかり板についたヒュー・グラントが計算高く、野心家なディーラーを演じているのも嬉しい。 ところでこの映画の邦題はどうして『おいしい生活』なんだろ(原題はSmall Time Crooks)。『おいしい生活』と聞くと、どうも糸井重里の顔とかが浮かんでしまうのだが(トシがばれる?)、フレンチーが成金になってから送る、中身のない贅沢三昧・悪趣味三昧の暮らしが80年代のバブリー日本と通じるからとか?? まあそれはさておき、秋が似合うウディ・アレンの新作コメディ、デートの1本に加えてみてはいかがだろうか。
9月、恵比寿ガーデンシネマにてロードショー 監督・脚本:ウディ・アレン 製作:ジーン・ドゥーマニアン 製作総指揮:J・E・ボーケア 共同製作総指揮:ジャック・ロリンズ、チャールズ・H・ジョフィー、レッティ・アロンソン 共同製作:ヘレン・ロビン 撮影監督:チャオ・フェイ 出演:ウディ・アレン、トレーシー・ウルマン、ヒュー・グラント、エレイン・メイ他 2000年/アメリカ/95分/ドルビーデジタルDTS/ビスタサイズ 配給:ギャガ・コミュニケーションズ