特集: ENERGY 2017
【藤山哲人の光熱費見直し対策室】
第1回:ガス自由化で突入する「光熱費自由化」
2017年3月28日 00:00
昨年のちょうど同じころ、「電力自由化」という言葉を多く目や耳にした。Impress Watchでも関東近郊の東京電力管内を例に、ほかの電力会社に乗り換えると電気代がどのように変わるのか? そもそも電力会社を乗りかえる必要があるのか? 乗り換えた方がいい家庭、乗り換えないほうがいい家庭などを紹介してきた。
そして今年から始まるのが「ガス自由化」だ。これまで都市ガスと言えば一部の都市ガス会社が世界各国からガスを輸入し、同社のガス管網を通じて各家庭に供給してきた。言い方は悪いが、ガスは住んでいる場所のガス会社が独占していたワケだ。
しかしガス自由化が始まると、世界中からガスを調達し各家庭に販売する小売事業と、ガス供給網は別物として考えられ、消費者は供給するガス会社を選択できるようになる。つまり4月から始まるガス自由化は、どの会社から都市ガスを買うか? という都市ガスの小売自由化だ。なので供給網は、これまでどおりのガス会社から借りるという形になる。
つまりより安いガスを購入したり、さまざまなサービスとセットで購入することができるようになる。先の電力と合わせれば光熱費の自由化が始まったと言い換えられるだろう。
今回は、ガス自由化で何がどのように変わって、僕らにどんなメリットがあるのか? そして今取るべきアクションは何かを紹介していこう。
2段階あるガスの自由化は5年後まで目が離せない
冒頭でも少し説明したとおり、今年から始まるガス自由化は「小売の自由化」だ。早い話、これまで関東なら「東京ガス」というように、大手都市ガス会社が地域を独占していた。しかしこれからはガスを買う会社を選べるようになる。電力自由化でも「えっ!」と思われた方も多いと思うが、ガスとはまったく関係ない携帯電話会社や新興会社をはじめ、石油会社や電力会社も交えた有象無象から購入先を選べる。選択の基準は、ガスそのものの安さだったり、光熱費としてトータルで考えたり、ポイントが貯まる会社を選んでもいい。
もう1段階あるガス自由化は、ガス供給網の自由化。現在は各地域の都市ガス会社が施設・運営・保守にあたってきたが、供給網を都市ガス会社から切り離し、公平性を高めるというものだ。こちらは2022年に自由化が予定されており、ガスの価格にはさほど影響することはない(郊外と都心では違いが出る場合も懸念されている)と見られているが、サービスが大きく変わってくる。
今年から始まる小売自由化から供給網の分離(自由)化までに5年間あるのは、ちょっとしたカラクリがある。現在、都市ガスの供給網は、それぞれの会社が乗り入れしない場合がほとんど。つまりガス会社同士で、余剰や不足になったガスを融通できないのだ。そこで移行期間を設け、ガスの安売りだけではなく、サービスの一環として各都市ガス会社や新興ガス会社、またはプロパンガス会社などが、相互に供給網を乗り入れたり、都市ガスの供給網がない地域に新設する期間という意味合いが大きい。ガス会社は自分たちの生き残りをかけて、爆発的に供給網の整備がされることが見込まれているのだ。
現在、都市ガスの配管網がなく、高いプロパンガスをしぶしぶ購入しているという家庭は、安い都市ガスに乗りかえられる大きなチャンスとなる。また都市ガス網が発展すると、災害時のバックアップや迂回経路が確保できるようになる。これまで地域の都市ガス会社頼りで、バックアップもなかったため、ガスの復旧は電気や水道に比べて復旧に2倍の時間がかかっていたが、これが解消されると期待されている。
また都市ガスの自由化で、あおりを受けるのがプロパンガス。今でも高いと言われているだけに、価格差がますます広くなり、都市ガス網が広がると顧客を失うことになる。それゆえ価格の見直しや料金の透明性、サービスなどが見直されるだろうとされている。
このように、現在都市ガスを使っている人は今年から変化が現れ始めるが、プロパンガスを使っている人は今後5年間にわたって変化していく長い自由化の道が待っている。
ガス自由化で最有力視されているのは東京電力!?
電力自由化で話題となったのが、都市ガス各社の電力販売への参入だ。今回は正反対の事象が起きており、中でも東京電力のガス自由化への参入は、かなりの影響力を持つことは必至だ。
なぜなら東京電力は、東日本大震災以降、原子力発電所をすべて停止し、そのぶんの電力は液化天然ガス(Liquefied Natural Gas、以下LNG)を燃料としている火力発電所でまかなっているからだ。しかも世界的に見ても大口顧客に入る。
つまり東京電力は、自社の発電機を稼動させるために、世界各国からLNGを調達し、受け入れ・貯蔵できるLNG基地を持っている。その調達量たるや、東京ガスの2倍もある。
これが驚異的な数値というのがわかりにくいので、日本全体としてのLNG輸入量8,800万トンと比べると、その3割を東京電力が輸入している計算になる。しかも日本は世界一LNGを輸入しており、世界の総輸入量の36%を占めているのだ。ちなみに、東海地方を中心とする中部電力ですら、東京ガスよりも調達量が多い。
電力会社がこれだけ大量のLNGを輸入・調達しているということは、ガスを買い付ける場合のスケールメリットがそれだけ大きくなるということ。簡単に言えば「大量に仕入れているんだから、もうちょっと値引きしてよ!」と交渉しやすいわけだ。さらに連合を組んで輸入することで、サプライチェーンの共有化を図るなどの合理化によるメリットもある。
そして、LNGの受け入れ・貯蔵施設もハンパない東京電力。昨年紹介した、最新型のLNG式発電機を持つ川崎市の川崎火力発電所にほど近い東扇島火力発電所は、LNG貯蔵施設と船の接岸バースなどを併設している。また千葉県の姉崎や富津火力発電所にも、巨大なLNG(LPG)基地がある。そのほか袖ケ浦と南横浜火力発電所には、他社と共同運用している基地を持つ。
これらの基地と東京湾に面するLNG火力発電所は、パイプラインで結ばれているため、ガスを融通し合えるという周到さ。驚くのは、東扇島と富津が海底のパイプラインで結ばれている点だ。
とくに富津は、東京電力が調達するLNGの4割超を受け入れる、LNGの重要拠点となっている。1985年に施設が完成し始めてLNG運搬船を迎えてから数十年。先日の2017年2月15日で3,000隻目のLNG運搬船がバースに接岸した。これは一業者による受け入れでは国内最多にあたる回数だ。
ここ数年の富津の受け入れ隻数の推移は次の通り。
つまり毎月12~14隻のLNG運搬船を受け入れていることになり、2日に1回は世界各国から調達しているというわけだ。現在富津には10基の貯蔵タンクを持っているが、さらなる需要拡大を図るため2基のタンクを建設していた。
今はガス自由化の情報集めと見極めの時期。
4月から始まるガス自由化。テレビでは早々とガス会社がCMを放送しているが、これは電力会社の参入に対するディフェンスを打ってきたと見てもいいだろう。これから各社が料金プランなどを徐々に発表するので、まずは様子見で情報集めをしていればいい。
なにより巨人、東京電力が動き出すのは2017年7月と言われている。それまで各社水面下の連合やサービス提携など、いろいろな仕掛けを仕込んでくるので、夏まで情報に注意していたい。
(協力:東京電力エナジーパートナー・東京電力フュエル&パワー)