第7回 初心者のカメラ選びは「ちょっとだけ背伸び」して
カメラ買うなら何がいい? と聞かれたとき、「新しいカメラならどれも画質はいいから、デザインや触ったときのフィーリングで選んでもいいと思うよ」と無難な回答をすることが多い。ただしその際「カメラは高価なものほど使いやすいよ」と、ひとこと加えている。すでにいろんなカメラを使ったことのある人には常識的なことだが、初心者には意外と知られていなく、カメラ雑誌や教本を見てもこのことはほとんど伝えていない。
私が最初に買ったカメラは、エントリークラスのAFフィルム一眼レフだった。当時フィルムの入れ方さえ知らなかった超初心者の私がカメラ誌や一般誌の記事を参考に選んだ一台で、コストパフォーマンスに優れていると各誌で評価の高い機種だった。
初めての一眼レフだったので教本も一緒に購入し、解説を頼りに絞りやシャッター速度を変えたり露出補正を試したりした。露出を変えてもプリントには変化が現れず長いこと戸惑ったが(ネガからの同時プリントではまず露出補正は反映されない。このこともまた教本の盲点)、始めのうちは大きな不満はなかった。
しかし、ポジフィルムを使い出したころから、徐々に不満を覚えるようになった。自分の腕に、である。
花の一部だけにピントが合った写真をまねしてみようと安い望遠ズームを買って撮ってみたら、ピントを確実に合わせてもどうもシャープに写らない。「微細なブレ」というやつだろうかと、次は三脚を使って撮ってみたが、やはり締まりがない。また、評価測光やオートフォーカスが使いこなせていないのか、なんだかうまく撮れない。
ヘタはヘタなりの方法でと、私はあるときからカメラの便利な機能をあえて使わないことで失敗を防ぐようにした。たとえば、部分測光してから再フレーミングして撮影する方法に変え、レンズはマニュアルに切り替えて使った。暗いキットレンズでの手動ピント合わせは難しく、かえって失敗を招くこともあったとは思う。
その数年後、私はマニュアルフォーカスのフィルムカメラを中古で手に入れ、単焦点レンズを使うようになった。そして気がついた。これまで思うように撮れなかったのは腕のせいではなく、カメラやレンズ性能の限界だったのだ。おごって聞こえるかもしれないので別のいい方をすれば、エントリー機の使いこなしには腕が求められるということだ。初級機でしっかり撮るには、低いファインダー視野率を考慮して少し広めにフレーミングするとか、小型軽量でぶれやすい分しっかりカメラを構えるなどの技術が必要になってくる。F値の大きいレンズでは、ボケで「一見良さげ」に見せることも難しい。
私が買った中古カメラは1970年代製で古いのだが、発売当時の高級機だけあって確実に撮れた。ずっしりとした重さは手持ちで夜景を撮るにも安心感があった。そして、カメラを変えたとたんに写真を褒められるようになった。
今のカメラはデジタルなので上記とは事情の異なるところが多々あるが、デジタルカメラも高いものほど確実に撮れるというのは本当で、たまに最上位機種を触るとその使いやすさに感動する。
良いカメラで納得いくものが撮れればますます写真が好きになるだろうし、カメラも長く使い続けることになって結果的には安くつく。もっとも、中には思い切って上級機を買ったら重さに耐えられずに持ち出さなくなったという人もいるので難しいところだが、思い通りに写らないストレスから写真もろとも嫌いにならないためにも、私は初心者のカメラ選びには「ちょっとだけ背伸び」をおすすめしている。