平均株価はきょう2月28日も1万3000円の大台を割り込み、冴えない展開が続いているが、市場関係者の間からは「そろそろ底値」との声も聞こえてくる。柳沢伯夫金融担当相の突然の「直接償却」発言や日銀首脳陣の追加金融緩和示唆発言を受け、海外投資家が日本の構造改革を見越して「買い戻し」から「新規の買い」にスタンスを変え始めているからだ。が、油断は禁物。見方を変えれば、ここで構造改革が成就しなければ海外勢がいよいよ日本を見放す可能性が高いともいえ、金融当局の実行力が試されているのだ。

　 ●「最終処理」を好感する市場
　 柳沢金融担当相が、銀行の不良債権を帳簿から完全に切り離す直接償却（最終処理）の推進方針を正式に表明したのは2月20日。22日には日銀の田谷禎三審議委員が、「日銀としてもそれなりの対応が必要」と言及。山口泰日銀副総裁が24日の共同通信とのインタビューで「柳沢大臣の言われることはごもっともで、ぜひとも進めていただきたい」と柳沢氏の方針に賛意を表明した。

　 金融当局の首脳陣が相次ぎ、不良債権の最終処理に前向きの姿勢を示したことを、市場関係者は「構造改革の実現に向け、金融当局がいよいよ動き出した」（銀行系証券エコノミスト）と好感した。最終処理の本格化によって生じるデフレ圧力を、日銀が何らかの緩和措置でサポートするとの期待感が金融・資本市場で形成されたわけだ。

　 こうした金融当局のスタンスの変化に最も敏感に反応しているのが、大手銀行の株価。今年に入ってから軒並み昨年来安値を更新する銘柄が相次いだが、柳沢発言を境に急速に値を戻す展開が続いている。

　 今週に入ってからは、みずほホールディングス（8305）の株価が2月8日に付けた昨年来安値58万7000円から78万円まで急騰したのをはじめ、三和銀行（8320）、東京三菱銀行（8315）、住友銀行（8318）の株価も上昇、「ショートカバー（買い戻し）というだけでは説明がつかない」（米系資産運用会社）という。

　 ●既に流れていた「抜本改革」の観測
　 徹底的に銀行株を売り込んだ海外投資家が買い戻しに動いたことは間違いないが、「新規で買いを入れる向きも少なくない」（欧州系資産運用会社）ことも急伸の要因になっている。

　 実は、株式市場では、柳沢発言以前から「金融絡みで何らかの抜本対策が打ち出される」（銀行系証券）との観測が根強く囁かれていた。

　 その伏線となったのが、米国のブッシュ新政権誕生後、「有力な米元閣僚が抜本的な金融システム改革を求める親書を携えて来日、自民党幹部に変革を迫った」（市場筋）との噂。俎上に上った元閣僚は、かつてブッシュ・シニア政権時に米国の金融システム危機をその行政手腕で乗り切り、金融問題の深刻さを十分知る人物だっただけに、真偽のほどはともかくとして、「抜本改革」の観測を裏づける形となった。

　 このほか、「与党幹部が特定の業界、つまり不良債権の象徴とも言えるセクターの整理スキームの説明のため、地方の主要都市に隠密で出かけている」（別の市場筋）との観測も、銀行株の「新規の買い」を強く促した。「セクターの中の優良企業を受け皿に、業績悪の会社をいくつか統合させ、受け皿となる企業には、公的な資金援助、もしくはそれに近い支援策が実施される」（同筋）という。

　 金融当局者の一連の発言がこうした観測を裏づける結果となったわけで、新規の買いを促すには十分な説得力となった。

　 ●失望の反動は大きい
　 27日の衆院財務金融委員会で、日銀の速水優総裁は構造改革に向けて「直接償却が本来の姿」と持論を展開する一方で、改革によってデフレ圧力が高まる可能性を指摘。「株価の動きを良く見て、間違いのない金融政策をとっていきたい」と強調した。

　 同日の銀行株は急騰の後で利益確定売りにさらされたが、「上げ基調に向けてのほんの一服」（外資系証券）との見方が大勢。「倒産件数の増加など短期的なマイナス要素はいたしかたないとしても、構造改革に向けた道筋ができた」となどと、海外投資家を中心に不良債権の最終処理を織り込み始めた。

　 が、当の金融庁を始め、日銀内でも「総裁にそこまで踏み込ませる発言をさせていいのか」（中堅幹部）など、構造改革に向けたアドバルーンは上がったものの、実務段階ではまだ詳細が詰め切れていないのが実情。

　 大臣・総裁と相次ぐトップ発言で金融面での構造改革を打ち出した日本。「仮に市場の期待を裏切るような中身が出てくれば、その反動は銀行株の買い戻し幅の数倍の規模でやってくる」（先の欧州系運用会社）可能性もあり、綱渡りが続く。