●先週の動き
先週の株式市場はお盆休みも明け、徐々に活気が戻りつつある1週間であった。ゲーム株も”エンジン全開”とはいかないまでも、「ゲーム業界“秋の陣”」みたいなものが起こる前兆さえ感じられた。「ソフトメーカーが最も勢いのあるハードメーカーを選ぶ」のと同時に「ハードメーカーもソフトメーカーを選ぶ」、そのような図式が確立して以来、この業界は戦国時代のような「弱肉強食の世界」に変化してしまったのである。
それは「スーパーファミコン」から「プレイステーション」へ乗り換えた「ファイナルファンタジー」の例を取って見てもわかるだろう。「Win―Win」の組み合わせが一旦成立してしまえば、この牙城を崩すのは非常に困難になる。しかし、先週はそれに挑む「老兵」が健在であることが確認でき、「冬の陣」が始まる頃にはもしかして戦国地図が書き換えられているかもしれない。そんな週間だったのである。
●風が吹けば・・・?
話を現実に戻そう。先週の上昇率NO.1の座は、システムソフト(7527)が獲得した。「大戦略」シリーズで知られる同社だが、先週はちょっと意外な理由で上昇したのである。それは、親会社であるカテナ(9815)が大幅高したからである。カテナは主にパソコン・ソフトの量販店向けの卸やソフト開発などを手掛けているのだが、カテナの子会社である「ソフトウェア生産研究所」(システムソフトから見ると兄弟会社)がすごい特許を米国で取得してしまったのである。
その特許とは、新しいソフトの開発手法「Lyee(リー)」である。「Lyee」とはソフトの開発期間及びコストを従来の5分の1から10分の1に短縮できる画期的なプログラムのことであり、その方法を使うとプログラムの大量生産が可能になるという。何よりも凄いのは、“ソフト開発”の分野で初めて特許が成立したことである。そしてこの特許取得の事実が報道されてからは、カテナ株は2日間値付かずの状態が続き、3日目にようやく寄りついたのである。
その間、カテナ株を買いたいけれど買えない投資家はどのような行動にでたのであろうか? ここからが株の世界特有の“連想ゲーム”の始まりなのである。つまり、その投資家たちは「風が吹けば・・・」的な推理のもとに、「カテナ(親会社)が上がれば・・・」と考え、結局「システムソフト(子会社)も上がる」という結論を導きだしたのである。もともと、システムソフトは品薄株(市場に出回っている株数が少ない株)であり少量の買い注文に対しても大きく値上がりしてしまう特性を持っていたのである。だから、直接関係がない兄弟会社の好材料に株価が大きく反応してしまったのである。「株ってよく分からない」という人が多いのも当然である。
●変な踊り
最近ゲームセンターの入り口でちょっと奇妙な踊りをしている女の子2人組をよく見かける。じっと観察していると、何かを持って両手を上げたり下げたりしている。しかも2人とも息がぴったりなのである。そう、彼女たちがプレイしているのは「サンバDEアミーゴ」であった。マラカスを持って音楽に合わせて踊っていたのだ。
ひと昔前のゲームセンターといえば、薄暗くちょっと怪しい雰囲気の漂う場所であったが、現在ではそういったイメージのかけらも残っていない。最近になって老若男女を問わず誰でも楽しめるレジャー施設として大変貌を遂げ、その象徴として、特に体を動かしリズム感を競う音楽シミュレーションゲームが現在では大流行である。1997年にコナミ(9766)の開発したDJゲーム「ビートマニア」を皮切りに「ダンスダンスレボリューション」やナムコ(9752)の「ウンジャマ・ラミーNOW」などが続々と登場し、全体的に伸び悩んでいたゲーム市場にも明るい兆しが見えてきたのである。「もしかしたら将来ゲームセンターとスポーツジムが合体しているかもしれない」などと考えてしまう今日このごろである。
●ポケモン中毒者続出!?
先週一番ショッキングな事件といえば、任天堂(7974)のゲームボーイアドバンス(以下GBA)の発売延期であった。待ち望んでいたファンもショックを受けただろうが、株価にも深刻な影響が出た。発表を挟んで3日間で約9%下落し、先週のゲーム株のワースト1になってしまったのである。発売延期の理由は、「GBAのディスプレイに使用する反射型タイプのカラー液晶の生産が追いつかない」ということであったが、本当の理由はもっと別なところにあるものと考えている。
それはまさに任天堂の「企業戦略」であったということである。つまり、わざと発売を遅らせたとまでは言わないが、現行機である「ゲームボーイカラー(以下GBC)」の販売が依然好調であることに加えて、携帯ゲーム市場は任天堂の独壇場であるということを考え合わせると、「出し惜しみ」をしていると解釈することができるのである。「既に償却の済んだGBCの方が利益率が高い」と言われてしまえばそれまでだが、静観を決め込んだその姿勢には王者の風格すら感じ取れる。
12月に予定通り発売される携帯電話の接続ケーブル「モバイルシステムGB」と対応ソフト「ポケモンクリスタル」の無限大の可能性(ゲームキャラクターの進化や携帯同士のデータ交換が可能)を考えると、ポケモン中毒にかかるヘビーユーザーの出現は必至と思われる。
今回、任天堂の打ち出した方針は、他のゲームメーカー(ソニーやセガ)の路線とは多少違う方向を向いているが、近い将来電車の中で「ポケモンクリスタル」を真剣にプレーしているお父さんを見つけたら、その時こそソニーという”巨人”を倒したときだと認識できるであろう。
●想像力豊かに
「なぜこの株が上がったのか?」と質問されたとき、時々その理由が分からないときがある。ゲーム株もその例外ではなく、先週のシステムソフトなどはその最たる例であった。また「なぜこの株は下がったの?」と問われたとき、下がる理由が理不尽に思えるときがある。先週の任天堂はまさしくこのパターンだった。
株の騰落はその時々の相場環境に大きく依存している。株は将来の企業業績を反映すると言われているが先週は逆に動いてしまったように思えてならない。それが株の難しさであり、また面白さでもあるのだ。未来の日本を想像しながら株を眺めてみると、想像力が豊かになった気がする。
□関連表
・ゲーム各社騰落率
・ゲーム各社先週の動き
フィスコ アナリスト 黒岩 泰
2000/08/28
|