FINANCE Watch
いかがわしい“投資商品”にメス~投資家を泣かせたEB商法の罪

  「毒饅頭」と呼ばれ、いかがわしい投資商品とのレッテルが貼られていたEB(他社株転換社債)に、ようやく当局のメスが入った。証券取引等監視委員会は今月中旬、EBの売買に絡んで外資系証券トレーダーの法令違反を指摘、金融庁に適切な処分を下すよう勧告した。いかがわしい商品がどう作られ、どう売られたかを探っていくと、外資と国内証券会社が強力タッグを組み、個人投資家を食い物にしていた実態が浮かび上がってくる。

  ●ハイリスク・ハイリターンの「毒饅頭」
  EBは、デリバティブ(金融派生商品)技術を駆使した仕組み債券。債券の形をとっているため、利率もあるが、その名「エクスチェンジャブル・ボンド」が示す通り、中身は特定の株式(株価指数)の値動きに連動するハイリスク・ハイリターン商品である。

  個人投資家向けに積極販売されたEBの基本的なスキームはこんな内容だ。

  ソニー(6758)など優良企業の株価が、一定期間中にあらかじめ設定された水準以上ならば、個人投資家が投資した元本と5~10%程度の高利回りが保証される。半面、株価が設定水準を下回れば、値下がりしたソニーの現物株がそのまま償還される。

  1998年に株式関連の規制が緩和されてから商品開発が可能になったもので、日本経済新聞をはじめ、新聞や雑誌で全面広告が打たれたのは記憶に新しい。

  IT革命に浮かれ、関連銘柄が一斉に値を上げたバブル相場の時、ソニーをはじめ東京エレクトロン(8035)やNTTドコモ(9437)、村田製作所(6981)など名だたるハイテク企業の株式への転換条項を組み込んだ債券が約3兆円も発行された。

  ●リスク隠して売りさばく
  怪しげな外債投資に懲りた個人投資家に売り込みを図るには、為替変動リスクを避けた「国内物」が前提条件となる。しかし国内というだけでは様々な投資信託や他の金融商品が既に販売されている。

  超低金利下で個人投資家の歓心を買うには「高利率・債券・有名企業の株式」という要素を組み込んだ商品の開発が必要で、こうした条件を組み合わせて商品を開発するにはデリバティブの専門知識が不可欠。そこで登場するのが、デリバティブを駆使することに長けた外資系金融機関だ。

  グループ企業が債券の発行体となり、日本国内に籍を置く系列証券会社が商品設計や販売先のアレンジを行う役割を引き受ければ、「絶対に損をしないおいしい商品ができあがる」(欧州系証券)。こうした思惑を背景に「グループ内でオプション取引や株式のディーリング収益が上がる構図ができ上がっていった」(金融筋)のだ。

  一方、設計能力はないが、販売力だけは誰にも負けない国内証券もEBビジネスに触手を伸ばした。さすがに大手勢は「個人投資家が背負うにはあまりにもリスクが高すぎる」と敬遠したものの、準大手や中堅、中小証券はこぞって販売に乗りだした。

  が、その販売手法は「著しく不適切なものだった」と、当の準大手証券関係者が明かす。

  まず販売面で、EBが「債券」である点を強調。株式はリスクが高過ぎると敬遠する顧客の耳元で、債券の持つ「安定性」を囁きかけ、「デリバティブという化粧を施し、高利回りが期待できるという触れ込みで“金利”商品に仕立てていった」(金融筋)。

  株式というボラティリティの高い商品が組み込まれたリスクの説明はないがしろにされたのである。

  ●クリーンヒット放った証券監視委
  証券取引等監視委員会が、意図的に株価を操作したとして金融庁に「適切な措置を講じる」よう勧告したのは、欧州系のUBSウォーバーグ証券とコメルツ証券のトレーダー。かねて「EBの元本割れを、商品を組成した側があえて演出する動きがあった」との観測を、当局が裏付けた形だ。

  同委は、「執拗に取引データをひっくり返し続けた」(UBS筋)結果、不正行為を発見。「会社ぐるみの意図は証明できなかったものの、行政サイドから出た久々のクリーンヒット」(先のディーラー)として、EBの存在を快く思っていなかった証券関係者から高く評価された。

  もうひとつ同委が市場から高得点を与えられたのが、EBの販売面の調査にも力を入れた点だ。1月末から、時事通信社や日本経済新聞が同委の動きを報道、「スネに傷を持つ販売証券会社は戦々恐々だった」(銀行系証券)ところに、記者会見で「勧誘上の面で問題点が散見された」と強調したのだ。

  いかがわしい売り方は許さぬとの姿勢を当局が示したことで、「証券界を揺るがす一大スキャンダルに発展するのは確実」(同)と証券界の膿出しを期待する声が高まっている。

  ●怪しい商品に終止符を
  「EBは、お手軽な商品設計で高収益を上げられる外資系、委託販売手数料で日銭を稼げる国内証券ともにメリットの大きい存在だった」と話すのは、外資系証券幹部。

  今回も、損失というツケが個人投資家に回された。相場下落という副作用がもとで、外資系のあこぎな手口と国内証券のずさんな姿勢が浮き彫りにされたわけだが、「近い将来、EB的な商品は必ず出てくる」(欧州系運用会社)ことは確実。

  またぞろ、「毒饅頭」を生み出す土壌を絶やすためにも、証券監視委の徹底調査が求められる。と同時に、怪しいことを承知で個人投資家に商品を売りつける証券界の体質改善も喫緊の課題といえそうだ。

■URL
・証券取引等監視委員会の勧告
http://www.fsa.go.jp/sesc/reco/reco-j.html
・証券監視委員会の検査結果について(UBSウォーバーグニュースリリース)
http://www.ubswarburg.co.jp/flash/index.html
・むかし外資系、いま国内証券?~暗躍する“怪しい取引”
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/19/doc2034.htm

(相場英雄)
2001/02/23 14:17