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需要を根こそぎ?~東西NTT、ADSL本格参入の波紋

  インターネットへの高速アクセスを実現するADSLサービスに、NTT(9432)グループが本格参入する。東西NTTは、「下り」最大1.5Mbpsの通信速度で1回線当たり月額3,800円の新料金を設定、ユーザーはインターネットプロバイダー(ISP)料金を含めても、6,000円弱程度(初期工事費など除く)で高速アクセスが可能になる。NTT側は、ADSLサービスをめぐって公正取引委員会から独禁法違反の疑いで事情聴取を受けるなど劣勢にあったが、今後は先行してきたADSLの専門事業者も価格競争に巻き込まれる。通信業界では「いよいよNTTの反撃が始まった」と受け止められている。

  ●キャデラックみたい
  「(GMの高級車)キャデラックみたいなシステムをつくっているから、高くなるんだ」―。12月7日に開かれた電気通信審議会(郵政相の諮問機関)の公聴会の席上、ADSL事業者、イー・アクセス(東京都港区)の千本倖生社長は、居並ぶ東西NTTの幹部に毒づいてみせた。

  この日の公聴会は、ADSL事業者が東西NTTに支払う加入者回線使用料(接続料)が妥当かどうか、双方の意見を聞いたが、支払う側と受け取る側の主張は平行線。昨年12月、東西NTTは1回線当たり月額800円で加入者回線の貸し出しを開始、1年経って本格サービスへ移行するのに伴い、410円まで引き下げて認可申請した。しかし、千本社長らは「回線データベースや料金請求・回収の費用を割高な専用線のシステムで算出している」と強く反発、一段の引き下げを求めていた。

  ●“水増し”に怒り
  最終的に電通審が裁定した金額は187円。東西NTTの認可申請額の半額以下であり、「水増しするにもほどがある」という批判の中、東西NTTは補正申請を余儀なくされた。しかし、この時点でADSL事業者の勝利感は、既にしぼんでいたと言える。

  動画も快適にダウンロードできる1.5Mbpsで月額3,800円―。東西NTTが15日に認可申請したADSL利用料金は大きな波紋を呼んだ。512Kbpsで5,100円だった従来の実験料金と比べると、通信速度は3倍高速化し、価格はほぼ4分の3となる。もっとも、東西NTTは今回、ISPがNTTの個々の加入者回線局舎まで接続の足を延ばさなくても、NTTの地域IP網を介し、1県1カ所で相互接続できるサービス「フレッツ・ADSL」を月額4,600円で新設、大半のISPはこれを利用するとみられる。それでも、ユーザー料金は6,000円前半に留まる。

  ●チェーンソーで・・・
  「“ジェイソン”がやって来た」―。ある新電電の幹部は、苦笑混じりに語る。東西NTTがADSLの新料金を認可申請したのは15日の金曜日だったが、関係者の間では人気ホラー映画『13日の金曜日』の主人公に引っ掛けて、その攻勢を揶揄(やゆ)している。「新サービスの需要の芽が出てくると、チェーンソーで巻き取るようにして価格攻勢をかけるのはNTTの常套手段。とりわけ、ADSLに関しては公取委に恥をかかせられ、加入者回線使用料も引き下げを余儀なくされており、報復の気分は強い」(新電電幹部)と警戒する。

  “元祖ADSL”の東京めたりっく通信(東京都中央区)によれば、同社が東京・池袋局で着工したADSL480回線は、発売7カ月で完売。ADSLサービスの需要は着実に広がりつつある。しかし、東西NTTとの値下げ合戦で体力勝負となった時、新電電を含め何社のADSL事業者が生き残れるか・・・。気が付けば、“ジェイソン”だけが居るという怖れもなくはない。東西NTTの新たなADSLサービスは、電通審が認可を見送らない限り来週26日に受付がスタートする。

■URL
・NTT東日本のリリース(12月15日の料金申請)
http://www.ntt-east.co.jp/release/0012/001215.html
・NTT東西、ADSLサービスを26日から~接続方式により2タイプ
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/12/doc1366.htm
・12月12日の「NTTのADSL事業の展開」記事並びに一連のNTT報道に関する弊社見解(東京めたりっく通信)
http://www.metallic.co.jp/news/2000/1218.html

(三上純)
2000/12/20 12:36