情報は時とともに劣化する・・・
【1面トップ】
●命運尽きた東京生命
きょうの1面トップは、「戦後7社目」の生保破綻(朝日、読売、日経)と、公示地価の「10年連続下落」(毎日、産経、東京)。
東京生命保険は、国内大手・中堅生保11社の中では最下位の規模。千代田生命保険などが破綻した昨年秋から「次は東京」と囁かれ始め、大和銀行(8319)の支援と外資との提携を柱に自力再建策を模索してきた。
が、毎年100億円の逆鞘が発生する生保を引き受けてくれる外資は終(つい)ぞ現れず、「外資との提携」を前提に支援の意向を示していた大和銀行も支援を見送ることになった。となると、残された道は?
朝日は、なおも「外資系の提携に自力再建の望みをかける」としているが、日経と読売は生保版の会社更生法である「更生特例法の適用を申請する方針を固めた」(日経)と報道。東京生命が既に破綻状態にあることを強調している。毎日、産経、東京の3紙も日経などと同じトーンである。
全紙揃い踏みとなった理由は定かではないが、筆者の情報源によれば、大和の「支援見送り」という「大阪発の情報」が報道合戦の引き金になったらしい。
閑話休題。よくよく考えてみれば、膨大な“負債”を抱え込んだ生保を居抜きで買い取る奇特な外資が現れるはずもない。主力取引銀行である大和も、自らの不良債権処理に追われ、東京生命を救う余裕があるはずもない。「破綻」は時間の問題だった。
が、更生特例法を実際に申請、あるいは申請することが確定するまでは「破綻」と断定するのは難しい。「23日にも(申請)」と“逃げ”を打ちながらも<破たん>の見出しを掲げた日経の報道は蛮勇か?
ちなみにNHKは、今朝のニュースで「きょう申請」と報道。その後、各局の報道によれば、朝イチで東京地裁に申請したらしい。
東京生命が破綻すれば、「契約者が受け取る保険金や年金は貯蓄性の高い商品を中心に、一定割合で削減される」(日経)。要するに、保険版ペイオフが断行されるわけである。
◇一口に不良債権と言っても、いろんな捉え方があり、その規模(昨年9月末時点)も「30兆1,400億円」から「63兆9,000億円」までとまちまち。この違い分かりますか?
新聞などで報道されている「不良債権」の種類は、「問題債権」「リスク管理債権」「金融再生法基準資産査定不良債権」の3つ。「30兆1,400億円」が「金融再生法基準資産査定不良債権」、「63兆9,000億円」は「問題債権」として公表されている数字だ。
いずれも銀行が自己査定に基づいて弾き出した数字だが、多ければいいというわけでもない。専門家に言わせれば、「金融再生法基準資産査定不良債権」が実態を一番反映しているそうだが、これとても全面的に信頼できる数字とは言えないらしい。
とどのつまり、銀行の不良債権がいったいどのくらいあるのか、皆目見当がつかないというのが真相である。
不良債権の蘊蓄(うんちく)はこのくらいにして、この問題にも影響を与える地価のニュースを取り上げる。
が、地価の問題もややこしい。きのう、国土交通省が発表した1月1日現在の「地価」は、国や自治体が用地を取得する際などの判断基準となる「公示地価」。地価には、このほか都道府県の「基準地価」や、総務省の「固定資産税評価」、国税庁の「路線価」があり、不良債権と同様に紛らわしい。
話を戻す。国土交通省が発表した1月1日現在の公示地価は、全国平均で前年に比べ4.9%下落。地価の下落は、これで10年連続となる。
地価の下落は、バブル崩壊と同時に始まったが、その水準は既に1980年代後半のバブル時を下回り、バブルでかさ上げされた分が剥げ落ちてもなお下げ続けている。底なし沼の資産デフレである。
都心部の住宅地では上昇に転じた地点も現れるなど「土地の利便性や収益性の違いにより、地価の2極化が進んでいる」(同省)というが、全国的にみれば、下落傾向にいまだ歯止めがかかっていない。
こうした地価下落は、銀行が保有する担保不動産の価値を下げ、「新たな不良債権が発生する可能性が強い」(読売)。銀行がこれまで68兆円もの不良債権処理を行ってきたにもかかわらず、不良債権の残高が一向に減らないのは、地価の下落で担保価値が目減りし、貸し倒れ引当金の積み増しを強いられているためだ。
では、資産デフレの悪循環を断ち切るにはどうしたらいいのか。読売は「適切な地価形成を促すための土地政策を早急に打ち出す必要がある」と指摘しているが、「言うは易く」である。
毎日は、地価下落を利用の高度化や新規投資増加に結びつけるなどの「プラス思考」でこの問題に対処せよ、と説く。いかにも毎日らしい書きぶりだが、具体的な処方箋は残念ながら描かれていない。
【経済】
●銀行界に広がる赤字決算ブーム
「不良債権を積極的に処理した結果、赤字決算に陥っても責任は問わない」
金融庁にこう促され、大手銀行で最初に赤字決算の方針を打ち出したのは三和銀行(8320)などUFJグループ3行。きのうの朝刊で日経が「東京三菱銀行(8315)なども赤字決算になる可能性がある」と報道、そしてきょうも。
<あさひ銀、赤字検討>
不良債権処理額が予想以上に膨らむ見通しとなったあさひ銀行(8322)が2001年3月期決算を最終赤字とする方向で「最終調整に入った」と日経、朝日、毎日の3紙が報じている。このニュース、時事通信社が最初に報じたが、追随したのはこの3紙だけ。他紙は確認が取れなかったのだろうか。
読売は、大和銀行が赤字決算に踏み切ると報道。東京生命に拠出している320億円が、更生特例法の申請で回収不能になる恐れがあるからだという。
【トピック】
●なぜこの人が?
朝日の世論調査で「次の首相には、だれが一番よいと思いますか」と訊いたところ、トップは小泉純一郎元厚相(13%)、2位は自民党の田中真紀子氏(12%)だった。抜群の知名度と歯に衣着せぬ物言いが、バブル時の地価のように田中人気を底上げしている。
が、真紀子さんがどんな政策を持ち、国会でどんな活動をしてきたのかご存知の人は少ないだろう。「ポスト森」の候補に挙がっている政治家が酷すぎるからといって、マスコミが創り上げた“虚像”を真に受けるのは、はたして如何なものか。
面と向かって批判せず、ひたすら田中氏におもねる早稲田の同級生(テレビ朝日のニュースキャスター)の“罪”も重い。
◇新聞には出ていないが、『瓦版一気読み』の連載は今月末まで。30日で打ちきりとなる。あと、5(営業)日、渾身の力を込めて・・・燃焼し尽くすゾ!
[メディア批評家 増山広朗]
■URL
・瓦版一気読み バックナンバー
http://www.watch.impress.co.jp/finance/kawaraban/2001/03.htm
2001/03/23
09:16
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