日本テレコム(9434)の筆頭株主に、世界最大の携帯電話会社、英ボーダフォンが躍り出ることになった。同社は、米AT&Tから10%の日本テレコム株を買い取ることに合意、この結果、出資比率は25%に達し、20%の英ブリティッシュ・テレコム(BT)、15.1%のJR東日本(9020)の優位に立つ。一方、危機感を高めたBTとJR東日本は、既に“ボーダフォン包囲網”を展開しており、当面、現在の日本テレコム首脳が更迭されることはないという見方が大勢だ。
しかし、ボーダフォンの真の狙いは日本テレコムの系列携帯電話会社、J―フォンの買収にあるとみられ、筆頭株主の立場から、子会社のJ―フォンの増資を有利に進め、日本テレコムとの資本関係を分断した段階で、“用済み”の日本テレコム株は放出するのではないか、と観測されている。その売却先には、早くもBTの競合会社である英ケーブル・アンド・ワイヤレス(C&W)の名前が挙がっている。
●苦戦するマイライン商戦
「これまでのところ、苦戦は否めない。料金引き下げを含めて巻き返しを検討している」―。6日、毎月1回の定例会見に臨んだ日本テレコムの村上春雄社長の発言は、この日も芳しいものではなかった。“苦戦”しているのは、5月にスタートするマイラインに向けた顧客の獲得競争のこと。民間調査会社によると、2月中旬時点の登録シェアは、東西NTTが50.4%でトップを走り、KDDI(9433)27.5%、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)18.3%、東京通信ネットワーク(TTNet)15.6%と続き、日本テレコムは第5位の13.1%。緒戦の敗北は否定できず、親会社のJR西日本(9021)とJR東海(9022)が昨年12月、ボーダフォンに15%の資本参加を許して以来の混乱が、マイライン営業にも影響している。
その反面、ボーダフォンが筆頭株主となる結果、第2・第3位の株主であるBTとJR東日本の連合は強化され、危ぶまれていた坂田浩一会長、村上社長の更迭はなくなった。「ボーダフォンから派遣される役員も2人に留めた」(日本テレコム幹部)という。
しかし、ある外資系通信事業者の幹部は「25%の筆頭株主が役員2人の派遣で満足するはずがない。ボーダフォンが今、日本テレコムに要求しているのは執行役員制の導入であり、JRとBT出身の商法上の役員を減らすことで、経営の主導権を狙っている」と解説する。そして、経営上の最大の課題は次世代携帯電話「W-CDMA」の事業化に向けたJ―フォンの増資問題だ。
●不動株を買いあさり?
日本テレコムは昨年8月、持株会社のJ―フォンを設立、その傘下にJ―フォン東日本、同東海、同西日本の地域3社を収めて「W-CDMA」の体制を整備した。現在、まだ資本金32億円のJ―フォンの株主3社のうち、日本テレコムが54.0%を占め、ボーダフォンは26%、BTは20%に過ぎない。が、日本テレコムの54%をその株主の持ち分に応じた間接的な出資に還元すると、実質的な出資比率はボーダフォンが筆頭の39.5%。これに対し、BTは30.8%、JR東日本は8.15%となり、ここでも筆頭株主と第2・第3位株主連合が拮抗する構図になっている。
日本テレコムの筆頭株主であり、J―フォンにおいても実質その地位にあるボーダフォンが、J―フォンの増資に当たって大幅な出資比率の引き上げを求めるのは明らか。それを確実にするため、欧米で流通している日本テレコムの浮動株をさらに買い漁っているという情報もある。もし、ボーダフォンが実質的にJ―フォンのマジョリティーを握れば、自らを引き受け手として第3者割り当て増資を行い、一気に買収することも可能だ。それは、J―フォンと日本テレコムの資本関係の分断を意味し、その時、ボーダフォンに日本テレコム株を保有している理由はなくなる。果たして売却先はどこか・・・。
日本テレコムグループの株主構成 (%)
●日本テレコム 株主 |
●J―フォン 株主 |
●J―フォンの実質出資比率 |
ボーダ フォン |
25.0 |
日本 テレコム |
54.0 |
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直接出資 |
間接出資 |
合計 |
B T |
20.0 |
ボーダ フォン |
26.0 |
ボーダ フォン |
26.0 |
13.5 |
39.5 |
JR東日本 |
15.1 |
B T |
20.0 |
B T |
20.0 |
10.8 |
30.8 |
JR西日本 |
1.6 |
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JR 東日本 |
― |
8.15 |
8.15 |
JR東海 |
1.2 |
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そ の 他 |
37.1 |
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●テレコム株は容赦なく放出
「マイラインで苦戦しているのは日本テレコムだけではない。ケーブル・アンド・ワイヤレスIDCの登録シェアはわずか0.1%」―。ある新電電の幹部はそっと囁いた。C&W・IDCは1999年、伊藤忠商事(8001)系の国際通信事業者だった旧国際デジタル通信(IDC)がNTT(9432)との合併に秋波を送りつつも、NTT対C&WのTOB(株式公開買い付け)合戦の末、C&Wの傘下に入った因縁の会社。
NTTグループにとっては「TOBに負けて、余計な恥をかかされた」という認識があり、マイラインの営業現場では、NTTコムが旧IDCの顧客だった伊藤忠商事グループのユーザーを軒並みリプレースしているという。日本市場で、いわば窒息状態にあるC&Wにとって、日本テレコムへの出資は大きな魅力だ。
ボーダフォンは2月28日、保有する10%のフランステレコム株を仏テレコムに売却すると発表した。その売却額は116億ユーロ(約1兆2,500億円)にのぼり、J―フォン買収の資金を着々と整えつつある。前出の新電電幹部がつぶやく。「ボーダフォンは目的を達成すれば、次の買収に向け、仏テレコム株と同じく日本テレコム株を容赦なく放出する。ただし、仏テレコムと違い、日本テレコムに自社株を買い戻す体力はない」。BT、ボーダフォン、そしてC&W・・・。“百鬼夜行”の通信市場で名門新電電は翻弄されている。
■URL
・日本テレコム
http://www.japan-telecom.co.jp/
・英ボーダフォン、日本テレコムの筆頭株主に~米AT&Tから取得へ
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/27/doc2126.htm
・J-フォンを獲れ!英国勢2社の“オセロゲーム”~日本テレコムグループ経営陣に更迭の危機
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/08/doc1935.htm
(三上純)
2001/03/09
09:42
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