株価下落に歯止めがかからぬ中、「日経平均リンク債」の取引に絡んで価格操作の疑いが強まったとして、証券取引等監視委員会が複数の証券会社から事情聴取を開始したことが明らかになった。デリバティブ(金融派生商品)技術を駆使し、日経平均の動きに連動して償還金額が変わる「日経平均リンク債」が株価急落の主犯としてクローズアップされているが、大手紙の論調は相も変わらぬデリバティブ悪玉論。「日経リンク債」に絡んだ売り物が出てくるのは、相場下落によってあらかじめ予期されたことで、市場関係者の間からは「必要以上にリンク債が悪者に仕立てられたため、強く求めてられてきた構造改革がかすみ、株価下落のそもそもの原因がすりかえられる恐れがある」と懸念する声が上がっている。
●EBと同様「怪しい商品」
「日経平均リンク債」は、日経平均が事前に設定された価格を下回ると、債券を購入していた投資家への償還が元本割れとなるハイリスク・ハイリターン型の商品。先に証券取引等監視委員会が外資系トレーダーの法令違反を勧告したEB(他社株転換社債)と同様、超低金利の長期化に嫌気がさした個人投資家層向けにその高クーポンを目玉に販売された「怪しい商品」だ。
現物株の不振、投資信託の販売伸び悩みを背景に、大手から中小まで国内証券会社がリンク債を積極販売。発行総額は2兆円に迫る規模まで膨らんだが、今回の株価急落局面で元本割れを示す「ノックイン価格」が到来する債券が続出した。
特に相場下落に拍車がかかった2月26日からの1週間では、一般向けに公募された約20本、発行総額800億円分の債券が額面割れとなったほか、機関投資家向けに企画された私募分も公募分を上回る規模で元本割れ債券が出た模様だ。
市場筋の推計によれば、相場下落に歯止めがかからなければ更なる元本割れが続出するのは必至。平均株価が、2日の安値1万2261円から1万2000円の間の水準では、公募のリンク債5本・計350億円が元本割れとなるほか、1万2000円~1万1000円のレンジでは、6本・計430億円が相場下落リスクにさらされる。
●柳沢金融担当相の「懸念」発言
こうした状況を受け、柳沢金融担当相が2日の閣議後会見で「リンク債が短時間に値下げを加速させている。証券取引等監視委員会が見守っており、不公正な取引があれば、厳正に対処したい」との方針を表明。実際、平均株価が昨年末から安値を更新する場面で「償還負担を軽減するため、強引に平均株価の下げを誘うような動きが相当出ていた」(準大手証券)ことは間違いなく、同相の発言は違和感なく市場関係者に受け入れられた。
証券取引等監視委員会が調査に乗り出したとの報道が流れたのは、この直後。市場の浄化に期待を寄せていた市場関係者らは「マニュピュレーション(価格操作)天国の日本市場に警鐘を鳴らすことが期待できる」(外資系証券)と好感した。相場下落が現出した需給悪を、さらに悪化させるような違法行為は許せない、との思いからだ。
●「的外れ」の論調
しかし、リンク債問題を巡る新聞報道は、残念ながら的外れだったと言わざるを得ない。リンク債が、デリバティブ技術を駆使した商品であることに加え、商品設計に携わった金融機関の大半が外資系だったことから「『デリバティブを操って日本を食い物にする外資系金融機関』的な安易な論調が目立った」(外資系証券、準大手証券)のだ。
実際、リンク債を説明する際に「日経平均が下がると外資系金融機関が自動的にもうかる仕組みの・・・」など、「説明不足なずさんな記事にはうんざりした」(同)関係者も多い。また、多くの記事がリンク債を「株価下落の主犯と扱っている」(銀行系証券)ことも、市場関係者には「的外れな報道」と映った。
確かに、平均株価が1万3000円を割り込んだ直後からリンク債絡みの売買が加速、株価下落に拍車をかけたことは紛れもない事実だ。しかし、「ノックインが集中していたレンジに相場が下落してくれば、需給面で当然起こるべき事態が起こる」(同)。企業業績の急速な悪化など、先行きが見通せない経済環境に起因した今回の下落局面とは「一線を画すべきもの」(同)と言える。
むしろ、EB問題と同様に、「個人投資家を食い物にする証券界の体質や、償還負担軽減を狙った証券会社の価格操作を突くべき」(外資系資産運用会社)なのである。
●主犯「すり替え」への懸念
前週末2日の米店頭市場(ナスダック)総合指数が再び下落に転じたことから、今週の東京株式市場は一層の下落リスクにさらされることは確実。これが現実のものとなれば、前述したように更に多くのリンク債が「ノックイン」することになる。市場関係者は「構造改革という重要テーマが、リンク債悪玉説にとって変わられる」(別の外資系運用会社)ことを警戒する。
今週中にも発表される見通しの与党の経済(株価)対策は「市場に目新しい材料を提供できない」(与党関係者)とみられ、株式市場は再び失望感に覆われることが予想される。
こうした中、政府や与党の要人が手っ取り早く株急落の原因をすりかえるには、「リンク債は都合の良い存在」(同)となり、「素人が書いたものばかり」(先の運用会社)のマスコミの論調は、格好の援護射撃となる。リンク債を槍玉に挙げるような政府・与党関係者の発言は、構造改革先送りのサインとはうがちすぎか。
■URL
・いかがわしい“投資商品”にメス~投資家を泣かせたEB商法の罪
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/23/doc2099.htm
・株式市場は「亀井売り」の様相に~相場の足を引っ張る自民政調会長
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/02/doc2160.htm
(相場英雄)
2001/03/05
13:34
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