FINANCE Watch
コラム 瓦版一気読み~「ゼロ金利復帰」で総裁退陣?

  情報は時とともに劣化する・・・

  【1面トップ】
  ●全紙そろい踏みの「ゼロ金利復帰」
  金融(政策)報道がまたぞろ過熱している。

  日銀の最高意思決定機関である政策委員会・金融政策決定会合が開かれるのは19日。予想はそう難しくない。かなりの確率でゼロ金利の復活を含む大胆な金融緩和策が打ち出されるものとみられる。

  これは、「たぶん」「恐らく」といった類の観測である。金融政策に関する記事も「長距離砲」、つまり早い段階なら、記事にしても実体経済に影響を与えることもなく、読者にも「確定的な話じゃないんだな」ということが分かる。

  が、間際になって“決め打ち”に近い報道を行えば、読者は「もう決まったのか」と思い、市場もそのニュースを織り込み始める。当たれば良いが、外れたら・・・

  こう書くと、記者たちは「裏(裏付け)をとればいい」と反論するが、裏は取れるのか。

  日銀執行部の独自の判断で政策を変更できたのは旧日銀法の時代、つまり1998年3月まで。新法下での政策決定は、執行部の3人(総裁と2人の副総裁)と、民間から起用された6人の審議委員の合計9人の多数決によって行われる。

  各委員の日頃の言動から「票読み」は可能だが、最終結論は議決後でないと分からない。結果をご覧じろ、読みが外れることは十分にあり得るのである。

  そこで新聞は、「決定する見通し」とか「場合によっては4月にずれ込むことも」といった形で“逃げ”を打ち、当たれば「どうだ、ウチが書いた通りになったろ」と胸を張る。

  外れりゃいいが、と意地悪く考えてみたが、今回は新聞の“書き得”という結末になりそうだ。

  ◇東京が14日朝刊、日経と読売が15日朝刊、毎日が同夕刊で。そしてきょうは、朝日と産経が1面トップで、NHKも今朝のニュースで逃げを打ちつつもゼロ金利復帰の“前打ち”をした。

  5年5カ月ぶりの公定歩合引き下げ(2月9日の政策決定会合)はTBSが、短期金利と公定歩合の同時引き下げ(2月28日の政策決定会合)はNHKがスクープ。立て続けにテレビに抜かれた屈辱も、新聞のゼロ金利報道合戦をオーバーヒートさせている。

  早ければいいというわけではない。読者は、早さだけが「売り」の不確かなニュースよりも正確なニュースを評価する。自明の理である。

  ◇毎日によれば、亀井静香政調会長の独断専行にヘソを曲げ、株価対策(与党の緊急経済対策)に盛り込まれた証券税制の具体化のための審議を拒否している自民党税調が、「4月初旬にも」検討に着手する「方向となった」。

  これも、“逃げ”の多い記事だな。

  ◇柳沢伯夫金融担当相が打ち上げた不良債権の最終処理(直接償却)推進策は、債権放棄などの私的整理を中心に金融庁内で検討が進められている。

  しかし、対応を誤れば「徳政令」批判を招きかねない債権放棄に、経営不振企業の取引銀行団に名を連ねる政府系金融機関が尻込みし、最終処理推進の障害になっている。

  そこで金融庁は、政府系金融機関が国民の批判を受けずに債権放棄に応じることができるよう新たなルールの検討に着手した、と日経が報じている。

  ◇そのほか、東京は<トヨタ、プジョーと合併交渉>、読売は<公証人10人申告漏れ、全員判事・検事OB>をトップで報じている。

  【経済】
  ●“3点セット”で株価反転
  きのうの東京株式市場は、前日のNY市場でのダウ1万ドル割れを受けて、一時400円以上も暴落した。NY、東京ともに株安の引き金となったのが、格付け会社の「邦銀格下げ見通し」リポート(相場英雄記者が<フィッチ・リポートが示す「緊迫度」>で詳しく報じている )。

  しかし、その直後、「UFJグループの赤字決算」「株式買い上げ機構に公的資金も」「日銀総裁の金融緩和積極発言」の“3点セット”が株価を押し上げ、「日経平均が1日で700円以上も上下する乱高下の展開となった」(読売)。

  ◇三和銀行(8320)・東海銀行(8321)・東洋信託銀行(8407)のUFJ3行が、2001年3月期決算で合計2,200億円の最終赤字を計上する方針を固めた、と最初に報じたのはNHK。新聞は全紙が夕刊で追随した。

  金融当局が「不良債権を積極的に処理した結果、赤字になっても責任は問わない」と太鼓判を押しても、市場の反応は気になる。記者発表に臨んだ三和銀行の副頭取は、「マーケットに評価されるかどうか分からない。でも、評価して欲しい」と、「祈るような表情」(毎日)で語ったという。

  赤字決算は「買い」材料。UFJが真っ先に飛び出し、横並び主義は崩れた。「綱渡りの体力勝負」(毎日)に、基盤の弱い銀行はどう立ち向かう?

  ◇失言続きの宮沢喜一財務相が主役を演じた「株式買い上げ機構に公的資金も」のニュースもきのうの夕刊で既報。各紙朝刊はその功罪を取り上げているが、専門家の評価も割れている。読者の皆さんは支持・不支持のどちら?

  【トピック】
  ●「ポスト速水」は?
  昨年8月、日銀は「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢に至った」との理由からゼロ金利の解除に踏み切った。が、その後も物価の下落は続き、デフレ懸念どころか、真性デフレ(デフレ・スパイラル)の危機が囁かれるほど深刻な状況になっている。

  ゼロ金利を解除した時点では、「間違いなくデフレ懸念の払拭が展望できるような情勢に至ったが、その後、再びデフレに陥った」という理屈は通用しない。日銀は政策判断を誤ったのである。

  当の日銀は、判断ミスに対する批判を、小刻みな金融緩和策でかわしてきたが、それも限界。19日の政策決定会合でゼロ金利復帰が決まれば、速水優総裁の進退問題に火がつく。日銀内やOBからも「辞意表明は避けられないな」という声が漏れてくる。

  が、「もう1人の総裁(森自民党総裁)」と同様、後継者難の状況で最有力候補と目されるのが、元日銀副総裁で現在は富士通総研理事長を務める福井俊彦氏。日経は1面左肩の企画<どうするニッポン~再生への道>に福井氏のインタビュー記事を掲載している。

  その見識と金融政策の手腕はかなりのものだが・・・

  [メディア批評家 増山広朗]

■URL
・瓦版一気読み バックナンバー
http://www.watch.impress.co.jp/finance/kawaraban/2001/03.htm

2001/03/16 09:18