VR Watch

DMM.comラボと東京大学情報理工学研究科が協力、次世代のエンターテインメント向けVRを推進

DMM.comラボと東京大学情報理工学研究科は1日、社会連携講座「時空間解析技術の応用研究」を同日から開設することを発表した。テーマパークやショッピングモールなど商業施設向けのディスプレイやアトラクションに向けたVRの応用開発を目的とし、3年間の期間で約1億円の規模で研究を行う。

社会連携講座とは、公益性の高い共通課題について、東京大学と民間機関が協力して教育研究を行うために開かれる講座。

大学側からは情報理工学研究科の石川正俊教授、猿渡洋教授、高道慎之助教授らが参加。大学が行っている研究をエンターテインメントの分野に応用していくことを目指し、DMMからもグループ各社が応用研究の観点で参加する。

時空間解析技術でさらに現実感あるVRを

名称となっている「時空間解析技術」については下記のように説明されている。

「物理世界と情報世界をつなぐといった場合に物理世界は空間軸と時間軸の広がりがあります。今回の社会連携講座ではその両方をいろんな形で取り込んで行こうと思っています。具体的には、視覚というのは空間と時間です、同じように聴覚や運動制御というものも空間と時間を含んでいます。それを時空間解析技術ということでまとめ、今回の社会連携講座のテーマとしております。」

つまり時空間解析技術とは、物理世界と情報世界をつなぐために空間軸と時間軸の広がりに着目するものといえそうだ。

たとえば本サイト読者に馴染み深いVRシステム「HTC Vive」は、センサーユニットによりユーザー(正確にはヘッドセットとコントローラー)の位置や動きをVR空間に反映する機能を持っているが、これは言い換えれば、ユーザーの連続的な位置や運動を空間軸と時間軸で捉えて情報世界に反映しているということだ。

物体の運動、あるいは人間の視覚・聴覚といった感覚は空間と時間にまたがる連続性を持っており、それらを解析することで、VRなどの情報世界に反映したり、逆に情報世界から物理世界へフィードバックを行うことができるようになる。そして情報世界と現実世界のあいだでより精度の高いインタラクションを実現することができれば、より現実感の高いVRを実現することが可能になる、というわけだ。

ちなみにここでいう「VR」とは、AR(拡張現実)やMR(複合現実)などを包含する広義のバーチャルリアリティであり、DMMとしては特にMRの領域に注力していくとしている。

エンターテインメントVRの進化に期待

東京大学情報理工学系研究科は高速画像処理、音声音響信号処理、触覚情報処理、ネットワークコンピューティング等の技術基盤を持つ。例えば石川研究室による「高速ジャンケンロボット」は、人間のジャンケン動作をハイスピードカメラで捉え処理し、ロボットハンドがそれに合わせて人間が知覚できないほどの高速で後出しジャンケンを行うシステム。人間の動作を時空間的に解析し、ロボットの動作に反映させる例だ。

また、同じく石川研究室による「るみぺん2」は、動的な対象に合わせた高速プロジェクションマッピングを行うシステム。下の動画では、めまぐるしくバウンドするボールを高速でトラッキングすることにより、ボールに対して遅延やズレなく映像を投射している。

上記のような技術は様々なエンターテインメント分野、例えばDMM.futureworksにより運営されているホログラフィシアター「DMM VR THEATER」などにも応用可能だろう。もしかしたら、DMM VR THEATERの舞台上の3Dモデルが、観客の動きや声に合わせた高度なインタラクションを行えるようになるかもしれない。ちなみにDMM.futureworksの代表である黒田貴泰氏は今回の発表に関して下記のように語っている。

「いま国内外のテーマパーク・ショッピングモールを含めたあらゆる商業施設の呼び水として既存の常識を覆すような「体験」が求められていますが、東京大学情報理工学系研究科の基礎研究・応用研究にはまさにそういった体験価値に寄与する技術が数多く存在します。
これらをアトラクションとしてパッケージできれば世界に類を見ない素晴らしい体験ツールになることは間違いありません。
それをジャパンメイドとして世界中の商業施設にアウトプットすることが、我々の短期的な目的です。」

とはいえ、現段階で具体的なプロダクトの姿が見えているわけではない。石川教授と猿渡教授は今回の講座実施について下記のようなコメントを寄せている。

「私達は社会への技術移転ということは常々考えており、これまでもやってきましたし、実用化している事例も多くあります。
今回のDMM.comラボとの社会連携講座は、いままで実用化していないようなエンターテイメントという分野なので、非常におもしろいなと思っており、これまでの技術移転とはまた違った展開ができると考えています。
また全部がうまくいかないということをお互いに理解出来ていることも非常にありがたいです。
“マーケットがあるかどうかわかりませんが一緒に見つけましょう”というスタンスに関してはものすごく合意ができています。」

左から、株式会社DMM.futureworks代表の黒田貴泰氏、株式会社DMM.comラボ 取締役兼CTOの城倉和孝氏、東京大学情報理工学系研究科の石川正俊教授、同じく猿渡洋教授

現在のVRブームの中心に位置しているのはヘッドセットを用いる没入型のVRではあるが、今回の講座の内容からほの見えてくるのは、いわば「その先」。例えばスター・トレックにおけるホロデッキのような、特殊なヘッドセットを必要とせずとも体験できるVRもその延長線上にありそうだ。3年後までにどのような成果が生まれているか、期待して待ちたい。