先日開催された「CP+2011」に行かれた方も多いと思う。私ももちろんウロウロしていたのだが、ナナオのブースでしばらくヨダレを垂らすこととなった。もちろん最初に見るのは、大好きなプロ用モニター「ColorEdgeシリーズ」だ。しかし今回は、先日新発売の新型モニターのスペックに、「やっと理想的モニターが登場した!」と勇んで見に行ったのである。それが「FlexScan SX2762W-HX」だ。注目点はなんといっても、IPSパネルを搭載し、解像度が「2560×1440」の27型であるという点だ。いままでFlexScanシリーズでは、「FlexScan SX3031W」が解像度が一番高く2560×1600だが、パネルはVAだった。また、27型の「FlexScan SX2761W」も、同様にVAパネルであり、解像度は1920×1200だった。どちらも生産は終了しているが、今回の「FlexScan SX2762W-HX」は、FlexScanのフラッグシップモデルとして、低色度変位のIPSパネルを搭載してきた。しかも、2560×1440という高解像度で登場したのだ! さらに、パンフレットや商品説明を見た範囲では、表示ムラ低減回路はもちろん16bit-LUTによる階調表現や、10bit表示が可能! そして輝度色度安定回路など「ColorEdge」かと勘違いするぐらい性能が近づいているではないか!
と言うことは、自分の写真をより高画質な状態で見ながら画像調整ができるに違いない! さっそく自分なりに、「FlexScan SX2762W-HX」を借りて、テストしてみることにした。
さて、FlexScan SX2762W-HXは、27型の大画面に2560×1440という高解像度を実現している。実際の使い勝手を見てみるために、一般的な24型の解像度1920×1200のモニターと比べてみたが、FlexScan SX2762W-HXは解像度が高く、画面の面積も広いので、書類が重ならずPDFの1ページを100%で丸々開くことができる。
私は普段、1920×1200と1024×1280で「デュアルモニター」にしているが、まさかと思いつつ計算してみると、2つのモニターを合わせた解像度より「FlexScan SX2762W-HX」の方が大きいことが判明した。これ1台で普段の作業ができるし、モニターを1台にした分エコにも貢献できるではないか! 写真のように色々広げて作業するときにはメチャ使いやすそうだ! またPhotoshopを使うときにパレットなどをいくつも開いておくことができる。そればかりか、フルHDの動画を再生しながら、空いたところで他の作業もできてしまうのだ。いやいや私みたいな「ながら作業」が得意? な人には「もってこいな広ーい解像度」で、とにかく使いやすいのだ!
下の写真は、左のモニターが「FlexScan SX2762W-HX」。右のモニターは、約3年前に発売されたナナオの24型・解像度1920×1200の「FlexScan SX2461W」だ。同じ画面を表示させたところ、FlexScan SX2461W は「ながら作業」をするには十分なスペースがなくウィンドウが重なってしまうが、FlexScan SX2762W-HXの方は、ウィンドウが重ならず、画面にまだ余裕がある。
高性能な27型となるとさすがに作りが重厚だ。しかし、その厚みや重量がナナオならでの高性能さを支えているのだ。そして、筐体デザインはFlexScanのブランドイメージを崩さず新しくなった。
本体前面に配置されているスイッチ類や、新設計のスタンド、そして面取されたデザインなど、新型と言うにふさわしいデザインに仕上がっており、今までのFlexScan SXシリーズから、大きく外観を変えている。
そして、新設計の「FlexStand 2」は、もちろん縦回転が可能で、縦位置の写真を大映しできる。チルトは上方向に25°、上下の高さは最大可動190mm、左右のスウィーベルは172°だ。液晶部本体は重いが、予想以上にスムーズに無理なく動かせて、難なく自分に最適な位置に画面を調整できた。
スタンド支柱部は丸みを帯びたデザインで、スタンド底面は丸く、一見小さく見えるが、重い液晶本体をしっかり支えている。また、入力端子としては、DVI-Dが1系統、これから主流になるであろうDisplayPortが1系統、マックユーザーに嬉しいMini DisplayPortも1系統装備。すべてのポートで10bit入力に対応している。
また、各種設定を行うボタン部分は画面下部に分かりやすく配置され、画面上にボタンガイドが表示されるので、暗い環境でも扱いやすい。またOSDメニューも今までよりも大きく分かりやすい表示になった。
ナナオの液晶と言えば、画質は常にトップレベルなのは周知の事実。私も十数年前のCRT時代から愛用している。ColorEdgeシリーズは我々プロでもあこがれのラインナップだが、FlexScanシリーズの中でも上位のモデルにはプロの世界でも使われている優れものシリーズがある。今回レビューしている「FlexScan SX2762W-HX」ももちろんその中の一つになる。写真が趣味の人が、一般的な低価格のコンシューマ向けモニターを使いながらレタッチしたり、「うんちく」を語っているのを聞くと、心の中で「もうちょっと良いモニター使おうよ~」って思ってしまう。「FlexScan SX2762W-HX」なら誰でもより良い画質で見ることができるだろう。予想だけでは人に勧められないので、ここでは「画質の徹底検証」をしてみることにしよう。
PCモニターは、一般的には電源を入れてから30分程度たたないと、本来の色や明るさは表示できないものだ。なので、私はキャリブレーションするときも、電源投入後30分以上待ってから行うようにしている。しかし、待つというのは面倒なことで、Webのニュースなどを見ているうちに、キャリブレーションすることをすっかり忘れてしまうこともある。もちろん、写真をレタッチをするにも待たないといけないが、待っていられない状況が多々あるのが実情だ。だから、電源投入後に急いでレタッチした写真を見て、後からやり直すこともしばしば。そんな私に朗報が! FlexScan SX2762W-HXは、「輝度ドリフト補正機能」がさらに進化して搭載されているという。右の図を見てもらえば分かるように、電源投入後、設定の輝度まで数分以内にほぼ安定してしまうという。これなら写真のレタッチもキャリブレーションも、電源投入後あまり待たずに作業を始めても問題なさそうだ。緊急の修正作業などが発生しがちな、DTPユーザーや映像編集をよく行うユーザーには、特にありがたい機能なのではないだろうか。
さらに、どうしても経年劣化してしまうバックライトの輝度を、センサーで検知して自動的に補正を行う「ブライトネス自動制御機能」や、周囲の温度変化による色度変化を抑制する「温度センシング機能」も搭載。輝度の変更によって発生する、微妙な色度への影響を抑える機能も搭載し、ユーザーが作業を行う環境に左右されず、長期間使いがちなPCモニターで、常に安定した画面表示を実現している。
いまやプロ用PCモニターには欠かせない「ムラ補正回路(デジタルユニフォミティ補正回路)」も、FlexScan SX2762W-HXはもちろん搭載している。輝度と色度を画面上のいくつかのポイントで測定し、全体が均一になるように補正する機能だ。また、広視野角・低色度変位の優秀なIPSパネルを使うことで、より均一な画面表示が可能になっている。下の写真のように、他社製の一般的なコンシューマ向けPCモニターを見ると、ものすごくムラがあるのがわかる。下の写真は、Photoshop CS5でK(黒)を50%で塗りつぶした画像を表示し、Nikon D3で撮影した写真だ。
FlexScan SX2762W-HX |
他社製の一般的なコンシューマ向けPCモニター |
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上の写真のヒストグラム(FlexScan SX2762W-HX) |
上の写真のヒストグラム(他社製の一般的なコンシューマ向けPCモニター) |
上の写真を見ただけでも差は歴然としている。ヒストグラムを見れば、ムラの多い「他社製」のヒストグラムは「FlexScan SX2762W-HX」よりも、ムラが多いこと一目で分かる。これを見ればわかるように、コンシューマ向けの低価格なPCモニターは、一見表示が綺麗に見えても「輝度や色度ムラ」があり、作品をきちんと表示し切れていない。写真を見るのはもちろん、レタッチもしようというのなら「FlexScan SX2762W-HX」ぐらい均一でムラの少ないPCモニターで作業をして欲しい。
ナナオのモニターがプロ御用達なのは、モニター内での映像信号処理能力がぬきんでているからだろう。FlexScan SX2762W-HXでは、16bit-LUT(Look Up Table)を採用して、約278兆色の中から最適な約1677万色を表示することにより、階調整が細やかになっている(8bit表示時)。また、10bit出力のできるビデオカードを利用すれば、FlexScan SX2762W-HXに10bit信号が送られ、16bit-LUTで信号処理し、10bitで出力(画面表示)されるのだ。従来のPCモニターでは、8bit入力した情報を8bitのLUTで演算処理し8bitで表示していた。その色数の差は大きく、「16bit-LUT」の膨大な色数から最適な色を選べるため、階調がより滑らかに表現できる。
ここでは、さまざまな画像をFlexScan SX2762W-HXで表示し、Nikon D3で撮影した写真を見ながら、FlexScan SX2762W-HXの画質を検証していく。
暗部もハイライト側も階調がしっかり残っている。階調ジャンプしやすい青のグラデーションもこれだけなめらかに表示されている |
CMYK各色1%のテストチャート。白の右半分をCMYKの各色を1%で塗りつぶしている
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肉眼で見たところ、CMYはよく見え、Kはよく見えなかった。撮影したデータのトーンカーブを調整したデータを見るとKも写っている。レタッチしてみると、わずかながら階調があることがわかる。
デジタルカメラの高画質化が進みNikon D3やCanon EOS-1Dシリーズなどは、「14bit」で撮影できる。それを最高画質で表示しようと思っても、まだPCモニターではフルに出せない現状がある。しかし、16bit-LUTを採用する「FlexScan SX2762W-HX」は、それを限りなく高画質で表示できているといえよう。写真やデザインなど、色や階調により厳密性を求める人に絶対にお薦めである。
数年前から、ビデオカードの出力端子に10bit転送が可能な「DisplayPort」が用意されるようになったが、最近ではDVI-Dポート(Duallink)でも10bit転送が可能となってきた、FlexScan SX2762W-HXは、DVI-D、Mini DisplayPort、DisplayPort が装備されており、すべてのポートで10bit表示ができるという。8bit表示では約1677万色表示だが、10bitではなんと約10億7374万色! より多くの色が表示できるメリットは何かと言えば、先に述べた「デジタルカメラ」で撮影した写真を、より高画質で表示できることだ。それによる画像処理もよりリアルになるだろう。
さて、いざ10bit表示をしようとする際に困るのが、現状では10bit表示ができるビデオカードが限られ、高価な製品が多いということだ。今回は、ATIのワークステーション向けビデオカードのエントリー機FireProV4800を手に入れ、試してみることにした。また、10bit表示できるソフトも必要だ。AdobeのPhotoshopの場合、CS5とCS4は10bit表示が可能となっており、今回はPhotoshop CS5で試してみた。
10bit表示するためには、まずはじめに以下のようなビデオカード・ソフトウェア・OSの設定が必要だ。
(1)ビデオカードのグラフィックス設定で「10ビットピクセルフォーマット サポートを有効にする」の項目にチェックを入れる。 |
(2)Photoshop CS5の環境設定から、パフォーマンスを選択し、「OpenGL描画を有効にする」にチェックを入れる |
(3)Windows 7/VistaのWindows Aeroをオフにする(ベーシックテーマにする) |
上記の設定終了後、10bit表示の効果を見るために、FlexScan SX2762W-HXを2台並べ、Photoshop CS5上で、同じ画面を10bit表示と8bit表示で出力してみた。左のモニターが、10bit表示したFlexScan SX2762W-HXで、右のモニターが8bit表示のFlexScan SX2762W-HXだ。
下の写真は、上の写真を3200%表示にし、Nikon D3で撮影した写真で、Photoshop CS5による擬似的ドット表示になっている。それを利用して同じ座標同士を見比べると、色はほぼ同じに見えるが、10bit表示の方がドットの境界線が鮮明で、左右の写真でRGBの色を測定して比べると、明らかに色が違うドットもある。
次に、グラデーション画像を表示して比較してみる。下の写真は、Photoshop CS5で16bitカラーで作成したRGBとKのグラデーションをFlexScan SX2762W-HXに表示し、Nikon D3で撮影したデータをコントラスト調整した。
特にK(黒)とR(赤)のグラデーションが、10bitに比べ8bitは階調にムラが見られる。このようにドットごとに最適な色を選べるようになり、階調性が滑らかになるのは確認できた。グレーの階調表現が優れるということは、RGB各色のバランスが優れているということだ。風景を撮影した場合、細かい葉の部分など色飽和が起きそうな場所でも、よりリアルに表現できそうだ。
ハイエンドユーザー向け「デジタル一眼レフカメラ」の高画素化もようやく終わりに近づいている気がする。私のNikon D3などはRAWで14bitモードで撮れる。これを限りなく高画質のまま表示できるPCモニターは、まだ存在していない。しかし、何も考えずにPCモニターで見る分には安価なPCモニターでも綺麗に見える。それは、コントラストや輝度の高さ、彩度の高さでごまかされているに過ぎず、「FlexScanSXシリーズ」など優秀なPCモニターと見比べたときにその違いははっきり分かる。それでもまだまだ思っていた色が出ないなと思ったところに登場した「FlexScan SX2762W-HX」は、これからのハイエンド向けPCモニターの姿に違いない。まだ10bit表示を行う環境が簡単には用意できないにしても、近いうちにその時代になるだろう。16-LUTの威力は即戦力だ。27型というサイズは、写真の作品作りをするにも良い大きさで、A3なら実寸でバッチリ表示でき、Photoshopのパレットも一緒に表示できるスペースがある。また、モニターはPCよりも長く使うと考えると、これから先、PCからの10bit出力が当たり前になっても、問題なく使い続けられる「FlexScan SX2762W-HX」は、写真を本当の画質で見ることに、限りなく近づいたPCモニターといえるだろう。