@niftyか、BIGLOBEか――。インターネットインフラとも言うべきISP(インターネットサービスプロバイダー)機能を持つ富士通(6502)とNEC(6501)が、従来は個人ユーザー向けだったネットワークを“武器”に、企業をターゲットにするビジネス市場でせめぎ合っている。パソコン通信から始まって14年。日本のネットワーク文化を黎明期から支えてきた両社は、海外ISPとの提携や連携を軸にしてよりグローバルな展開を踏み始めている。しかし一方ではいまだに両者を限られた世界だけのパソコン通信といったイメージから脱却できずにいる人もおり、具体的なビジネスモデルの姿が見えにくいことは確か。国内で最後まで残った商用ネットワークをフルに使ったビジネスまで飛躍させるのはどちらか。変化の激しいネットワークの世界を舞台にしたバトルがスタートしている。
●数百万人の規模とコンテンツの多彩さで他社に格差
コンピューターの世界は言わずと知れた“過去の資産は遺物ばかり”のところ。数カ月前の技術やハードウェアがあっという間に遅れたものになっていく。ところが富士通とNECのISP競争は、言い換えると過去の資産をそのまま現代にも通用するものだ。数百万人に及ぶ既存会員やあらゆる種類の情報が集まるコンテンツサイトの蓄積が、単なるIT企業にはないキャリアとなって競合他社に差をつけようというわけだ。
@niftyの前身であるNIFTYSERVEは1986年スタート。パソコンがまだまだマニアックな道具の時代で、会員は5年後にやっと10万人をクリア。10年後の1995年に100万人の大台に乗った。一方、BIGLOBEもPC-VANの名前で1986年開始。NIFTYSERVEと同様に地道な会員増を続け、1996年に現在のサービスへと変わった。
●世界戦略の@nifty、技術重視のBIGLOBE
世界戦略を着々と進めているのは@niftyだ。2000年11月、世界のISP7グループによるグローバルアライアンスを発足させることで合意。アジア、アメリカ、ヨーロッパをすべてカバーし、各プロバイダーの会員数をまとめると2,000万人に達する、という。参加するグループは、米EarthLink、独T-Online、香港Netvigator、シンガポールSingNet PTE、韓国Unitel、ブラジルUOLと日本の@nifty。各社はそれぞれ個別に提携関係を結んできたが、今回、ワールドワイドなインターネットサービスの提供を目標に、グローバルアライアンスの発足に結び付いた。ローミングのほかにも各社が提供している情報やサービスを結ぶコンテンツ提携や、ショッピングコンテンツを共有するe-コマース提携などを計画しており、将来的には世界標準の技術やサービスの開発にも発展させる。また、ブロードバンドネット時代に照準を合わせたCATV事業者との連合による新会社も設立している
BIGLOBEの方は、世界展開という観点からすればまだ主だった発表はしていないものの、インターネット検索サービス大手の米グーグル社と提携し、国内最大規模となる検索サービスを開始した。グーグル社の大規模データ収集などの検索技術とNECが新開発した日本語解析・統合検索技術を組み合わせ、効率的な「第3世代の検索」を実現した。
●課題はモバイルとインフラ環境への対応
会員数やコンテンツメニューが同じような規模を持つ両者のこれからの課題はズバリ2つに集約される。1つは「携帯端末、モバイル環境」、もう1つは「ADSLなどブロードバンド環境」双方への対応だ。一見、個人ユーザーに限られた課題にもみえるが、特に前者は今後の企業ビジネスへの適応ツールとして大きな位置を占める可能性がある。
NECソリューションズでBIGLOBE事業を統括する小見山太洋支配人は「ネットワークをめぐる主導権争いは、インフラ環境の変化次第でシェアの逆転もあり得る世界。何が広がっていくか誰にも分からないことからも全方位の施策を進めたい」と語る。富士通ネットワークサービス本部事業推進統括部販売推進部の池田尚義部長も「何でもあり得るということは、そのどれも当てはまらない状況だって起こる可能性はある。変化には敏感に対応していかねばならない」と異口同音だ。その意味では@niftyとBIGLOBEの連携だって可能性としてはあり得る話だ。
●見逃せない国内ISPの合従連衡
グローバルな進出の一方で、国内事業者との連携も今後必ず浮上してきそうだ。雨後の筍のように乱立したローカルなISPは、「大きな合従連衡が今でも水面下で行われている」と言われるように、@niftyとBIGLOBEにも関わってくる。以前なら低料金が売り物だった地方の小さなISPは、価格競争がほぼ一段落してきた今、単独では生き残っていけない時代を迎えつつある。そのとき両社はどうするのか。「受け入れ口は大きくしていくつもり」(小見山支配人)のは当然としても、地域性が豊かなISPが多いだけに単純な連合や吸収にはならないだろうとの見方が一般的だ。さらに「独自の地域情報を持つローカルISPには、ビジネス戦略上でも重要な意味がある。この取捨選択を我々がどう行うかによってコンテンツにも大きな影響が出る」(池田尚義部長)という。
●コンテンツ共創の時代へ
両社ともすでに@niftyとBIGLOBEを活用したソリューションやアウトソーシングを金融など業界大手の企業と手を組み実行に移しているが、まだ結果は出ていない。富士通ネットワークサービス本部@niftyビジネス推進室の伊藤毅部長はこう話す。「数だけではとどまらない、コンテンツそのものの質や豊かさが本当に問われる時代になってきた」。さらに「それを例えばニフティや富士通が独自に作っていくのではなく、一緒にビジネスを進めていく企業や地方行政、そしてユーザー一人ひとりとおたがいにアイディアを出し合って共創していかねば、良いものは作れないしユーザーもついてこない」。
日本の新しい通信時代を切り開き、外資系ISPとの厳しい競合にも耐えてきた2つの国産インターネットインフラ。次の世代に向けてのステップを踏んで、広く企業や個人の“なくなてはならない存在”となったとき、ひとまずの結果がみえてくる。
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@nifty |
BIGLOBE |
旧サービス名 |
NIFTYSERVE |
PC-VAN |
サービス開始 |
1986年 |
1986年 |
会員数 |
420万人(2000年11月末) |
336万人(2000年10月末) |
コンテンツ数 |
1028 |
346 |
コマース |
560店舗 |
370店舗 |
国内アクセス ポイント |
約640 |
約370 |
アクセス数 |
未公表 |
520万PV(日) |
目標会員数 |
2003年までに1,000万人 |
2001年9月末に1,000万人 |
法人会員 |
約78,000アカウント |
未公表 |
ホームページ 開設数 |
17万6,000件 |
未公表 |
■URL
・富士通
http://www.fujitsu.co.jp/
・@nifty
http://www.nifty.com/
・NEC
http://www.nec.co.jp/
・BIGLOBE
http://www.biglobe.ne.jp/
(市川徹)
2000/12/29
09:31
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