わずか20日足らずの間に、2度も公定歩合を引き下げる離れ業を演じた日銀の速水総裁。決定直後の記者会見では、利下げの背景となった日銀の景気判断やゼロ金利政策への復帰問題、銀行の不良債権の直接償却との関連などに、記者の関心が集まった。しかし総裁発言の中で、今回最も注目されるのは、速水総裁がさりげなく政府・与党にケンカを売った点にある。
●「政局」に言及した総裁
問題の発言は、ゼロ金利への復帰の可能性について、記者の質問に答える形で飛び出した。総裁はまず、ゼロ金利復帰の可能性について「現段階では何とも言えない」「ゼロ金利も含めて、通常は行われないような政策についても効果や副作用について十分慎重な検討をしていく必要があると思っている」などと話し、復帰に含みを持たせた。
その上で、回復の動きが一段と鈍化している日本経済の現状について「不透明要因が随分重なってきている」と指摘。その不透明要因の具体例として「米国の景気動向」「日本の政局」「不良債権の直接償却(最終処理)問題」の3点を挙げている。このうち米国経済の減速については、目新しい要因ではないが、政局が景気に与える影響について日銀総裁が言及するのは異例だ。
速水総裁は、「日本でも、政局自体がどういう風に変わっていくのか」と述べただけで、森政権や与党に対する直接的な批判の言葉は慎重に避けている。しかし、ゼロ金利復帰の可能性について答えた文脈の中で、政局を日本経済の不透明要因のひとつとして指摘した意味は大きい。
●ゼロ金利復帰の導火線に?
株価が大きく下がるたびに燃え上がる政府・与党の日銀批判に対し、「景気のダウンサイドリスクを生み出しているのは、政府・与党だって同じこと」「ゼロ金利復帰を求める前に、政府・与党としてやるべきことがあるだろう」と言い返しているのに等しいからだ。
2度の利下げやロンバート型貸出(補完貸付制度)の創設など、日銀はなすべきことを実行してきたという自負も、言外に隠れているかも知れない。また、不良債権の最終処理問題も、促進のための有効な対策を打ち出せずにいる金融庁や経済産業省、国土交通省に対する牽制球ととれなくもない。
こうした政府・与党への批判的な発言は、それ自体正論として市場では評価されるかも知れない。しかし、永田町や霞ヶ関での反応は微妙だろう。
そもそも、2度の利下げについても、公式コメントでは好評価を受けているようだが、本音では「ゼロ金利解除のタイミングが悪過ぎた」「昨年末に対応していれば、下振れリスクはもっと軽くて済んだのに」といった不満がくすぶっているのが実情だ。
さらに、ポスト森政権成立の暁には、新たな景気対策として、日銀が何らかのカードを切るよう求められる可能性も少なくない。森政権の末期になって、重要な切り札を2枚も切ってしまったため、残された大きなカードは限られている。
今後の景気動向次第では、ゼロ金利復帰待望論が強まる可能性が強い。そうした情勢下で、今回の速水総裁の政局発言は、逆にその導火線の役割を果たすことになるかもしれない。
■URL
・日銀(金融政策)
http://www.boj.or.jp/seisaku/01/pb/k010228a_f.htm
・日銀、政策金利を0.1%引き下げ~ロンバートレートも連動
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/28/doc2140.htm
・日銀、公定歩合0.35%に引下げ~事実上ロンバートレートに衣替え
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/09/doc1964.htm
・総裁ダブル退陣論が浮上~日銀総裁にも早期辞任促す声
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/15/doc2000.htm
(舩橋桂馬)
2001/03/01
10:31
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