こどもとIT
【連載】家庭でプログラミング教育にトライ
幼児から使えるビジュアルプログラミング言語「Viscuit(ビスケット)」
2017年6月26日 06:00
文部科学省により、2020年以降に施行される新学習指導要領において小学校でのプログラミング教育必修化が決定しました。この連載では、元小学校教員でITジャーナリストの高橋暁子氏が、プログラミングに詳しくない保護者でも家庭で子どもにトライさせられるかどうかを確認しながら、実際にご自身のお子さん(算数好きの小学2年生・男児)と使ってみた際の反応や学習効果を交えながら、様々な教材を紹介していきます。
未就学児など低年齢から使えるプログラミング言語の代表格が「Viscuit(ビスケット)」だろう。ビスケットは2003年にNTTの研究で開発されたビジュアルプログラミング言語だ。「コンピュータを粘土のように」を合言葉に、言語に全く頼らずコンピュータの本質を直感的に感じ、自在に体験できるように作られているため、低年齢の子どもでもプログラミングの楽しさが味わえる。今回は、ビスケットについてレポートしてみたい。
幼児でも使いこなせる簡単さ
ビスケットの使い方はとても簡単だ。「めがね」と呼ばれる連なった2つの円を用いて、動き方を定義していく。自分で絵を描き、めがねの左の円に入れた絵が右の円に入れた絵のように動く、というシンプルなものだ。
息子(現在小学2年生、7歳5ヶ月)は、以前ビスケットの基本が学べるワークショップに参加したことがある。その時は、魚が口を開けたり閉じたりするプログラムを組んで使い方を知った後、チームごとに決められたテーマ(お化け、スイーツなど)で絵を描いて自由に動かすということを体験した。
たとえば、めがねの左に口を閉じた魚の絵を入れ、右に口が開いた魚の絵を入れる。その状態でステージに口を閉じた魚を入れると魚の口が開く、という動きを作れる。しかし、このままでは魚の口は開きっぱなしで止まってしまうので、魚の口を開いたり閉じたりさせるために、めがねを2つ用意する。1つには左に口が開いた魚、右に口が閉じた魚を入れる。もう1つには、左に口が閉じた魚、右に口が開いた魚を入れる。これで、ステージに魚を入れると口を閉じたり開いたりし続けるようになる。
めがねに複数の絵を入れると、絵の並びが一致したときにだけ動くめがねになる。たとえば左のめがねに尺取り虫とボールがぶつかっている状態に並べ、右のめがねには尺取り虫と前に転がった状態のボールを入れると、尺取り虫がボールとぶつかるとボールが転がるプログラムができる。感覚的に理解しやすいので、子どもでもコツをつかめば簡単に様々なプログラムができるだろう。
そのワークショップの最後に、ビスケットの開発者である原田康徳博士が「病気の人を入れるとみんなが病気になってしまう」という発展課題について教えてくれた。これは、ビスケットを使って病気の広がり方や治り方を、色々な条件を変えて試すというものだ。病気が感染するという性質を理解することができ、保護者としても大変興味深かった。
ワークショップの対象は、小学校1、2年生。つまり、そのくらいの年齢であればまったく問題なく使えるということだ。その場で用意されていたのはタブレットだ。ビスケットはパソコンからも利用できるが、子どもにとってパソコンは慣れていなければ利用が難しい一方、タブレットなら直感的に使えるためだろう。実際、その場にいた10人あまりの小学生たちは全員すいすいと使いこなしていた。
息子も自分の絵が思ったように動くのを見て、とても嬉しそうにしていた。その後も自分でオリジナルの絵を描いては、次々と動かして楽しんでいた。ビスケットの基本操作はその時に覚え、それ以来時々楽しそうにいじっている。
ビスケットを家庭学習に使ってみる
ビスケットのサイトにアクセスし、「ビスケットの使い方」を見ると、原田氏による使い方解説動画が見られる。使ったことがない場合は、この動画を見るとわかりやすい。あらかじめ保護者側で動画をすべて見て操作方法について学び、一通り再現できるようにしておくといいだろう。その上で、子どもに動画を見せて興味を持った動きを再現させたり、自由に置かせて動きを見て、なぜそのように動いたのかを考えさせたりするとよさそうだ。
前回この連載で取り上げた「プログル」のように、対象学年の子どもに使わせれば学習・プログラミング体験がすぐできるというものではないので、保護者がうまく主導して、子どもが興味を持つ動きを見せたり、させたりすることが必要となる。ただ、一度コツが分かってしまえば後は子どもが勝手に遊び始めるので、最初だけうまく誘導してみよう。
具体的には、
- 絵を描いて上下左右斜め回転など自由に動かす。
- 動くスピードを変える。
- 2コマの動き(××したり△△したり)を再現する。
- 「□□したら☆☆になる」という条件の動きを再現する。
あたりができるようになると、作成の自由度が上がるだろう。
まず最初に、復習の意味を込めて2コマの使い方の動画を息子と一緒に確認する。「あー、覚えてる」と息子が言ったので、「めがねの左に入れたものが右のようになるから、どう動かしたいのかを考えて入れるといいね」と私からも簡単にフォローする。
まず、前回やらなかった回転を取り入れてみた。iPadアプリでは回転マークをタップしてから絵に触れると、絵が回転できるようになる。ステージに絵を入れる前に、「右側の絵を回転させたらどうなると思う?」と問いかけると、「斜めだから斜めに進むんでしょ」との回答。「でも転んでるよ、どうなるかな」と言いながら入れると、絵がくるくると回った。結果を見て、「あ、そっか」と違いに気づいたようだ。
斜めに動かしたい場合は傾きを変えずに右の絵を斜めの位置に置く。一方、絵自体を回転で傾かせるとその場でくるくると回るようになる。指二本を使った絵の回転操作が難しかったので、そこだけ手助けをしてあげた。
その後、「尺取り虫が伸びたり縮んだりしながら進み、ボールを転がしていく」という動きに興味を示した。「まず、伸びてるのと縮んだのを描いて、めがね二個に入れて…」と絵を描く息子。ステージに入れた尺取り虫はきちんと伸び縮みしながら動き出した。
時々思ったように動かないこともあった。「なんで後ろに進んじゃうの?前に行かせたいのに」と困っているときがあったので、見ると右のめがねの中の絵が少し後ろにずれていた。子どもは不器用なので、思った通りにできないことがある。そういうときには原因を見つけてアドバイスするようにした。少しずれるだけで思ったようなプログラムにならないことがあるので、保護者は原因を見つけて改善方法をアドバイスするようにしたい。
本人に絵を描かせると、「これがこうなったら面白い」というアイディアを次々と思いつく。たとえば、「尺取り虫が人にぶつかったら一気に増える」「尺取り虫が人にぶつかったら花がたくさん咲く」など、色々とアイディアを出して実行していた。「尺取り虫が人にぶつかったら一気に20匹に増えたら面白い」と右側のめがねにたくさんの尺取り虫を入れたりもしていた。動かしたい通りにプログラムするにはめがねに絵をどのように入れればいいのかが分かり、そのように入れられていた。完成したら、ぜひ作品を公開してみよう。公開して他の人に見てもらえると子どもは喜ぶ。
ビスケットを使う場合は、子どもに対して「これをこうしたらどうなるか」「どう動かしたいのか。そのように動かすためにはどうすればいいのか」という問いかけをすることで、思い通りに動かせるようになってくる。ただし、学習っぽさがなく楽しいアプリなので、あまり口出しをすると「遊びを邪魔された」と感じてしまうので、困った時に手を差し伸べるくらいがいいのかもしれない。
息子は電車の中などでも飽きるとビスケットを使いたがる。そのような時はスマホアプリを使って利用させることもある。未就学児のお友達に紹介したら、やはり気に入って家でも使っているそうだ。幼児から遊び感覚でプログラミングができるので、初めてのプログラミング体験としてお勧めだ。
コラム: ビスケットでどんな授業ができる?
原田氏は、ビスケットを使った小学生向けの授業案をブログ上で公開している。各学年で45分の授業を年間2コマ、6年間の12回で、子どもたちに「コンピュータとは何か」を教えていくというものだ。それぞれの学年における授業案と目標が掲載されているので、ぜひ子どもの学年の欄を確認してほしい。
たとえば、1、2年生については「自分の書いた絵が動く。めがねを二つ以上つかってゆらゆらさせたり、2コマのアニメーションをさせたりする」という体験を通じて、「コンピュータは自分たちのものだという感覚。作った通りに動く。間違うと間違った通りに動く。作品はネットで公開されるので、見られても恥ずかしくない作品を作ろう」ということを伝えたいとしている。
小学校6年生までの授業案が紹介されているので、子どもの該当学年の授業案を参考にするといいだろう。
教材名 | Viscuit(ビスケット) |
利用料 | 無料 |
対象 | 幼児、小学校低学年 |
環境 | インターネットにアクセスして、WebブラウザーかiOS/Androidアプリが利用できる端末が必要(画面サイズが大きい方が使いやすいので、タブレットかパソコンでの利用がお勧め) |
保護者に求められる知識とスキル | ・タブレットもしくはパソコンの基本操作ができること ・公式サイトの解説動画を見て、使い方を理解し、子どもをサポートできること |
学習効果 | コンピュータに親しむ、プログラミングに興味を持つ |
学習時間のめやす | 30分~数時間程度 |
※学習効果や学習時間は個人差があります