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KADUHI
趣味で「パチもん」ばかり発明しているシリコンバレー在住のエンジニア。HP 200LX日本語化やPalm用キーボードThumbTypeなど、時にはまともなものも。過去の発明品はこちら(の第5回)をご覧ください。
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前回はモバイルからは少し脱線して、こちら独特の経済システムのお話で終わってしまったので、今回は本題に戻って「ワイヤレスデータ通信事情」のお話をしよう。その前に少しだけ「シリコンバレーのクリスマス」についてご紹介したい。
■ ウチの方がデカいぞ!見栄の張り合いクリスマスツリー?
この時期、ここシリコンバレーはもうクリスマス一色。週末ともなると、これみよがしに大きなクリスマスツリーを屋根に積んだ車が行き交い、お父さんは電飾で家をキラキラに飾りたてる(写真)。
かくいうウチでも「毎年少しずつ伸びるのが楽しみ」とか言って2年前のクリスマスに、普通は買わない鉢植えの「根っこ付き」クリスマスツリーを買ったのはいいけど、冬が終わると一気に夏になるここシリコンバレーで、この生木を維持するのは容易なことではなく、案の定、半年もしないうちに見事に枯らしてしまった覚えがある。
こんなバカげた考えを持たない普通のアメリカの家庭では、「クリスマスツリーは毎年買う」消費材であり、だからこそ年が明けた一月中旬の週末なんかは、ごみ捨て場はツリーで溢れ返ることになるのである。あぁ何という浪費社会。わが家にはいまだに枯れた2年前のツリーが捨てられず残っているというのに……。
■ データ通信いろいろ
ワイヤレスデータ通信と言っても、その種類はいくつかあるが、シリコンバレーでのワイヤレスデータ通信インフラというと、以下のようなものが挙げられる。
・ARDISや2Way双方向ページャなどの低速双方向データネットワーク
・CDPDなどのアナログセルラー網を使ったデータネットワーク
・PCS(CDMA)などのデジタルセルラーネットワーク
・Ricochetなどの独自方式データネットワーク
携帯電話を使ったデータ通信は、日本ではPHSが始まる前からすでにドコモのデジタル携帯電話などを使ったデータ通信が行なわれてきたわけだが、こちらでは最近になってようやく各社がオプションとして用意し始めたところである。まさに始まったばかり、といった感じだ。そういう状況なので、PCMCIAインターフェイスを持った携帯電話など、皆無の状態である。
そんな中、Sprint PCSでは、最近インターネット接続が可能だということを売りにした携帯電話を数機種用意して、他社との差別化を図っている(写真)。実際に日本のiモードのように電話機単体でウェブやメールに対応するものまで用意していたりするが、どれもこれもまだ日本のiモード携帯電話と比べて「洗練された」デザインとはいいがたい。しかし、中にはQUALCOMM社のpdQ smartphoneのように、Palmデバイスとセルラーフォンを合体させてしまったという巨大な携帯電話(写真)があったりして、別の意味で興味深かったりもするのであるが。
Palm OSを採用したpdQ携帯電話の話が出たついでに紹介したいのが、Novatel WirelessのPalmデバイス用Minstrel CDPDモデムである(写真)。これは、Palm IIIなどの背面に合体させて使用するCDPDワイヤレスモデムで、Palm VIIが出る前から、すでにPalmでのワイヤレスインターネットアクセスを可能にしていた。現在では、Palm V用のMinstrel Vも発表され、Palm VIIとはまた違ったソリューションを提供している。
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Novatel WirelessのMinstrel(ThumbTypeを貼ったもの) |
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■ 定額料金の魅力、Ricochetワイヤレスモデム
以上のような状況から、現在もっとも「実用的」と考えられるのは、やはりMetricom社のRicochetワイヤレスモデム(写真)ではないだろうか。このサービスを簡単に説明すると、専用のワイヤレスモデムを使って、ここシリコンバレーのいたる所に約800mおきに網の目状に点在するアンテナを通じて、インターネットにアクセスするサービスのことである。
このように書くと、約200mおきにアンテナを並べていくPHSのようなシステムに近いもののように思われるが、実際は根本的な違いがある。このRicochetの場合、PHSの場合のように全ての基地局が有線ネットワーク(ISDNなど)と接続されているわけではなく、ほとんどのアンテナが、ただ単にパケット単位のデータを受け取っては隣のアンテナに渡すという、まるでバケツリレーのような仕組みなのだ。そして、数キロメートル毎に点在する、有線ネットワークに接続されている基地局に届いたパケットデータが、最終的にインターネットへと送られていくのである。
このような仕組みのため、カバレージエリアの拡大はただ単に中継局を増やしていくだけである程度可能なので、PHSなどと比較するとかなり自由度の高いシステムといえる。ただし、PHSなどと比べると、速度的にはそれほど速くはない(約20kbps)。
余談だが、筆者自身このサービスを1996年の初めからずっと使いつづけている。これは、このサービスが「月額定額料金制」である、ということが最大の理由だ。月30ドルで時間を気にせずに利用できるというのは、日本のワイヤレスデータ通信では考えられない特長ではないだろうか。筆者はこのサービスを利用して、家からの風景を24時間インターネットで中継するなどというヒマなことをしていたこともあった。これなんぞ、従量課金があたり前の日本では不可能なことではないであろうか。
このRicochetサービスだが、すでにサービス開始から4年以上が経過した。この間に33.6kbpsから56kbps、そしてDSLやケーブルモデムなど、数百kbpsにまで進化した有線データ通信と比べると、現状では速度的にかなり見劣りする。しかし、今年前半に次期サービスとなる128kbpsでのテスト運用が成功したそうで、2000年の後半から開始される本サービスが待ち遠しいところだ。この先、いくら広帯域CDMAなどの高速ワイヤレスデータ通信が実用化されたとしても、この「定額料金制」という魅力がある限り、まだまだRicochetは生き残るのではないだろうか。
■ 実用的な2Wayページャ
日本と違って、意外と実用的に使われているのが、2Way(双方向)ページャネットワークを使ったモバイルデバイスである。これらのうち、私が気に入っているのが Research In Motion社(http://www.rim.net/)のRIM Pager(写真)である。
これは、2Wayページャネットワークを使った、Emailの送受信が可能なポケベルで、単3電池1本で数週間動作するというスグレモノだ。写真を見ていただければ一目瞭然なのだが、小さなボディになんとアルファベットが全部入ったキーボードが並んでいて、その上に液晶画面があるというデザインだ。大きさ的にはかなり小さいのだが、キーボードに十分なクリック感があるため、隣のキーを間違って押してしまうようなこともなく、かなり長い文章でも入力できてしまう。
さらには「クルクルピッ」でおなじみのSONYのジョグダイアルを採用していることも、操作性の向上にかなり貢献している。このデバイス、11月のCOMDEX/Fallで、Dell Computerが今後の戦略商品として売り出すことをアナウンスしたことからも伺えるように、かなり出来の良い、なおかつ今すぐに「使いものになる」実用的なワイヤレスデバイスといえよう。
以上、いろいろなワイヤレスデータ通信サービスを紹介してきたが、日本で一番流行っている携帯電話を使ったデータ通信は、通信料金が高かったり、機器が高価であったりと、まだまだパーソナルユース向けとは言えない。以前この連載でも書いた通り、こちらシリコンバレーでは、一般人が携帯電話からインターネットにアクセスするようなことはなく、ましてや高校生がケータイでショートメールをやり取りするような場面に出くわすことは全く無いのである。
(KADUHI)
1999/12/16
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