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「ONE PIECE」もホログラフィック化!東京大学情報理工学研究科との協力でさらに勢いを増す「DMM VR THEATER」の戦略とは
2016年10月12日 13:00
DMM.comラボと東京大学情報理工学研究科は8月2日、 社会連携講座「時空間解析技術の応用研究」を開設、共同研究を行なっていくことを発表した。
DMM.comグループでは、一見異なる業種に特化したグループ会社が強みを活かし、多様なビジネスを展開している。今回の社会連携講座はシステム開発を一手に担うDMM.comラボが窓口となり、「DMM VR THEATER」などのホログラフィックを事業として展開する「DMM.futureworks」の技術展開を目的として研究を進める。
DMM.futureworksの狙いはどこにあるのか。初音ミクのホログラフィックライブなどを通じて日本のホログラフィックVRを牽引してきた、DMM.futureworks CEOの黒田貴泰氏と、DMM.comラボ 取締役兼CTOの城倉和孝氏に話を聞いた。
DMM+東京大学情報理工学研究科の技術を国内外に提案
――まず、今回の東京大学情報理工学研究科との社会連携講座の開設ですが、どのような経緯で実現したのでしょうか。
城倉氏「弊社は、東京大学が共催する「JPHACKS」という学生向けハッカソンに協賛していたため、もともと接点がありました。また、弊社のDMM.makeなどの取り組みに東京大学情報理工学研究科が興味を持ってくださり、情報理工学研究科の石川正俊教授を紹介してくださいました。そうした流れで、DMMと東京大学情報理工学研究科で一緒に何かやれたら面白いだろうということになりました。東京大学情報理工学研究科は、世界トップクラスの技術をバックボーンに日本初のモノづくりを積極的に取り組みたいという姿勢を持っており、それは弊社のビジョンとも一致しました。
私も実際に東京大学情報理工学研究科の技術を色々と見せてもらいましたが、それらは社会連携講座のタイトルにもなっている五感のVR=マルチモーダルです。これはいわゆるヘッドセット型のVRで体験できる360度動画などとは一線を画すものです。
何を連携するテーマにしようと考えた時、弊社の取り組んでいるビジネスからIoT、ビッグデータなど色々な選択肢がありましたが、マルチモーダルという技術を最大限に活かせるという点と、商用化に直結できるという理由でDMM.futureworksのビジネスが一番親和性が高いという結論に至りました。
DMM.comラボとしても、Webサイトのプラットフォームにおいて行動履歴などを基にお客様に最適な商品をレコメンドする仕組みなどに取り組んでいますが、マルチモーダルで収集されるデータに大きな興味を持っています。今回の連携を通じて、将来的にはサイトでの行動履歴だけでなく、現実世界から集まったデータが、お客様に有用な形でフィードバックできるような技術に活かせる事を期待しています。」
黒田氏「今回の取り組みでは、その中で何をまとめましょうとか、そういうことは特に決めずに始めました。一応はDMMからはテーマを提示していますが、基本的には東京大学情報理工学研究科の技術の優位性があり、それをパッケージとしてまとめてアウトプットすることでビジネスになりそう、という期待があります。
DMM.futureworksは、VR THEATERで培ったアセットやノウハウの外販営業を行なっているのですが、そうした際に東京大学清報理工学研究科の技術もあわせたソリューションを提案していくことができるようになります。」
――外販営業というのは具体的にどのようなものなのでしょう。
黒田氏「国内外のアミューズメント施設やショッピングモールにコンテンツ表現も含めた弊社のノウハウを誘客装置として提案しています。 国内で言えば、いまは2020年(の東京オリンピック)に向けて新しい商業施設が計画されていますし、海外でも、中国は現在建築バブルということもあり、やはり商業施設の建設がピークです。そうしたところは、他の商業施設と差別化できるような体験価値の高い誘客装置を求めているところが多く、差別化のためのソリューションのキーワードとしてホログラフィックやVRは強いと感じています。
DMM VR THEATERのようなホログラフィック施設というのは、海外にも類似した施設が少なく、競合が少ないのが良いところです。DMM VR THEATERは、すでにこれまでの取り組みの実績がありますし、DMM全体としても「DMM.make」や「DMM.PLANETS」などの施設型の取り組みが目立つので、総合的になにか面白い取り組みができそう、と思ってくださるお客様が多いです。」
――社会連携講座が始まって1か月ほどですが、何か具体的なお話は進んでいるのでしょうか。
黒田氏「すでにブレインストーミングを3回行いまして、営業活動の状況や今後の方向性などを話し合いました。これらミーティングを通じて、方向性が見えてきた感じです。
現在、とあるアーティストと交渉中のプロジェクトがありまして、決定すればホログラフィックライブの世界ツアーを2,000〜3,000人規模の会場を持ち回って実施することになります。そこに東京大学情報理工学研究科のプロジェクションマッピング技術を使えないかと考えています。
ホログラフィックは、いわば最先端のプロジェクションマッピング技術です。DMMが持つホログラフィック技術と、東京大学情報理工学研究科が持つ「るみぺん2」などのプロジェクションマッピング技術を組み合わせることで、さらに体験価値の高い映像表現を実現できると思っています。」
初音ミクでの成功体験をもとにホログラフィック分野で独走する
――DMM VR THEATERはプラットフォームとして展開し、その上にコンテンツを取り込んでいくということですが、ホログラフィックの技術が複雑化していくことでプラットフォームヘの参入障壁が大きくなってしまうのではないでしょうか。
黒田氏「実のところ、現状でもDMM VR THEATERの上でコンテンツを走らせる技術難易度は相当高いです。既に誰でも参入できるとはいいがたく、映像業界や舞台業界のトップクリエイターの力があってようやく可能、というところです。
もちろん、かつての映像制作がそうだったように、試行が繰り返され、ノウハウやアセットが積み上げられて汎用的なツールが生まれることで技術的な難易度は平準化し、参入障壁も徐々に下がっていくでしょう。
ただ、DMM VR THEATERの戦略としては、プラットフォームとしてコンテンツ制作のノウハウ面で先行者優位性を持ち、競合の参入を抑える、という側面の狙いもあります。イベント興行としてホログラフィック公演に適したコンテンツというのは、オリジナルではなく既存の人気IPが中心になるので、これは国内数社で競合するほどの選択肢が存在しうる畑だとは思っていません。」
――ホログラフィックシアターの難しさというのは、どういったところにあるのでしょう。
黒田氏「シアター公演を制御するミドルウェアの難しさにあります。複数のLEDパネルや照明、音響などを同期制御しており、取り扱うデータ量も1公演あたり10TB近くと膨大です。
現在は同期信号をよりフレキシブルに扱えるような改修検討していて、将来的にはお客さんの反応を見ながらリアルタイムにストーリー分岐をさせるような仕様も検討しています。
実のところ、そういった技術者目線で言うと、理論上ありえたとしても誰も実行しないバカみたいな発想を真剣に形にするというところでは、東京大学に対して非常にシンパシーを感じる部分であったりします。
先日、東京大学の「ZoeMatrope」を拝見しました。それは、人間の知覚の限界を利用するとこんなことができる、といったギミックを基にしたものですが、理屈はわかっても普通は具体化しないですよね、という(笑)。
現在弊社には、初音ミクのホログラフィックライブを動かしていた私と内海(編注:内海洋氏。以前はセガゲームスで初音ミク関連プロジェクトを総合プロデュース)の両者が在籍しています。初音ミクのライブも、2次元のキャラクターをステージ上に映し出してライブをやるという、考えはするけど実際にはやらないだろう、というものでした。
とりあえずやってみて、突き詰めていったら意外になんとかなる、というのを肌感としてわかっているのは、初音ミクでの成功体験のおかげです。これはちょっと無理かな、という場合の線引きも同様に肌感でわかるようになりました。
初音ミクのライブは、始めて1年でZEPPのような中規模の会場、4、5年経ったあたりでアリーナ公演、海外からも招聘されて……と規模をステップアップしていく中で、簡単には追従できないノウハウが培われました。
DMMの文化としても、キャッチアップしにくい分野に先行して乗り出し独走する、というのが土壌にあるように思いますので、(ホログラフィックは)そういった面でも親和性があるのかな、と思います。」
年末には東映アニメーションとの取り組みの第一弾となる「ONE PIECE」が登場。今後の「DMM VR THEATER」の展開は?
城倉氏「弊社のビジネスとしては、短期的に利益を稼いでいくものもあれば、長期的に投資していくタイプのものもあります。DMM.makeなんかは、果てしなく長い投資になるのかなという感じですが(笑)、市場がないところに市場をつくっていく、というのも含めてやっているビジネスですね。」
黒田氏「DMM VR THEATERに関しては、公演によってはすでに単月で利益化できている状態です。たとえば2.5次元ミュージカルなど、観劇文化が根付いている女子層に人気のあるアニメコンテンツで公演スケジュールを埋めていけば、単館シアターとして恒常的な利益は見込めます。
ただ、偏ったコンテンツ表現を続けていると、ホログラフィック技術自体のイメージが固定され偏ったブランディングをされてしまうという側面もあります。ですから、DMM VR THEATERではある程度のトライアウトを想定し、様々なチャレンジをしています。
例えばファミリー向けのコンテンツは、宣伝費効率が非常に悪く単館公演では成立しにくい状況ですが、11、12月に実施する東映アニメーション様との取り組みの第一弾となる「ONE PIECE」の公演では、繁華街という劇場立地を活用しワンコイン程度の料金設定にすることで、道を歩いている人にふらりと立ち寄り体験してもらう、という試験要素を踏んでいます。来年には長尺の公演を予定しているので、そのティザーの意味合いもあります。
映画産業はビジネスとしてすでに完成されていて、ある程度の宣伝フォーマットでお客さんに情報がリーチするようになっています。一方でDMM VR THEATERのホログラフィック公演はまだまだ認知が低く、そうした状況の中で多くの人にコンテンツ体験としての興味を喚起させるにはどうすればいいのか考えています。もしかしたら、単館の公演では成立しなくとも、ショッピングモールのような商業施設における誘客装置としてなら成立する可能性を秘めているといった考え方もできます。
一般的にショッピングモールなどの商業施設は、映画館がコンテンツで誘客した顧客のライフタイムバリューを見込んで動線設計し設置しますが、映画自体が施設の差別化要素にはなりえません。しかし施設にとってホログラム公演が映画のような誘客装置として見なされれば、商業施設とのビジネスの可能性が見えてきます。
エンターテインメントの世界はプロダクトアウトが原則なので、スタートアップで言われるようなピボットの概念がないのですが、成功モデルを限定しない、というのが今の我々が心がけていることです。少しでも広がっていく可能性があれば、挑戦していくつもりです。
もちろん、将来的にどこかのタイミングでビジネスの方向性がかっちり決まれば、そちらに舵を切るかとは思います。」
© DMM.futureworks Co., Ltd.
© 尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション