FINANCE Watch
地銀を狙え~金融機関向けIT化がピークに、大手各社入り乱れてのデットヒート

  全国の地方銀行、第2地方銀行の金融系システムをめぐって大手ソリューション企業が激しいつばぜり合いを演じている。富士通(6702)、日本ユニシス(8056)、NTTデータ(9613)、日本IBMなどがそれぞれ独自に研究や実験を兼ねたコンソーシアムや新会社を地銀と結成、設立して金融機関の取り込みを積極的に進めているほか、NEC(6701)などは米オラクルや米ヒューレット・パッカードなどと手を組んでの24時間保守サービスを売り物にしたソリューションメニューを打ち出した。金融系システムは以前から「(言葉は悪いが)金になるビジネス。しかもサポートを含め、つき合いが長くなる」といわれる。地銀の存在自体が合従連衡の荒波にまだまだこれからももまれそうだが、参入企業は「とにかく手は打てるときに打っておく」と手を緩めるつもりはなさそう。コストダウンと経営戦略をIT化に委ねる地銀をめぐって2001年もまだまだ熱くなりそうだ。

  ●IT化による業務効率アップが不可欠の地銀
  地銀と第2地銀のIT化がクローズアップされるンのは、都市銀行のIT化が合併・統合の渦中で勘定系以外は先送りされていることや、規模も体力も都銀に劣る地銀は、IT化によって業務のコストダウンは当然ながら、エンドユーザーへのアピールや戦略上でも生き残りへの重要な命題になっているからだ。しかも大手金融機関のように各行が独自にシステムを構築するほどの余裕は資金的にもないことから、コンピューター関連企業を軸に地銀同士が横につながり、共通のシステムを作り上げることが最も手早い方法になる。

  ●デットヒートのIT企業
  そこからIT企業のデットヒートが始まった。日本ユニシスの場合、地方銀行の次期バンキングシステムを検討、検証するコンソーシアム「S-BITS(Succeeding Banking Information for Success consortium)」を設立。同社の勘定系システムユーザーである秋田銀行(8343)、北越銀行(8325)、百五銀行(8368)、山梨中央銀行(8360)、紀陽銀行(8370)、大分銀行(8392)、鹿児島銀行(8390)などが参加して、ニーズが多様化し、決済以外の分野にも対応する必要に迫られる今後の銀行システムに向けて開発を進める。今後5年間に開発だけで300億円の投資を計画するほどだ。

  動きが早かったのは日立製作所(6501)。1999年11月にはみちのく銀行(8350)、山陰合同銀行(8381)、肥後銀行(8394)の3行の基幹システムを共同化してアウトソーシングの検討に入った。2001年末には各行の基幹システムを順次、共同センターに移行する。独自開発の業務パッケージ「Expert」を使って、ネットワーク、営業店システムをも含めて設計した。システム関連のコストは最大で30%の削減を実現する、という。

  新会社「富士通バンキングソリューションズ」を設立したのは、富士通と東邦銀行(8346)や清水銀行(8364)など。すでに富士通が持っている地銀向けシステムモデル“Strategic BANK”などを核に勘定系を中心とするバックオフィスシステムや、それぞれの銀行によって異なった戦略にフォーカスが可能な顧客サービス、経営管理システムなど幅広い銀行システムに対応、ニーズに応える。新会社は地銀向けにコンピューターシステムのアウトソーシングを行うのがメインで、10月から営業活動を開始。2005年には従業員150人の規模にまで拡大させる、という。

  NTTデータは、池田銀行(8375)、岩手銀行(8345)、京都銀行(8369)、西日本銀行(8327)、福井銀行(8362)、北海道銀行(8353)の参加を得て“NTTデータ地銀共同センター”に向けて開発を始めた。2003年の利用開始をめざすもので、共同化の範囲には勘定系、外接系、外為系システム(オンライン、バッチ) 共通データベース(各種統計・報告情報) 各種サブシステム(インターネットバンキング、融資稟議支援システム、取引履歴検索システムなど)、各行サブシステム向け関連データの提供、情報系、資金証券系など、金融機関が必要とするシステムはほぼすべてを網羅している。さらにその後も第2センターを作る計画があり、地銀の取り込みを進めている。

  ●大手IT企業がそろい踏み
  富士通と同様に、金融機関と共同出資でソリューション会社を設立するのは日本IBMだ。2001年1月1日に業務を開始する「地銀ソリューション・サービス」には、武蔵野銀行(8336)、第四銀行(8324)、関東銀行(8338)、山形銀行(8344)、足利銀行(8355)、琉球銀行(8399)、八十二銀行(8359)、阿波銀行(8388)、親和銀行(8391)、宮崎銀行(8393)などがに出資参加している。特徴的なことは、各行の現行システムはそのまま運用する一方で、「共同センター方式」による最新の地銀情報システムも提供するなど、地銀各行のニーズに合わせた柔軟な対応が可能なこと。日本IBMでは、地銀各行とのアウトソーシング契約金額の総額は、既に1000億円を超えている、としており、2005年までに20行以上に対して地銀ソリューション・サービスを活用したアウトソーシングを提供する計画だ。

  これらに比べ、やや方向性が異なるビジネスを打ち出したのはNECだ。金融機関の勘定系システムの導入コストを、従来比で半減することが可能で、各行の独自の経営戦略や差別化戦略も実現するオープン新勘定系システム「BankingWeb21」の発売に乗り出した。

  このシステムの目玉は米国のIT関連大手であるオラクル、ヒューレット・パッカード、BEAシステムズと協調関係を作り、24時間、365日のフルリモート監視サービスをはじめ、顧客システムの専門技術を持つ担当者の常駐サービスも含めている、という。

  すでに金融機関以外の企業全般をビジネスの対象に設定しているが、NECの川村敏郎常務は「少なくとも今後15年は続く事業」と話しており、地銀などの金融機関をメインターゲットとした上で、幅広い需要層の開拓を進めていく意向だ。

  ●際立つIBMと富士通の強さ
  2000年11月末時点でのベンダー別の採用状況は別表のようにIBM、富士通、NTTデータが三つ巴で競り合っている。特に地銀で強いIBMと地銀、第2地銀の区別なく以前から地方エリアに強さをみせる富士通の2社は目立つ。地銀系システムのソフトウェア開発に関わる企業からは「本命にIBMと富士通、対抗でNTTデータ」と指摘する声も聞こえてくるが、現段階では情勢はみえてきつつも、まだ決着してはいないといったところ。

  ●メガバンク4グループの動向からも影響が
  さらに地銀と第2地銀の動向に大きな影響を与えそうなのは、都銀のシステム再構築が本格化するであろう2、3年後とみる人もいる。メガバンクは4グループがそれぞれで今後システムを構築するが、「独自に(システムを)作ってそれで終わり、と言うことはまずあり得ない」からだ。多大な費用を投資して作ったものは、必ずアウトソーシング事業として活用する。そう考えると、都銀4グループのシステムがそのまま地銀と第2地銀グループに下りてくる可能性は否定できない、という。

  ●共同化とIT企業主導
  地銀、第2地銀のシステム構築が都市銀行と大きく異なるのは、“多数行による共同化”と“IT企業の主導”があることだ。地銀を取り込もうとする企業によっては「ウチらが主導権を握っているということはない。むしろ金融機関とIT企業の両者が歩み寄って最も使いやすいシステムを、できるだけ低コストに作ろうというのが目標だ」と話す。しかし、一方では「都銀ですら大変な時代。地方銀行にとっては生きるか死ぬかを左右するシステム構築となる可能性がある」ことから、「基本的にはIT企業が提案、地銀の意見を組み込みながら最終的なシステムができ上がっていく、と考えた方が自然だろう」と指摘する人もいる。

  ●二律背反のビジネスへ
  ただし、IT企業にとって地銀の高まる新規システム導入ムードを、必ずしも喜んでばかりはいられない側面もある。地銀の合従連衡はまだまだ続きそうなことや、今後、淘汰(とうた)される機関が出てくる可能性も高い。その意味では「ビジネスとして大きなマーケットが広がっている半面、リスキーなビジネスも要求される」といった事実も否定はできない。だからこそ「多くの地銀を集めての共同化が必要不可欠」――。景気が一向に上昇カーブを描いていかない今、二律背反のままで地銀と第2地銀をターゲットにした大手IT企業の囲い込みビジネスは続く。

地方銀行・第二地方銀行のベンダー別勘定系システム採用状況
(2000年11月末現在、*は第二地銀)
IBM 富士通 NTT
データ
日立
製作所
日本
ユニシス
NEC
千葉 静岡 横浜 山陰合同 百五 大垣共立
常陽 北陸 北海道 肥後 紀陽 三重
福岡 群馬 近畿大阪 千葉興業 鹿児島 沖縄
足利 七十七 西日本 みちのく 秋田  
広島 滋賀 京都 泉州 大分 *八千代
八十二 南都 岩手 鳥取 山梨中央 *愛媛
中国 東邦 福井   北越 *びわこ
山口 十八 池田 *京葉   *関西
十六 佐賀 東京都民 *栃木 *九州 *大東
第四 北都 但馬 *中京 *福島 *トマト
伊予 清水 東北 *第三 *殖産 *石川
百十四 筑邦 富山 *香川 *中部  
スルガ 青森   *高知 *和歌山  
北國 荘内 *熊本ファミリ *徳島 *大正  
武蔵野   *長野 *札幌 *奈良  
四国 *名古屋 *南日本 *せとうち    
阿波 *みなと *豊和 *岐阜    
親和 *東和 *宮崎太陽 *静岡中央    
宮崎 *東日本 *神奈川      
山形 *北日本 *福岡中央      
琉球 *富山第一 *長崎      
関東 *大光 *佐賀共栄      
  *西京 *愛知      
*北洋 *山形しあわせ *広島総合      
*福岡シティ *わかしお *仙台      
*沖縄海邦 *福邦 *茨城      
  *島根        
  *つくば        

■URL
・NEC
http://www.nec.co.jp/
・NTTデータ
http://www.nttdata.co.jp/
・日本IBM
http://www.ibm.co.jp/
・日本ユニシス
http://www.unisys.co.jp/
・日立製作所
http://www.hitachi.co.jp/
・富士通
http://www.fujitsu.co.jp/

(市川徹)
2000/12/29 10:10