自民党内の一部で、株価維持策(PKO)のために「株式のクロス取引の規制を緩和すべきだ」との声が浮上、市場関係者の失笑を買っている。同党は、先にも株式譲渡益課税の源泉分離方式の廃止先送りを「抜本的な株価対策だ」と喧伝し、市場の冷笑を浴びた“前科”があり、政策センスのなさに「末期的だ」と怒りの声も上がっている。
クロス取引の規制緩和案は、金融機関などの持ち合い解消売りの影響を抑えるために考案されたもの。例えばA銀行がB社株をクロス取引によって益出しし、保有株式の簿価を引き上げる場合、最近は公認会計士の監査基準が厳しくなったことから、以前なら認められていた売り買い同時クロスが、事実上できなくなっている。このため、一度別の関連会社などにクロスで株を売却し、一定期間後に逆クロスで買い戻すという方式が、最近の一般的な手法になっている。
●需給関係には無関係なのに
この方式だと、最初のクロスから、次の逆クロスまでの間の価格変動リスクが発生するため、一部の企業からは不満も出ていた。しかし、こうした事実上の簿価付け替えという不透明な手法の横行が原因で、バブル時に不毛な利益かさ上げ競争が激化。結果として現在の企業体力低下につながったことを考えれば、監査法人による規制の強化は、いわば当然の措置だ。こうした真っ当な流れに逆行するような主張をすること自体、不見識と批判されても仕方がないことなのだが、市場関係者の自民党に対する怒りの原因は、もっと原始的な点にある。
そもそもクロス取引とは、取引相手が同一法人であろうとなかろうと、売り買いの株数と価格が基本的に一致している。クロス取引を2度に分けることに対し、自民党内では「一度株を売って、しばらくしてから買い戻すのだから、一時的には売り先行の状態になる」と主張する向きがあるが、こうした取引がクロスで行われる以上、まったく同じ額の株を最初のクロスで買って、次のクロスで売る投資家がいるのは当然のことだ。
つまりクロス取引そのものは、株式の需給関係には、何の変化ももたらさない取引であり、株価にとっても、クロス取引自体の影響はニュートラル。現在2度に分けて行っているクロス取引を、一括してできるように改めたところで、証券会社に払う仲介手数料が半分で済むだけのことで、株価対策にはならない。
●主流は「売り切り」
さらに、最近の持ち合い解消の動きは、不採算株を中心とした「売り切り」が主流で、クロス取引の形態では行われないことが多い。つまり、クロス取引の規制を緩和しても、抑制することは不可能。売り買い同時クロスが、会計原則上許容されるべきかといった原則論を議論するまでもない、「何とも情けないナンセンスな株価対策」(市場関係者)という訳だ。
政府・与党が株価対策をぶち上げるとの期待から、週初に400円以上急騰した平均株価も、その後2日間は失望感から再度値下がりしている。森政権への不信任案騒動が勃発して以来、「政局の混迷が株価の低迷を招いている」との批判が広がっているため、亀井静香政調会長らの表情に次第に焦りの色が濃くなっており、今後もいろいろと珍妙、奇妙な構想が飛び出してきそうだ。
■URL
・アっと驚く?「源泉分離課税」存続
http://www.watch.impress.co.jp/finance/wadai/articles/001018-1.htm
(舩橋桂馬)
2000/12/01
14:29
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