株価の低迷による銀行の経営体力低下で、大手行への公的資金再注入の可能性が雑誌メディアなどで盛んに報じられている。現在の株価水準では、大手16行の株式含み益が底をつくからだ。外資系有力証券の試算では、東証株価指数(TOPIX)が1300ポイントでは大手銀行の中で、東京三菱銀行(8315)、住友銀行(8318)、三和銀行(8320)、住友信託銀行(8403)を除く12行が含み損を抱え、1200ポイントでは全行が含み損に転落。17日の終値は1280ポイントと、まさに瀬戸際だ。
ただ、当局サイドには今年7月末の参院選を控え、大胆に一段の金融構造改革に踏み込む気配はむしろ薄い。財務省筋によると、今年3月期決算に絡んで実現する可能性が高いのは「一部大手行の実質的な国有化」だというが、それに向けて金融当局としての腰が定まっているとは言い難い状況だ。
●銀行経営に国が関与?
3月末で期限切れとなる公的資金注入の条件は、自らリストラや再編を前提に自己申請した場合に限られる。しかし、株価変動という一時的な要因に基づいて、個別銀行の経営者が、市場の攻撃にさらされるリスクを冒してまで「自主的な『申請』に踏み切ることは考えにくい」(日銀)のが実態だ。
また、1999年3月末に厚めに資本を注入しているため、国際決済銀行(BIS)基準の自己資本比率で健全性を保証する8%を直ちに割り込むことは、「大手16行ではまずありえない」(同)ため、“駆け込み申請”の可能性は極めて低い。
ただ、公的支援で金融システム危機をひとまず乗り切った大手行が、このところリストラの手を緩めて中だるみ的状態に陥っており、復帰した柳沢伯夫金融担当相らがいら立ちを募らせているのも事実。そこで、事務当局が密かに想定しているのが「優先株の議決権復帰」を軸とした改革案だ。
株の益出しが不可能になった中で、不良債権処理の積み増しを迫られると一時的に赤字転落する銀行が出てくる可能性がある。剰余金などの蓄えが足りなければ、国が持っている優先株式の配当もできなくなるが、無配転落すれば優先株に議決権が発生し、国が株主として経営に直接関与する道筋が付けられるのだ。
場合によっては、国が役員を送り込むことも想定される。こうしたルートで、国が給与や人員などのリストラを直接指揮するという、実質的な国有銀行化構想だ。
●当面は「原価法」で乗り切りか
しかし、まだこれも着想に近い段階にとどまっている。仮に実現すれば、個別行の経営責任を国が背負うことになるが「当局内には具体的なリストラの手法など、経営実務に通じた人材はいない。そもそも国が取るべきリスクではない」という冷静な声が支配的。
結局、保有株式の含み損の償却を先送りできる「原価法」の会計ルールにすがって、今年3月の決算期を表面上の波乱なく乗り越える公算が高いといえる。
ただ、時間が過ぎれば株価が回復する保証はまったくないため、金融システムが不安定なまま放置される事態は続く。前述した有力外資系証券の試算によると、TOPIX1200ポイントでの含み損は、三菱東京フィナンシャル・グループですら4,685億円、三井住友銀行は6,948億円、UFJは5,055億円と巨額。
ただし、みずほフィナンシャルグループは1兆3,619億円とされているが、業界関係者によると6,000億~7,000億円となるもようで、この試算は損失が過大に評価されている可能性もある。
■URL
・巨額デリバティブ清算で大波乱か?~市場が抱えるもう1つの不安要因
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/15/doc1660.htm
・再編マップ(銀行)インデックス
http://www.watch.impress.co.jp/finance/map/bank/
(小倉豊)
2001/01/18
12:14
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