VR Watch
これからのVRビジネス、5つの類型
VRメディア概論 ~VRビジネスの最前線より~ #01
2016年10月3日 11:43
はじめまして。今回からこちらでVRに関するコラムを書かせていただくことになりました、株式会社テレビ朝日メディアプレックスの阿部と申します。
自己紹介
さて、まずは弊社のVRに関する実績を紹介させてください。もともと我々はテレビ朝日関係のスマホアプリを制作していたチームなのですが、「Unityを使えばiOSアプリとAndroidアプリがワンソースで作れるんじゃない?」」という不純な動機でUnityでのアプリ開発を開始、その後社内の有志で2013年より自腹でOculus Rift DK1を購入して社内研究を開始しました。
翌2014年夏に、テレビ朝日のリアルイベント「テレビ朝日・六本木ヒルズ 夏祭り SUMMER STATION」がスタート。このテレビ局イベントでVRコンテンツ「ジュラシック アドベンチャー」を提供。この時はOculus Rift DK1を使用しました。タイミング的に運も良かったのですが、2014年時点で業務としてVRアトラクションを本格的に手がけたのはかなり早かったのではと自負しております。
そして翌2015年の2月にはアディダス・ジャパン様の新製品イベントにてOculus Rift DK2を利用して「雲の上を走れる」VRアトラクションを開発。この時はRift内のセンサー値を利用して、その場で足踏みをすると前に進む、というギミックを開発しました。
さらに昨年に引き続いて2015年夏の「テレ朝夏祭り」では「世界一のセカイ」「ゴーちゃん。視察団」という2つのアトラクションを担当。「世界一のセカイ」はプロスポーツ選手の視点でスポーツ体験ができるVRで、椅子に振動ユニットを仕込み、また扇風機の回転を制御することで視覚だけではない触覚でのVR体験も可能にしました。
2016年初頭には、ぬいぐるみにArduinoを内蔵してGear VRと連動、ぬいぐるみを傾けることでVRを操作できる「抱っこUI」を開発し、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)に視界を塞がれた状態での操作方法を提案。
直近ですと2016年テレ朝夏祭りではGear VR+実写360度動画を利用してバラエティ番組体験ができる「しくじり先生VR」も360度動画撮影と開発を担当。ちなみにこれ以外にも計4つのVRアトラクション開発を担当しました。
VRビジネスの分類と傾向
さて、2016年はVR元年とも言われ、一般の人への知名度も大幅にアップしました。これまでは開発者自身による試作品が多かったわけですが、これからは本格的にビジネスへの活用が期待されています。
とはいえ現時点では「VR視聴デバイスが一般家庭に普及していない」、つまりリーチがないということもあり、B2Cとしてコンシューマへ直接販売するプラットフォームビジネスとしてはまだまだ未成熟。VRを手掛ける法人のビジネスとしては、あらかじめ機材を準備したうえでリアルのイベントでVRを楽しんでもらう「デジタルアトラクション」としての案件がほとんどだと思われます。
我々も手がけていて痛感しているのですが、リアルイベントは「時期が集中している」という特徴があります。イベントはリアルでの集客が命で、一般的に「開催時期」がおおよそ決まっています。例えばテレビ局のイベント、音楽フェスなどは夏に集中しています。業種によって異なりますが、ビジネスとしては「特定の季節に集中して稼ぐ」、すなわち<海の家>スタイルになりがちです。
またリアルイベントにおけるアトラクション開発は「準備期間があまりとれない」という特徴もあります。ゲーム開発では半年〜1年程度の開発期間が取れるものも多いですが、ことイベントについては開発期間は長くても3ヶ月、短いと1ヶ月程度で準備しなければいけないことが多いです。
現在はイベントアトラクションに偏っているVRビジネスですが、今後は下記の類型に分かれていくと思ってます。
1)VRリアルイベントアトラクション
既存のVRで一番多いパターンで、リアルイベントの集客アトラクションとして利用するものです。閲覧者は会場に足を運んで体験し、主催者はその集客及びイベントのメディアへの露出を目的します。
どちらかと言うと遊園地のアトラクションに近いインパクトが求められますので、映像だけではなく「体感ギミック」などが重要になります。映像の美しさと外部のデバイスとの連携が欠かせないため、PCベースがメインになります。原時点ではPCベースで入手の容易なHTC VIVEが使われることが多いです。
2)VRゲーム
既存の3DゲームをVR化したもの。現在のVRブームの火付け役であるOculus Riftはもともとゲーム用デバイスとして開発されたのが始まりですので、こちらが正常進化とも言えます。プレイステーションVRを筆頭に、Oculus HomeやSteamなどの販売プラットフォームからユーザーが購入、家庭で楽しむかたちが想定されます。
ゲームは長時間プレイされることを想定しますので、上記のイベント・アトラクションよりも「やりこみ要素」が必須となり内容のボリュームも求められるため、比較的1本あたりの開発費は高額になります。今後VRゲームへの参入は進むと思いますが、競争が激化するものと思われます。
3)実用的ツールVR
エンターテインメントではなく実用を主眼としたツールです。例を挙げると「不動産の内見」「結婚式場の見学」「海外旅行の下見」などをVRで実現するものなどがありえます。
VR自体をビジネスにするというより、企業の本業のビジネスモデルに従い、アピールしたい目的を明確にしたうえで本業の売り上げを促進するのが目的となります。
VRデバイスの普及もキーになりますが、ビジネスモデルがはっきりしているため、ある意味このようなサービスが今後生き残っていくと思います。またこのような実用ツールのSaaS化も今後進んでいくと思われます。
4)映像配信型VR
個人的には一番注目している分野で、いわゆる360度動画をHMDで見るスタイルです。テレビが大画面化、高解像度化に限界が見える中で、新たな視聴スタイルとして「VR映像視聴」が注目されるのは間違いないと思います。音楽番組やバラエティ番組、旅番組などをまるでその場にいるかのように見れたらいいな、と思う人は多いのではないでしょうか。
現時点の機材では解像度が低いことが難点です。また、現在の360度動画はモノラル(左右の目で同じ映像を表示)がほとんどですが、今後立体感のあるステレオ動画に移行していくでしょう。
ビジネスモデルとしては、通常のB2C販売ビジネスの他、DVD発売時、新作映画公開時の「特典映像」として普及していく可能性も高いと思っています。サブスクリプション課金に特化した360度動画ポータルも面白いと思います。
弊社でも360度VR視聴アプリや、360度ライブストリーミング配信システムに着手する予定です。
5)SNS&メタバース的VR
若干[2]のVRゲームともかぶりますが、ソーシャルネットワークサービスとしてのVRが盛り上がっていくのも間違いないと思います。
以前、盛り上がりそうで、そうでもなかった「セカンドライフ」というサービスが有りましたが、あのような仮想の3D世界をベースとしたSNSサービスはVRの一つの類型として想像しやすいと思います。
またオンラインゲームのVR化というのもみんな期待するところでしょう。VRだと移動の時に酔いやすい、という難点さえ除かれれば一気に普及すると思います。
コミュニケーションをキーワードにしたVRは今はまだ少ないですが、今後どんどん出現すると思われます。ブログ、ツイッターなどSNSは今までテキスト主体でコミュニケーションするのが普通でしたが、VR+SNSではいったい何を手段としてコミュニケーションを図るかが興味深いところです。
さて、このようにいろいろなVRビジネスのパターンを挙げてみましたが、今後VRビジネスに興味のある方はこのような視点で、自分が、あるいは自社がどの分野にフィットしているかを検討するのも一案かな、と思っています。
阿部聡也
株式会社テレビ朝日メディアプレックス マルチデバイス事業部 ビジネスプロデューサー。ITベンチャー、通信会社にてブログサービス、動画投稿サービスなどの新規立ち 上げを経て現職へ。現在VRコンテンツ受託開発、技術研究を中心に活動中。