こどもとIT

子ども向けのSTEM教材やワークショップに注目が集まる――Maker Faire Tokyo 2017レポート

2017年8月5日~6日、東京ビッグサイトで「Maker Faire Tokyo 2017」(以下、MFT2017)が開催された。Maker Faireは、世界各地で開催されているものづくりを趣味とする「Maker」たちによるお祭りで、「Makerムーブメント」の盛り上がりとともに、その規模は年々大きくなっている。ここでは、MFT2017で見つけた展示やワークショップの中から、特に子供へのプログラミング教育やSTEM教育に関連の深いものを中心に紹介することにしたい。

MFT2017は、今年新設された東7ホールと東8ホールで開催された。昨年に比べてスペースが広くなり、出展者にとっても、来場者にとっても、より快適なイベントとなっていた。

教育向けマイコンボード「micro:bit」が大人気

MFT2017では、教育向けのマイコンボードやロボットキットなどが多数展示、デモされていたが、その中でも注目を集めていたのが、スイッチサイエンスが展示していた「micro:bit」である。

micro:bitはもともと、英国のBBCが開発した教育向けマイコンボードで、2016年には英国の11~12歳の生徒全てにmicro:bitが与えられた。micro:bitは、25個のLEDや加速度センサー、磁気センサー、光センサー、温度センサーなどを搭載した手のひらに乗るサイズのマイコンボードであり、教育用として非常に優れている。ただし、当初のmicro:bitは、搭載されているBLEモジュールが日本の技適を取得していないため、日本で利用することはできず、代わりにスイッチサイエンスの互換ボード「chibi:bit」が販売されていた。今回、本家micro:bitが技適を取得したことで、日本でも利用できるようになり、MFT2017がそのお披露目の場となったのだ。

「micro:bit」の巨大模型

 スイッチサイエンスのブースでは、micro:bitを利用した作例が多数展示されていたほか、micro:bit本体や周辺機器の即売も行われており、終日来場者で一杯であった。特にmicro:bit本体は、ここでの即売が日本での最初の販売となるため、初日、2日目とも開場から数時間で完売するほどの人気であった。

 micro:bitを利用した作例としては、2足歩行ロボットや2輪ロボット、尺取り虫のようなインチワームなど、ロボット系が多かった。micro:bitは、BLE対応であり、micro:bit同士での通信も可能だ。BLE通信を利用して、micro:bitを2台利用し、1台をリモコン、1台をロボット制御用として使ったロボットもあった。アーテックブロックと組み合わせたライントレーサーや今年夏に発売されたばかりのタミヤのカムプログラムロボット工作セットにmicro:bitを組み込んだ作例も展示されていた。

micro:bitを使った2足歩行ロボットと2輪ロボット。2輪ロボットはコントローラーにもmicro:bitを使っている
micro:bitを使った4脚ロボット
micro:bitとアーテックブロックを組み合わせて作ったライントレーサー
タミヤのカムプログラムロボット工作セットにmicro:bitを組み込んだ例
左がリンゴにタッチするとメロディが流れる「リンゴサウンド」、右が尺取り虫ロボット「インチワーム」

また、プロキッズがバニーホップと共同で開発したPRO-CUBEも興味深かった。PRO-CUBEは、LTE Cat-1対応のLTEモジュールを搭載しており、micro:bitを装着することで、micro:bitのIoT化が可能になる。ブースでは、micro:bitのセンサーで計測したデータをクラウドに送信したり、クラウドから取得した気象情報をmicro:bitのLEDに表示するデモなどを行っていた。その他、Seeed Technologyのブースでも、micro:bit用周辺機器「Grove Inventor Kit for micro:bit」を展示しており、micro:bitへの関心の高さが感じられた。

PRO-CUBEの活用例。LTEモジュール搭載で、インターネット気象情報から天気データを取得し、micro:bitのLEDに表示させることができる
PRO-CUBEの活用例。micro:bitに搭載されている照度センサーを利用して、部屋の明かりに変化があるとLINEにメッセージを送ってくれる
PRO-CUBEの活用例。micro:bitに搭載されている加速度センサーを利用して、設置場所の揺れをクラウドに送信する
micro:bit用周辺機器「Grove Inventor Kit for micro:bit」

ソニーの「toio」関連展示も注目が集まる

ソニーは、発表したばかりのトイ・プラットフォーム「toio」を展示しており、こちらも非常に人気があった。toioは、本体となる「toioコンソール」、モーター内蔵で動き回る小さな「toioコアキューブ」2台、コアキューブの動きを制御できる2つのコントローラー「toioリング」から構成されており、コンソールに専用ソフトカートリッジを装着することで、さまざまな遊びを実現できるプラットフォームである。コアキューブには、専用マットの上での絶対位置を計測できる絶対位置センサーが搭載されていることが特徴だ。

toioは、2017年6月1日にソニーから発表され、同日に先行予約が開始されたが、数量限定のお得な初回限定セットは即日完売するほどの人気だ。正式発売日の2017年12月1日に先駆けて実物を見られる貴重な機会ということもあり、ブースは親子連れで賑わっていた。

toioを制御するtoioコンソール。中央にソフトカートリッジを差し込んで利用する
toioコアキューブの底面。絶対位置センサーを搭載している

toioは、プレイステーション4やNintendo Switchのようなプラットフォームであり、専用タイトルと組み合わせて利用する。現在、「工作生物 ゲズンロイド」と「トイオ・コレクション」の2つの専用タイトルが本体と同時に発売されることが表明されており、MFT2017のブースでも両タイトルのデモを実際に遊ぶことができた。ゲズンロイドでは、全部で15種類の未知の生物を作って遊ぶことができるが、その中から、尺取り虫のような「シャクトリー」と磁石のような動きをする生物の2種類のデモが行われていた。トイオ・コレクションでは、全部5種類の遊びを楽しめるが、ブースでは、2人で機体を操って戦う「クラフトファイター」の体験ができ、子供達が喜んで遊んでいた。

「工作生物 ゲズンロイド」。紙工作と組み合わせて、15種類の未知の生物を作って遊ぶことができる
「トイオ・コレクション」の遊びの一つ「クラフトファイター」
ゲズンロイドで作れる生物の一つ「シャクトリー」。その名の通り、尺取り虫のように滑らかに動く。リング型のtoioコントローラーで操作できる
こちらもゲズンロイドで作れる生物の一つ。磁石のような動きをする

その他、toioをインテルのEdisonやAndoridタブレットなどと連携させるデモも行われており、関心を集めていた。toioは、よく考えられたプラットフォームであり、今後の展開も楽しみだ。

toioをインテルのEdisonと連携させるデモ
toioをAndroidと連携させるデモ
Android搭載スマートプロジェクター「Xperia Touch」と組み合わせたデモ

教育用ロボットキットやSTEM教材などが多数展示

 MFT2017では、micro:bitやtoioの他にも、子供を対象としたロボットキットやSTEM教材などが多数展示されていた。Makeblockのブースでは、日本のロボット教室などでも採用が進みつつある教育用ロボットキット「mbot」シリーズや、新製品の教育用ドローン「Airblock」を展示していた。mbotは、Scratchに似た画面の専用アプリを使ってプログラミングが可能であり、オプションパーツによって拡張も行える。新製品のAirblockは、プログラミングで制御できる教育用ドローンだが、パーツがモジュラー構造になっており、自由に着脱できることが特徴だ。空を飛ぶドローン形態のほか、水上を走るホバークラフト形態に組み替えることもできる。

教育用ロボットキット「mBot」
10種類のロボットを製作できる最上位モデル「Ultimate 2.0」
新製品の教育用ドローン「Airblock」。プログラミングによって制御できる
Scratchに似た専用アプリでプログラムを作成し、Airblockを制御できる
Airblockはパーツがモジュラー構造になっており、簡単に着脱できる。パーツはマグネットによって固定されるようになっている

for Our Kidsは、プログラミング脳を養う木製ロボット「PETS」を展示していた。PETSは、上面の凹みに矢印が書かれたブロックを差し込んでいくだけで、ロボットの動きをプログラミングできる。単体で動作し、インターネット接続環境やPCなどが不要なので、小さな子供でもアルゴリズムを気軽に学べることが特徴だ。

プログラミング脳を養うロボット「PETS」のデモ。インターネット接続環境やPCなどが不要で、小さな子供でもアルゴリズムを学べることが特徴

Scratchの第一人者である阿部和広氏のブースでは、スイッチエデュケーションと共同で開発した、Scratchから気軽に利用できるセンサーボード「いぬボード」が展示されていた。いぬボードは、PCのマイク端子とヘッドホン端子に接続して、音声信号で入出力を行うため、特別なドライバをインストールする必要がないことが利点だ。電源はUSB経由で供給され、LEDや各種センサーを接続して、Scratchから制御することが可能だ。

Scartchで気軽に利用できるセンサーボード「いぬボード」

その他、MESHプロジェクトのIoT電子ブロック「MESHタグ」やコルグのマグネット式電子ブロック「littleBits」といった、ハンダ付けなどが不要で、簡単に電子工作やIoT製品のプロトタイピングが可能な製品も注目を集めていた。

IoT電子ブロック「MESHタグ」は、Bluetooth LEで接続されるので、物理的に繋げる必要はなく、タブレットなどからタグ同士の接続を制御できる
MESHタグを使った体験ワークショップも行われていた
コルグのブースでは、マグネット式の電子ブロック「littleBits」が展示されていた
Blocklyでプログラミングができる新製品「CODE KIT」のデモ

森を探検できるスコープ型VRやIoTけん玉のデモも

JVCケンウッド・デザインがデモしていた「Forest Scope VR」も子供達に人気があった。これは、スマートフォンを装着して利用するスコープ型の機器で、スコープを覗きながら動かすことで、森の中を探検できる仕組みだ。森の中には、さまざまな動物や鳥が隠れており、動物探しやバードウオッチングを楽しむことができる。

「Forest Scope VR」の体験デモ

また、アプリと連動して遊べるIoTけん玉「電玉」のデモや即売も行われていた。電玉には、いくつかのスマートフォン用アプリが用意されており、離れた人との対戦プレイも可能だ。ブースでは、指定された技を決めると襲ってくるゾンビを撃退できるアプリを楽しむことができた。

電玉のデモ。指定された技を決めると襲ってくるゾンビを撃退できる
電玉のカットモデルがあり、内部が見られるようになっていた

その他、興味を持った展示をいくつか紹介する。FaBoは、IchigoJam対応ロボットカーキット「HotDog」のデモを行っていた。IchigoJamは、日本製の学習用マイコンボードで、BASIC言語でプログラミングできることが特徴だ。HotDogは、IchigoJamの上にモーター制御用シールドを装着し、モーターをコントロールすることが可能で、赤外線距離センサーやライントレース用フォトリフレクターなども搭載している。

IchigoJam対応ロボットカーキット「HotDog」のデモ

LITALICOワンダーのブースでは、XYZプリンティングの3Dペン「ダヴィンチ3D Pen」のデモや即売が行われていた。SMD工房はハンドスピナータイプのPOVを展示していた。販売などの予定は今のところないようだが、欲しいという人も多かったようだ。

XYZプリンティングの3Dペン「ダヴィンチ3D Pen」
ハンドスピナータイプのPOV「SPIN POV」。回転させると、残像で絵が浮かび上がってくる

子供向けワークショップや工作教室も人気

MFT2017では、展示やデモだけではなく、子供達を対象としたワークショップや工作教室もいろんな場所で行われており、参加者は真剣な表情で取り組んでいた。

今回、バルーンアーティスト「Airgami」が、巨大なロボット「Makey」のバルーンアートを会期中に完成させるという特別企画が行われていおり、その関連としてMakeyの小型バルーンアートを作る無料ワークショップに子供達の行列ができていた。

風船でできた巨大なロボット「Makey」。バルーンアーティスト「Airgami」によって、会期中につくられたものだ
バルーンアートを作るワークショップも人気だった

そのほか、喫茶店形式でプログラミング体験ができる「子どもプログラミング喫茶」や革にハンダごてで焼き跡を付けて絵を描くレザーバーニング、ストローとコネクタを使った立体物を作れる「Strawbees」、レーザーカッターを使ったスマホスタンド作りのワークショップなども行われていた。

子どもプログラミング喫茶のブースでは、レストランや喫茶店のメニューのように、プログラミング体験を選べる
Scratchによるマイクラのプログラミング体験の様子
革にハンダごてで焼き跡を付けるレザーバーニングのワークショップ。ハンダごてに専用のコテ先を付けて、革の表面に絵や字を書いていく
レーザーカッターメーカーのトロテックでは、カインズと共同で、スマホスタンド作りのワークショップを行っていた
「Strawbees」のワークショップ。ストローとコネクタを使って、プロペラ付きの帽子や自動で開くカラフルな傘などを作れる
自分で作った作品はそのまま持ち帰ることができる

昨年のMFT2016で初開催され、子ども達に大人気だったミニチュアカーレース大会「Nerdy Derby」が今年も開催されていた。Nerdy Derbyでは、ワッシャーや木板などの基本パーツを使って車体を作り、その後装飾用のデコレーションパーツを使って自由に飾り付けを行う。会場には、宙返りコースをはじめ、まざまな難易度のコースが用意されており、ミニチュアカーの走行距離やジャンプ距離などを競うレースも開催されていた。

「Nerdy Derby」のコース
Nerdy Derbyでは、これらの基本パーツを使って車体を作る。ワッシャーを車輪に使っていることが特徴だ
基本となる車体を組み立てているところ。説明書を見ながら自分達だけで組み上げていく
装飾用のデコレーションパーツも多数用意されており、自分だけのミニチュアカーを作ることができる

石井英男

PC/IT系フリーライター。ノートPCやモバイル機器などのハードウェア系記事が得意。最近は3DプリンターやVR/AR、ドローンなどに関心を持ち、取材・執筆を行っている。小中学生の子どもを持つ父親として、子どもへのプログラミング教育やSTEM教育にも興味があり、CoderDojo守谷のメンターとして子どもたちにプログラミングを教えている。