NTT(9432)グループの長距離・国際通信会社、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)が地域通信への参入を表明したのを契機に、グループ内の軋轢が再燃している。東西のNTT地域通信会社は揃ってNTTコムに反発、逆に成長分野のインターネット事業を含む長距離・国際市場へ打って出る構えだが、持株会社NTTにグループ経営の枠組みを改める考えはない。電気通信審議会(郵政相の諮問機関)・特別部会は、NTTコム、NTTドコモ(9437)に対する持株会社の出資比率引き下げを条件に、東西NTTの業務領域拡大を認める答申案をまとめ、そのパブリックコメント(意見募集)の締め切りが11月30日に迫っている。「グループの内実は解体状態」と言われる中、果たして持株会社はどんな意見書を提出するのか―。
●周到に仕組む
「考えなければならないだろう」。NTTコムの鈴木正誠社長は11月17日の中間決算発表の席上、地域通信への参入を正式に認めた。その言いぶりは他人事のようであり、「参入の時期や方法はまったく決まってない」と繰り返した。が、NTT東日本の幹部は「周到に仕組まれたもの」と憤りを隠さない。
その幹部によると、鈴木社長は地域通信参入を某全国紙にリークした直後、海外に出張、東西NTTの批判をかわしつつ、グループ3社の競争が進むような気運をつくり上げたという。そのため、NTTドコモを含めた中核4社の社長は、電通審や規制改革委員会などのヒアリングの場で「持株会社から事業運営の制約を受けたことはない」と発言せざるを得ず、実際、電通審・特別部会の答申案は、NTTコムとNTTドコモが東西NTTの対抗勢力となるグループ内競争の推進を打ち出した。
●ギリギリのタイミングで
「答申案がまとまった後、中間決算という絶妙のタイミングで正式表明されれば、誰も反対はできない」と、NTT東日本の幹部は悔しがる。しかし、NTTコムにも地域通信参入を急がなければならない事情があった。2001年5月から優先接続がスタートすると、ユーザーは国際・県間(長距離)・県内市外(地域)・県内市内(同)のサービスごとに通信事業者を自由に選択できるようになるからだ。
これを受け、NTTコム、KDDI(9431)、日本テレコム(9434)の長距離・国際通信3社は、地域通信を含めて“一気通貫”のサービス整備を迫られており、来年1月に優先接続の営業活動が解禁されることを考えれば、NTTコムの参入表明は、これ以上待てないギリギリのタイミングだった。
一方、東西NTTは今のところ、NTTコムの攻勢に何の対抗措置も講じられないでいる。長距離・国際市場へ出ようにも、持株会社が「NTTドコモへの出資比率は51%(現行67.1%)まで譲っても、NTTコムの100%は一切譲れない」という姿勢である限り、赤字体質の地域通信に塩漬けされたままだ。
●宮津社長の“見果てぬ夢”
仮にNTTコムを上場させ、外部資本を30%程度受け入れても、持株会社の支配は変わらない。しかし、NTT関係者は「少数株主が地域通信への積極参入を要求した場合、例えば、長距離割引サービス『シャベリッチ』を地域にも拡大しろ、と言われたら、返す言葉がない」という。いわば“蟻の一穴”から、グループ経営の枠組みは崩れていく。それよりは、グループ内の軋轢はあっても、自らの支配の下でNTTコムの地域通信参入を認めた方がいい、というのが持株会社の考えだ。
「宮津(純一郎社長)さんは、2年後の『NTT法』廃止を退任の花道にしようとしているのではないか」―。新電電の間では、こんな観測が交わされている。長くNTTを縛ってきた同法がなくなれば、持株会社も東西NTTも自由な経営が可能になる。それを為し遂げた経営者として、電気通信の歴史に名を残して辞めるというシナリオを、宮津社長が思い描いたとしても不思議はない。
しかし、与野党とも「NTT法」廃止には消極的。とりわけ、自民党・郵政族にとって権力の源泉は同法であり、その廃止はNTTグループによる選挙支援もなくなることも意味する。宮津社長が“見果てぬ夢”を追っているとすれば、NTTグループの軋轢は当分終わらない。
■URL
・NTT
http://www.ntt.co.jp/
・NTT再々編で持株会社と地域会社に軋轢
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/07/31/doc68.htm
・電通審答申案、東西NTTの業務領域拡大へ~反発する新電電、外資
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/11/17/doc1069.htm
(三上純)
2000/11/29
15:08
|