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郵政省に忍び寄る“完全解体”の悪夢~3事業批判が通信行政に飛び火も

  郵政3事業(郵便、郵便貯金、簡易保険)に対する、新たな“民業圧迫論”の高まりが、同省のかなめである電気通信部門の危機感を募らせている。公正取引委員会は、信書配達の自由化に向けて郵便事業の会計透明化を指摘、米国政府も郵貯・簡保の監督機能を他の金融機関と一元化すべきと主張し始めた。こうした3事業への批判が、いずれ通信行政の“政策”と“規制”の分離に飛び火するのは必至。郵政省は、今回の3事業批判が行政監察の視点から行われていることに着目、震源地は総務庁ではないか、と憶測している。さらにその裏には通産省の影も見え隠れするという。

  ●総務庁の追い落とし策?
  2001年1月の省庁再編で発足する「総務省」の初代事務次官は、自治省から出ることが決まっている。「郵政省の幹部はオリンピック並みに4年に1度ぐらいは次官になれるだろうが、総務庁出身者に次官の椅子は回ってこない」―。

  霞が関の官庁街では、自治、郵政、総務を統合して新設される総務省の人事について、こんな囁きが交わされている。弱小官庁の総務庁にとって、地方行政を一手に握る自治省は大き過ぎる存在であり、対抗し得るのは郵政省しかない。その追い落としを図って、郵政3事業への批判を画策したとしても不思議はない。

  3事業は来年1月から、総務省の外局である郵政事業庁が引き継ぐ。さらに郵政事業庁は2003年に独立組織の「郵政公社」に衣替えすることになっている。しかし、宅配事業者や銀行、生損保と競合する郵政公社の監督を“身内”の総務省に設けられる郵政企画管理局が行うことには、国内外に反発の声が強い。

  ●3事業から通信行政に飛び火
  公取委は、郵便局が独占している信書配達の民間開放を求める研究会報告をまとめた。しかも、民間開放の結果、郵便局のユニバーサルサービス(全国一律の配達サービス)が損なわれる場合は「そのコストを明確にするため、郵政公社の会計を透明化し、第3者が監視すべき」としている。また今年10月末に開かれた日米金融サービス協議では、米財務省が「郵貯・簡保の監督は、銀行、生損保など他の金融機関と同じく金融庁に一元化すべきだ」と主張した。いずれも、総務省発足後も“自分で自分を監督する”郵政3事業に対する不信の表れだ。

  それは、行政監察を担当する総務庁にとって、“郵政省追い落とし”の恰好の口実となる。そして今、郵政省が最も怖れているのは、3事業批判が通信行政の機能分離に発展すること。“政策”と“規制”を分け、通信事業者間の紛争処理に当たる独立規制機関を設置すべき、という主張は既に国内外で高まっている。

  ●またぞろ通産省の影
  IT時代の競争政策を検討している電気通信審議会(郵政相の諮問機関)・特別部会は、先にまとめた答申案で、通信行政の機能分離を退ける代わりに「事業者間紛争処理委員会」(仮称)の新設を提言した。これに沿って郵政省は「国家行政組織法」が定める、いわゆる“8条機関”、すなわち、省庁に付属する組織として電通審内に設ける方針。

  しかし、3事業に監督機能分離の圧力が高まれば、通信行政も8条機関”で済むとは考えにくい。郵政省の電気通信部門を独立規制機関、すなわち、省庁より一段下流の“3条機関”につくり換える構想は、1997年の中央省庁再編議論の際、通産省が仕掛け、不発に終わった戦略だった。

  郵政省のある幹部がつぶやく。「総務庁は公取委と組んで郵便自由化を唱えさせたのだろうが、総務庁に本来、そんな知恵はない。まして、米国政府をそそのかし、郵貯・簡保批判をさせられるのは通産省だけ」。郵政3事業と電気通信、両部門の行政機能分離は、郵政省の“完全解体”に他ならない。その悪夢に郵政官僚はうなされている。

■URL
・通信行政めぐり“郵政省解体論”が再燃?
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/09/25/doc498.htm
・“解体”の危機感から高まる電通局批判~郵政省
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/10/10/doc642.htm
・郵政省
http://www.mpt.go.jp/

(三上純)
2000/11/24 10:25