違法すれすれの「グレーな取引」といえば、日本企業相手の損失先送り取引が「公益を害する」として免許取り消し処分を受けたクレディ・スイス(CS)グループの銀行の例に象徴されるように、かつては外資系金融機関の十八番(おはこ)だった。が、市場の状況はすっかり様変わり。“怪しい”金融取引の「主役」は、国内の大手証券会社に取って代わった。
●金融庁から指摘受けた「時間差益出しクロス」
金融庁は昨年末から大手銀行5行への金融検査を実施しているが、そのうちの1行でこんな一幕があった。ある金融取引を巡り、同庁の検査官が「違法行為に当たる可能性がある」と指摘したというのだ。
指摘を受けた取引は、昨年7月に行った東証株価指数(TOPIX)先物取引。かつてCSグループが損失先送りの“飛ばし”取引に多用した店頭物のデリバティブ(金融派生商品)ではなく、東証で取引されるれっきとした上場物のデリバティブだ。どこに問題があるというのか。
その直前に大手百貨店のそごうグループが経営破綻。株価下落の見通しが強まっていた頃で、日本公認会計士協会が2000年4月から利益計上を認めないとしていた「クロス取引」がTOPIX先物を使った取引で実行された。
しかも、保有株式の一部を売り切るのではなく、かつて銀行のお家芸だった「益出しクロス」を行い、保有株式の値下がりを回避しようとした。
「益出しクロス」とは、時価が簿価を上回り含み益の出ている株を売り、直後に買い戻す取引のこと。不良債権処理の原資を確保するため、銀行が長年多用してきた手法だ。しかし公認会計士協会が不透明な会計処理として、実質的にこれを認めない方針を打ち出した以上、公然とはできない。
そこでこの銀行は、大手証券会社の自己売買部門に保有株をいったん売却。即座に買い戻すと「クロスの益出し」となるため、1週間後にポジションを買い戻した。この間の価格変動リスクを回避するため、TOPIX先物にヘッジ買い注文(約2,500億円相当)を入れていたという。
●“益出し”に焦る証券会社
こうした「時間差益出しクロス」と同じスキームの取引は、「国内の大手証券会社」(金融筋)から他の大手銀行や地方銀行にも持ち込まれた。1週間程度の「時間差」取引の当否は、この時点では「ケース・バイ・ケース」で判断されていたが、ほとんどの銀行は「利益計上が認められない時のリスクが大きい」と取引に応じなかったという。
現在の基準では“クロ”となるため、同じような取引は見当たらない。だが、年度末を控え、銀行が保有する株を一定期間、他の代替商品に置き換えることを勧めたり、特別目的会社(SPC)を使った損失先送り型の資産流動化を促すなどの“怪しい”スキームが「複数の国内証券から銀行に持ち込まれている」(大手銀行関係者)。
裏を返せば、市況低迷や手数料引き下げ競争などで収益悪化にあえぐ証券会社が、苦し紛れに“怪しい取引”に傾斜している実態が浮かび上がる。「時間差クロス」を問題視した金融庁は、「怪しい取引には厳しく対処する」と商品の売り手側にも厳しい監視の眼を光らせるのだが・・・。
■URL
・金融庁
http://www.fsa.go.jp/
・クロス取引の規制緩和でPKO?~自民の株価対策に失笑再び
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/01/doc1233.htm
(相場英雄)
2001/02/19
14:00
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