公定歩合引き下げや3月からのロンバート貸し出しなど、年度末をにらんだ日銀の懸命な金融政策にも拘らず、13日の株式市場は下落している。東京市場の平均株価は先週8日、一時1万3000円の大台を割り込み、金融危機に見舞われた1998年10月以来の安値をつけたばかり。
8日は大和銀行(8319)、安田信託銀行(8404)、日本信託銀行(8405)を除く大手銀行11行中の7行が昨年来安値を更新。東証1部の出来高ランキングでも5行が上位10位以内に顔を出した。先月まとめられた有力外資系証券のリポートによると、1万3000円は大手銀行全ての保有株式の含み益が完全に消滅する水準。これが事実なら「含み損拡大が不良債権処理の遅れにつながる」という“法則”通りの展開となる。
●ライバルも入手に奔走
先月中旬、ジャーデン・フレミング証券の銀行アナリストが作成した「株安による銀行経営への影響」と題するリポートが、機関投資家のもとに届けられた。このリポートは、株安が大手銀行の経営にどのような影響を与えるかを分析。大手銀行の保有株式の損益状況を平均株価の水準ごとに区切り、詳細なデータを提供している。
通常この種の分析は、大雑把な内容であることが多く、機関投資家などの関心を引くケースは少ない。が、このリポートについては「どこでどう数字を引っ張ってきたか知らないが、現状を的確に分析している」(大手都銀関係者)と当事者からも評価され、大手銀行の株式運用部門や経営中枢の間でも話題を集めた。
しかも、含み損益の分布を示すだけでなく、公的資金の注入を受けた銀行が3月期末時点で国に配当を維持するための含み損の「許容額」も掲載されていたことから、同業他社の銀行アナリストまでもが入手に奔走する場面もみられた。
「今年度末日経平均株価が1万3000円となれば、仮に今・来期計画通りの最終利益を計上したとしても、公的資金の注入を受けた大手主要行のうち3行で配当可能原資が枯渇する」
ジャーデン・フレミング証券のリポートがこう指摘する3行とは、あさひ銀行(8322)、東洋信託銀行(8407)、中央三井信託銀行(8408)。1万3000円でみると、あさひ銀の含み損は1,748億円(配当維持可能な含み損許容額は1,572億円)、東洋信は1,421億円(同573億円)、中央三井信は3,636億円(同2,198億円)になるという。
●目が離せない「ポテンシャル銘柄」
8日に昨年来安値を更新した7行のうち、あさひ銀と中央三井信託はこの中に含まれている。東洋信に関しては、三和銀行(8320)、東海銀行(8321)と今年4月に「UFJグループ」を形成することが決まっているため、「売りがかさんでもグループがなんとか面倒を見ることが確実。面白みがない」(外資系証券)と売りターゲットにはさらされていない。
そうしたなかで、このところ標的となっているのがあさひ銀だ。同行は、三和・東海連合から離脱。有力グループ内の傘下入りしている東洋信、中央三井信とは別扱いを受けているためで、「株式の含み損と配当原資枯渇の連想も誘い、3月末までに“何かある”という意味で“ポテンシャル銘柄”とのレッテルが張られ始めた」(同)という。
例年、2月は持ち合い解消売りが本格化し、事業法人からの売りに銀行株のパフォーマンスが著しく低下する。しかし他の大手行に比べ、むしろ、あさひ銀はこの圧力にさらされにくい銘柄として知られ、著名アナリストの中には今でも「買い」を推奨する向きも少なくない。
市場では同行株の下落について「売買手口からみて、売り叩きを狙ったヘッジファンドが仕掛けている」(外資系運用会社)との見方が根強い。生保などから同行株を借り、空売りを仕掛けているとの見方もある。こうした動きを証券会社のディーラーが見逃すはずはなく、同行株は商いを伴って下落色を強めている。連日東証1部の出来高ランキングの上位に顔を出しているのは紛れもない事実だ。
今年度末に金融を巡る不安がないと「安全宣言」を出し、現在もこの姿勢を貫く金融庁・日銀。彼らの主張が正しければ、あさひ銀をはじめとする「ポテンシャル銘柄」も安泰なのだが・・・。
■URL
・揺らぐ「安全宣言」の確度~金融当局の国際公約に「?」
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/05/doc1895.htm
・日銀、公定歩合0.35%に引下げ~事実上ロンバートレートに衣替え
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/09/doc1964.htm
・公定歩合の“意味”が変わる?~市場の観測に日銀は音無しの構え
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/02/doc1877.htm
(相場英雄)
2001/02/13
15:27
|