2000年末から下げ続けている株価(日経平均)が、前週11日に1万3,201円07銭と昨年来安値を更新、1998年10月に付けたバブル崩壊後の最安値(1万2,879円97銭)をうかがう水準まで落ち込んだ。米国市場が不安定な動きを続けている上に、日本の景気の先行き不透明感がさらに強まるなど買い材料がないことから、市場関係者の多くが最安値更新を織り込み始めている。地合いが好転しない中、一部で日経平均が1万3,000円台を割り込んだ瞬間から大波乱が起こるとの懸念も出ている。株式関連の巨額デリバティブ(金融派生商品)のポジションが清算される、というのだ。
●リンク債の権利消失は「前哨戦」
日経平均の値動きは、現物株式の売買動向だけが決めているわけではない。証券取引所で取引される先物指数、オプションなどの上場物デリバティブ指数の上下動や、機関投資家など主に大口の資金を動かす顧客同士が利用する店頭(OTC)のデリバティブ商品の動向にも大きく左右される。このところ相場全体の下げ基調が強まっている背景には、個別現物株式の値下がりのほかに、こうしたデリバティブ商品も影響しているのだ。
日経平均が1万4,000円を割り込んだあたりから、同指数と連動するデリバティブ商品「日経リンク債」の存在がクローズアップされている。具体的には、内外の優良企業がオプション条項を盛り込んだ利率数%の債券を投資銀行を通じて発行。例えば、期間2年物の債券を発行するとして、この期間内に日経平均が1万4,000円を下回らなければ、表面金利に数%の利率がさらに上乗せされる、といった種類の債券だ。
債券発行企業は、普通の債券を発行するより確実な資金調達が可能になる。一方、低金利の長期化で運用難に陥っている機関投資家には、魅力的な資金運用手段と映る。事実、こうした双方の需要は盛り上がり、内外の証券会社が盛んに同種の仕組み債の発行をアレンジした。
ただ、この種の債券は1999年から2000年前半までに組成されたものが多い。オプション条項がヒットする株価指数の設定水準が、当初下がるはずがないとみられていた1万4,000円~1万2,000円台に置かれていたため、「最近の相場下落とともに、権利消失する仕組み債が相次いだ」(大手証券)のだ。
これら商品自体は、購入した顧客が数%の上乗せ金利取得の権利を喪失するだけで相場全体に大きな影響を与えるものではない。しかし、「権利を喪失させてしまえという思惑的な動きを誘いやすい」(同)ため、日経平均で1万4,000円、1万3,500円、1万3,250円など指数の節目節目で思惑的な売り注文が増加、相場の下げ足を加速させたことは間違いない。
もっとも、こうした仕組み債は、商品を組成した内外の証券会社が機関投資家向けに営業活動を行っていたことから、市場全体にどの程度出回っていたかほぼ発行規模の詳細が把握でき、相場下落による影響も図り知ることが可能だ。今回の下落局面でも、発行総額3,000億円程度の仕組み債がその権利を喪失しただけで、権利喪失を狙った思惑的な取引も今のところ大きな波乱を呼んでいない。
●実態見えない「自己ディーリング」取引
一方で、より深刻なのは、証券会社が自らのディーリング収益を稼ぎ出すために行った店頭でのデリバティブ取り引きの分だ。東京市場でディーリング収益が必ず10位以内に食い込むある欧州系大手証券の経理関係者は「当社の場合、日経平均が1万3,000円を割り込んだ瞬間に1,000億円近いデリバティブのポジションが清算の憂き目にあう」と明かす。
この関係者によると、同社は昨年夏ごろに、「日経平均が1年以内に1万3,000円を下回らなければ膨大な利益が得られる」とのオプション取引を行った。しかし前週は大台割れが意識される展開となり、損失を回避するためのヘッジ取引が活況を呈した結果、これに係るコストが急上昇。かけこみヘッジもままならず、「大台を割り込まないでくれとただ祈るのみ」という。
こうした取引は、外資系を中心に「複数の証券会社が相当額抱えている」(市場筋)もよう。大半は、互いの手の内を知られまいとする商慣行の性格上、取引当事者だけがその存在を知っている。このため「大台割れとともにポジションを清算し、その損失分を他の保有株式の売却で補う取引が活発化する」(同)恐れがあるわけだ。
先の欧州系証券が手掛けた取引では、大台割れに伴って否応なく発生する売り物が500億円以上あるという。これが数社分あるとすれば、1日の売買代金が5,000~6,000億円程度に落ち込んでいる東京市場の需給関係を大きく狂わす可能性が極めて高い。
●デリバティブ絡みの“売り”が加速?
1万3,000円の大台を割った後も、1万2,750円、1万2,500円など相場の節目でこうしたデリバティブ取引のポジションが控えているとの観測が根強い。デリバティブ、特にオプション取引では、特定相場水準をオプションの権利行使価格に設定する性格上、相場がその節目を超えた瞬間から、売りが売りを呼び、値動きが増幅される(買いも同様)傾向が強い。
1995年に円が一時1ドル=87円まで急騰したのもオプション取引の特徴が顕著に表れた事例だ。前出の経理関係者は、同様の動きが1万3,000円割れ直後から起こると警戒する。
底値が未だに見えない東京株式市場で、米国市場の先行きや日本経済の落ち込み具合のほかにも、デリバティブに絡んだ“巨額の売り”に市場関係者は、細心の注意を払う必要が出てきている。
■URL
・株価対策に高まる拒否反応~「何もしないで!」と市場関係者
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/09/doc1595.htm
(相場英雄)
2001/01/15
17:26
|