こどもとIT
英国発のSTEM教材「SAM Labs」が日本で11月に発売――CEOのヨアヒム・ホーン氏インタビュー
2017年10月12日 10:00
2017年10月10日、リンクスインターナショナルは、英SAM LABS LTD.と国内代理店契約を締結し、「SAM Labs」シリーズを11月から国内販売開始すると発表した。
SAM Labsは、Bluetoothとバッテリーを内蔵したブロックモジュールと、コーディングの必要がないビジュアルプログラミングが特徴的なSTEM教材だ。スイッチ、LED、センサー、各種アクチュエータがそれぞれ1つずつのブロックになっており、電源を入れると互いを認識、通信する。
また、専用のビジュアルプログラムソフト「SAM Space app」上で、プログラムや条件を紐づけるだけで、コーディングの必要なく独自のビジュアルプログラミングを行うことができる。
発表に先駆けて英国大使館にて開催されたプレスイベントには、SAM LABSのヨアヒム・ホーンCEOや、リンクスインターナショナル代表取締役の川島義之、駐日英国大使館 一等書記官のエステル・ウィリアムズ氏が登壇し、SAM Labsへの期待を語った。
今回は、本発表に合わせて来日したSAM LABSのCEO、ヨアヒム・ホーン氏にインタビューする機会を得たので、SAM Labsが誕生した経緯や英国のプログラミング教育事情などについて詳しくお話を聞いた。
ヨアヒム・ホーンCEO「SAM Labsの着想は3年前に東京で得た」
――SAM Labsが生まれたきっかけは?
SAM Labs(以下SAM)は、私が日本の東京工業大学に通っていたときに着想を得ました。3年前のことです。研究のプロトタイプを作成してトライアンドエラーをしていく際に、アナログ部分は簡単に工作できても、デジタル部分は簡単にテストすることができない。アイデアは出てくるのに、試すことができない。なんとかできないかと考えて思いついたのがSAMです。実は、SAMというのは私の弟の名前です。彼はデザイナーで、彼がデザインを簡単に作れるようにと考えたのもSAMのアイデアを思いつくきっかけになりました。
そこで、クラウドファンディングサイト「Kickstarter」でプロジェクトを開始し、その後、2014年11月に英国・ロンドンにてスタートアップを立ち上げました。
――SAM Labsを購入したら、最初はどのように進めていけばよいのでしょうか。
SAMは、Bluetoothとバッテリーを内蔵した各種の「ブロックモジュール」と、車を作るためのキットやコントローラーなどの各種「アクセサリー」、どのように学べばいいかを生徒向け・先生向けに解説する「ガイドブック」、そしてビジュアルプログラミングアプリ「SAM Space app」の4つからなっています。
このアプリのおかげで、「SAMを購入したけど最初に何をしていいかわからない」ということは起きません。アプリのビジュアル的な指示に沿って進めるだけで、1歩ずつ、SAMのすべての機能を理解することができるのです。
アプリは4つのセクションに分かれています。まずは、1つ1つのブロックの役割を学ぶセクションです。最初に「ボタン」ブロックのボタンを押して電源をオンにするよう画面に出てきます。その後で、ボタンを押していると車が上に行き、押さないと落ちていくようなミニゲームを遊ぶことで、「ボタンブロックは、押すことでオン/オフの信号を送る役目を持つブロックなんだ」と学ぶことができます。これを繰り返しているうちに、自然にさまざまなブロックの役目をすべて理解できるのです。
2つ目のセクションは、ブロックの組み立て方です。例えば車を組み立てるためには、車のボディ部分となるパーツに、「モーター」「ライト」「チルトセンサー」などを取り付けていきます。これも画面の指示通りに取り付け、画面上のブロックの間を指やマウスなどでなぞるだけで簡単にブロック同士を接続することができます。私の一番のお気に入りはパトカーです。
3つ目のセクションは、「カスタマイズ」です。先ほどまでに学んだ機能を、自分でセッティングすることができます。例えば、ボタンを押すたびにLEDの色を変えてみたり、傾きセンサーを活用して、コントローラーを傾けることでクラッシュ音を鳴らしたりといった内容を自由にセッティングできます。
最後、4つ目のセクションは「フリープレイ」です。ビジュアルプログラミング上で自由自在にプログラミングをしてください。アイデア次第で、「温度センサーによって、室温が30度を超えたらTwitterにツイートを流す」、「近接センサーによって、誰かが部屋に入ったらカメラがシャッターを切る」なども実現可能です。裏のコードはすべてJavaScriptですので、直接コードを書くこともでき、テキストベースのコーディングまで体験することが可能になります。
SAMの教育機関向けガイダンスやカリキュラムも日本語化
――英国のSTEM教育の現状はどうなっていますか?
英国はご存知の通り、政策としてSTEM教育に力を入れており、2014年に5歳から16歳までのプログラミング教育が義務化されました。ただし、「コンピューティング」という科目はありますが、それはプログラマーを育成するというものではありません。コンピューティングの授業が独立して存在するのではなく、プログラミングを他の科目にも取り入れていこうという考え方が基本です。
SAMを使って学習するのに最も適している分野は「テクノロジーデザイン」と「数学」です。しかし、SAMはその科目でしか役に立たないというわけではありません。先生と生徒が一体の体験をして、プログラミングに限らず、国語・数学・歴史・地理・音楽など、昔からあるさまざまな科目の学びを広げていく、延長するための一手段としてSAMなどのSTEM教材があると思っています。この短い数十年で、黒板とチョークから、映像やパソコンへと学ぶための道具が広がりました。ここからはさらに未来の技術を使った体験をしていくことになります。その1つのソリューションとしてSAMを開発しました。
SAMの導入は小中学校がメインになるでしょうが、IoTキットとして、デザイン学校などの専門学校や大学にも導入してもらえます。
――グローバルでの導入状況はどうなっていますか?
現在SAMは、60か国・約1000校に導入されています。一番導入数が多いのはスカンジナビアで、2015年に先進的な教育を取り入れていく目的で導入いただきました。2017年からはフィンランドのヘルシンキで市を上げてSAMを導入いただいています。
――日本ではまだそこまでSTEM教育が進んでおらず、教師もプログラミング教育にどのように取り組めばいいかイメージが湧きづらい部分があります。
そのために我々は、SAMの生徒向け・教師向けのガイドブックを提供しています。教育機関向けのガイダンスも作成しており、海外では書籍として販売もしています。それを読めば、SAMを利用してどのように授業を進めればいいのかわかります。
また、我々はWebサイトの「EDUCATION」というコーナーで、SAMを利用してどのように授業を行っていくか、多数の事例を公開していますので、そこからもアイデアを得られると思います。
――日本は世界的に見てやや独自の文化を持っています。市場に合わせたローカライズが重要だと思います。
我々も、ハイパーローカリゼーションが必要だという認識は持っています。SAMを利用した授業をどのように行い、科目ごとにどのようにステップアップし、数値化・評価するかといった、ゼロから作るには専門的な知識が必要となる部分も、日本のSTEM教育者からフィードバックをもらってカリキュラムの雛形を作成し、提供していくつもりです。
実は、この2017年9月にSAMの中国語版を出しました。そこで多言語化についての素地ができ、翻訳内容をすぐにアプリに埋め込めるようになりました。日本語化についても、先が見えやすい状態になったと言えます。
――ありがとうございました。SAMのこれからの日本国内での展開を楽しみにしています。
SAM Labsの対象年齢は7歳から。チルトセンサー、光センサー、モーター、ブザーなど限られたブロックモジュールがセットになった発明者向けキット「SAM Labs Inventor Kit」は15,800円、車を作りながら学べる入門キット「SAM Labs Curious Cars Kit」は22,980円となっている(ともに希望小売価格、税抜)。全11種類のブロックモジュールがセットになっており、学校や塾、ワークショップなど2~6名のグループでカリキュラムを学ぶ教育キット「SAM Labs STEAM Kit」の価格・購入については要問い合わせ。