「毎日開いて、株価対策を考える」と、大変な意気込みでスタートした自民党の証券市場等活性化対策特命委員会(委員長・相沢英之前金融担当相)の議論が、早くも尻すぼみの気配だ。一時は、バブル崩壊後の最安値(1万2879円97銭)を割り込むかにみえた平均株価が1万4000円前後まで回復、落ち着きを取り戻してきたためで、与党の委員会も急速にやる気を失っているという。市場では「特命委が打ち出せる最高の株価対策は、もはや『予算の早期成立』しかない」といった投げやりな声すら聞こえてくる。
●戦意喪失させた外人買い復活
特命委の意気込みが萎えてしまった最大の理由は、平均株価が落ち着きを取り戻したこと。ただ、昨年末から年初にかけての下げ局面で、最大の売り手とされていた外国人投資家が、実は12月から買い越しに転じていたことも、永田町の戦意喪失に一役買っているようだ。
金融担当相時代の相沢委員長が、外資による破綻銀行の買収を嫌っていたのは有名な話。特命委のメンバーには、こうした外資アレルギーがかなり強く、今回の株価急落局面では、「外人売りにかき回されている」との“愛国心”に駆られた政治家が多かった。
ところが、年初に発表された投資家別の売買動向によると、11月まで売り越しを続けていた外人投資家が、12月に入り小幅ながら買い越しに転じていたことが判明。1月第1週、第2週にも買い越しを続け、それに平仄(ひょうそく)を合わせるかのように、外国為替市場の円安トレンドも一段落した。
結局、自民党の亀井静香政調会長らが「株価対策を!」と、声を限りに叫んでいた頃、投資戦略に長けた海外の投資家は「絶好の買い場」と判断して、こっそり買い出動していたことになる。つまり永田町の危機感と“愛国心”が、外人投資家に「買い場」を提供したに等しい。
●経済界からは拙速回避の声も
特命委が大真面目に株価対策を検討すればするほど、こうした外人投資家を儲けさせることになるのだから、特命委のメンバーとしては、面白かろうはずがない。
特命委が戦意を喪失しているもうひとつの理由は、派手にアピールできそうな株価対策が、むしろマイナスだと市場の総スカンを食らい、打つ手がなくなりつつあることだ。
預金保険機構による直接の株買い支えや「転換国債構想」などが「むしろ外人売りを誘いかねず、株価にもマイナス」と否定され、証券税制の早期改正の実現も難しい情勢。唯一の頼みの綱だった「金庫株」の解禁問題も「不公正取引の防止のため、拙速は避けるべき」といった声が、当の経済界から出る始末だ。持ち合い株の「等価交換」も、早期実現に向けたハードルは高い。
このため、永田町では「公的資金による株買い支えのような、グローバルスタンダードに反した株価対策を、特命委が採用しないと表明したから、株価が下げ止まった」といった、都合の良い解説も流布され始めている。肝心の「金庫株」についても、当初の株価対策としてではなく、外資の日本企業買収への対抗策という文脈で、語られ始めている有り様だ。
●しまらない“落としどころ”
しかし特命委としても、とりあえず振り上げたこぶしの下し方ぐらいは、検討する必要に迫られている。
現在、自民党内で囁かれている“落としどころ”は「やはり予算の早期成立が、最大の株価対策だ」という、まったく新鮮味のないもの。しかし、いきなりこの「切り札」を見せてしまうと、市場の反動が怖すぎる。
このため、まず出来る限り時間を稼いで、株価対策の議論を続け、小刻みに相場を刺激しようという「高等戦術」まで噂されている。
議論を続けている間に株価がさらに上昇すれば、「特命委での真面目な議論が功を奏した」と自画自賛すればいい。KSDや外務省スキャンダルの影響で国会審議が滞り、株価が再び下がりだしたら、「予算を人質に取った野党」を非難すれば済む。いずれにせよ、株価の趨勢が明確になるまで特命委を続けていれば、手柄(または言い訳)は向こうから転がり込んでくる―。特命委の「高等戦術」も、所詮はこの程度らしい。
■URL
・早期解禁は「?」~「金庫株」に時間の壁
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/19/doc1713.htm
・唐突な日銀総裁指示の波紋~「資金供給策拡充」に憶測広がる
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/22/doc1732.htm
・巨額デリバティブ清算で大波乱か?~市場が抱えるもう1つの不安要因
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/15/doc1660.htm
(舩橋桂馬)
2001/01/26
09:52
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