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電通審答申案、東西NTTの業務領域拡大へ~反発する新電電、外資

  NTT(9432)の再々編など通信市場の競争政策を検討している電気通信審議会(郵政相の諮問機関)・特別部会は16日、第1次答申案をまとめた。事実上“地域独占”の東西NTTは、地域通信網の一層の開放、また長距離・国際のNTTコミュニケーションズ(NTTコム)、NTTドコモ(9437)に対する持株会社の出資比率を引き下げを条件に、長距離通信、インターネット、放送事業などへの進出が可能になる。グループ各社の相互参入を促すことで、通信市場の活性化を図る構えだが、新電電や外資系通信事業者が求めていた1種と2種の電気通信事業区分の撤廃は退けられた。新電電側からは「NTTの市場支配力は逆に高まる」との失望の声が挙がっており、12月21日の答申まで紛糾は必至だ。

  「ジゴウジトク(自業自得)」。ある外資系通信事業者の幹部は答申案に辛辣な評価を下す。「郵政省は本気で競争政策を進めようとしてない。役所自体が“解体”されても仕方ないでしょ」。

  答申案は、NTTグループへの「インセンティブ規制」導入を最大の柱としている。同規制は、NTTグループの規制緩和を実現してほしいという意欲を動機付け(インセンティブ)として、自主的に競争促進策を進めさせる規制手法。具体的には、東西NTTの光ファイバー網や電柱・管路の開放、またNTTコム、NTTドコモに対する持株会社の出資比率低下などを条件に、東西NTTは念願の長距離通信、インターネット事業、あるいは放送事業などへ進出できる。持株会社も帰属する研究開発部門を活かして、交換機やルーターなどの通信機器メーカーへ出資できるようになる。しかし、「この条件で痛みを伴うのはグループ内の存在感が低下する持株会社だけ」と、新電電側は強調する。

  ●明示できなかった出資率下げ
  NTTコムとNTTドコモにとって、持株会社の“資本の論理”から逃れ、自由に資金調達や新サービスを展開できるメリットは大きい。東西NTTにしても地域通信網の一層の開放を強いられるものの、業務領域拡大という大願を成就。存在感が低下する持株会社でさえ、製造業へ進出可能となる結果、「3,000人のグループ研究者をリストラしなければならなかった宮津(純一郎・持株会社社長)さんは、これで救われた」とも囁かれている。

  一方、答申案は、新電電や外資系通信事業者が求めていた1種と2種の事業区分の撤廃について「事業区分は電気通信事業の基本的な枠組み」として退けた。事業区分の撤廃とは、第1種通信事業者に課されている事業や設備、約款の認可を、第2種通信事業者と同じく届け出制に変えることであり、それはNTT以外の事業者の許認可全廃を意味する。

  「郵政省はまだわれわれを縛ろうとしている」と、新電電側の怨嗟(えんさ)の声は大きい。それどころか、NTTグループへの規制(非対称規制)が不十分なまま東西NTTが長距離通信やインターネット事業に出てくることに危機感を募らせている。東西NTTの業務範囲拡大の最大の条件は、NTTコム(現行100%)、NTTドコモ(同67.1%)に対する持株会社の出資比率引き下げ。しかし、答申案は「半数未満」など具体的な引き下げ幅を明示せず、「経営を実質的に独立できる程度まで」と述べるに留めた。新電電側は「連結非対象となる40%未満はもちろんのこと、持分法適用対象外となる15%未満まで引き下げなければ、東西NTTの業務範囲拡大は容認できない」と反発しており、その“線引き”をめぐって議論が紛糾するのは必至だ。

  ●“郵政省解体”へ外圧も
  郵政省は今後、頻発が予想される事業者間の紛争に備え、弁護士や公認会計士、技術専門家などで構成する「事業者間紛争処理委員会」(仮称)を、電通審内部に新設する方針。それは、“郵政省解体”につながる通信行政の「政策」と「規制」の分離を回避するものであり、答申案も「分離した場合、調整に時間と労力を要するのみならず、行政目的の達成が困難になる」として分離を否定した。

  しかし、EU(欧州連合)や米国は、日本政府のNTTに対する監視機能が不十分として、WTO(世界貿易機関)提訴を検討しているとも伝えられる。今回、1種と2種の事業区分の撤廃に最も熱心だったのは、英ケーブル・アンド・ワイヤレスや米MCIワールドコムなど外資系通信事業者だった。今後、“郵政省解体”の外圧が高まる可能性は否定できない。

  電通審・特別部会の藤井義弘部会長(日立造船会長)は16日の会見で、答申案がNTTグループの完全資本分離を見送ったことに触れ、「NTTが競争を進めるかどうか、見守る必要がある。この2~3年が非常に大事」と語り、競争政策が機能しなかった場合、完全資本分離の再検討を示唆した。その2~3年後に、郵政省(来年から総務省総合通信基盤局)がなくなっていたら、“自業自得”の結果だ。

■URL
・郵政省
http://www.mpt.go.jp/
・NTTに独禁法違反の疑い、"郵政省離れ"の通信業界
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/10/31/doc876.htm
・光加入者網開放で攻防始まる~NTTと郵政省
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/10/02/doc571.htm

(三上純)
2000/11/17 09:54