筆者とEIZOの付き合いはかなり長い。昔(1990年頃)はモニターの品質に関して全く興味が無かったこともあり、パソコンに付属している適当なモニター(当時はブラウン管)をそのまま使っていたのだが、Windows 3.1によって高解像度が可能になり、初めてモニターのクオリティを意識し購入したのが同社の「FlexScan T560i」だった。この時の鮮烈さは今でも忘れない。それまで見ていた画面が全く別次元に映ったのだ。主に使っていた解像度は1280×1024ドット。その後Windows 95が登場し、1600×1200ドットを使いたくなったこともあり「FlexScan T660i」へ乗り換えた。
思えば筆者にとってこのモニターが最後のブラウン管だ。長年使っていたT660iは、2003年の1月だったか2月だったかに壊れてしまい、買い換えるモニターをいろいろ探したが、当時既に液晶モニターは市場に出回っていたものの、発色にムラがあったり、グレーがグレーではなかったりと、ブラウン管と同等なものは無く、と言ってT660iに匹敵するブラウン管モニターも存在しない。どちらも該当するモニターが無い……と、困っていたところたまたま記事ネタで届いたのが「ColorEdge CG21」だった。
このモニター、ムラが無く何処を見ても均一、グレーもグレーでキッチリ出る。液晶パネルに対する価値観を一気にひっくり返してしまうほど凄い液晶モニターだった。値段も高価だったのだが、一目惚れして購入したのは言うまでもない。その後、今日までずっとColorEdge CG21をメインに使い続けている。購入して6年以上経過してもまだまだ元気だ。
さて、前置きが長くなってしまったが、ColorEdge CG21を今回ご紹介する「FlexScan SX2462W」と置き換え試用した。実はこの6年間、モニターの記事はいろいろ書いたものの、別のマシンで評価していた関係で、メインマシンのモニターを置き換えて1週間以上使う評価ははじめて。ほぼ毎日写真を触っている環境でもあり、違いが1番わかりやすい。
事務所に届いたので早速開けてみると、梱包はしっかりしているものの、出しづらい感じではなく、上部の梱包材2つを外せばスッと本体が持ち上がる。意外とこのサイズのモニターの梱包は、1人では大変な場合もあるのだが、FlexScan SX2462Wは机への設置も含め数分で完了。重量が重量なので、量販店で購入後ハンドキャリーは厳しいが、と言って出すのに大騒ぎする必要もなく、すぐにスタンバイとなる。
このテーブルは幅75cmあるのだが、FlexScan SX2462Wは結構大きい事がわかる |
縦位置の場合、一番低くした状態で高さは約58cm。従って視野角が狭いと色が変わってしまうがIPSのFlexScan SX2462Wなら大丈夫だ |
非常にシンプルな作りであるが、回転部やスライドする部分はしっかり作り込まれており、ガタなど一切無い |
FlexScan SX2462Wの仕様は以下の通り。
液晶解像度 | 1,920×1,200ドット(WUXGA)/IPS |
---|---|
視野角 | 上下/左右178度 |
最大輝度 | 270cd/m2 |
コントラスト比 | 850:1 |
応答速度(中間色) | 5ms |
Adobe RGBカバー率 | 98%(NTSC比102%) |
入力端子 | DisplayPort×1(10bit入力に対応、最大約10億7,374万色)、DVI-I×2 |
サイズ/重量 | 566×230×456~538mm(W×D×H)/約10.7kg |
スタンド | 上方向40度のチルト、左右各35度のスイーベル、縦位置表示(90度回転) |
その他 |
・輝度・色度安定回路を強化し、周囲の温度変化による色度の自動変化を修正 ・モニター内部の16bit演算処理と12bit-LUTによる正確な色再現 ・DUE(デジタルユニフォミティ補正)回路による画面の均一化 ・暗所でもボタン内容が確認できるボタンガイド機能 |
まず、前モデルに相当するFlexScan SX2461WはVA方式のパネルだったのに対してIPS方式に変わった。IPS方式はその構造上、視野角が広く、斜めから見てもコントラストなどに変化が少ないのが特徴だ。パネルサイズが大きくなると、中央で見ても画面の隅に対して角度が付いてしまうので(特に縦位置表示時)視野角が広い方が隅々まで同じに見える。
次にAdobe RGBカバー率98%、NTSC比102%と、色域が広いことが挙げられる。特にAdobe RGBカバー率98%は、この価格帯としては驚きの値と言える。これだけ広いと通常何を映すにしても十分だ。
入力はDVI-Iが2つに、DisplayPortが1つ。HDMI入力が無いのは用途によっては少し痛いが、写真中心なら特に問題は無いだろう。特筆すべきは「DisplayPortは10bit入力に対応」していることだ。残念ながら今回筆者の手持ちのパソコンはDisplayPortそのものが無く試せなかった。またWindowsでは10bitのDisplayPortに対応しているグラフィックスカードは少なく、今後環境が整えば楽しみな機能のひとつと言えよう。モニター内部16bit演算処理、12bit-LUTを搭載しているだけに、8bitと10bitの差は目に見えてあるはずだ。
左側に電源スイッチと電源コネクタがまとまっている |
右側に、DisplayPort、DVI-I×2、USB(-B)が並ぶ。USBポートはキャリブレーション・システムでも使用。なお、本体左上の側面にはUSB(-A)ポートが2つある |
液晶パネルを支えるスタンドはかなりガッチリしている。この構造はColorEdge CG21と同様のものだ。ガタつきは皆無で、横位置でも縦位置でも角度をつけてもビシっと止まる。高さや角度の調整もスムーズ。このスタンドひとつとっても一般的なモニターとはレベルが違う。
細かい配慮としては、「暗所でもボタン内容が確認できるボタンガイド機能」がいい感じだ。下に並ぶスイッチ類は、明るい場所なら普通に見えるが、少し暗くなるとけっこう見づらい。例えば、筆者は使い慣れているはずのColorEdge CG21でさえ、手探りでの操作となってしまうのだ。しかしこのガイド機能によって、各ボタンの機能がすぐ上の画面に表示されるので非常に扱いやすくなっている。また、操作内容によって機能が変わる部分もあるので、ガイドの有無は操作性に差が出る。
さて、実際に表示した第1印象は、「画面が均一で原色が鮮やか」だ。「DUE(デジタルユニフォミティ補正)回路による画面の均一化」、「モニター内部の16bit演算処理と12bit-LUTによる正確な色再現」、この2点が効いているように思える。
まず、画面の均一は、数万円クラスの液晶モニターと比較すると雲泥の差。この画面に慣れてしまうと、もう安価なモニターは見れなくなるほど。均一化する技術は簡単のようで実はコストがかかる部分だったりする。ただこれは実際ものを見ないとわからないため、是非店頭などで比較して欲しい。
原色が鮮やかなのはColorEdge CG21には無い特徴だ。どちらかと言えば渋く映るColorEdge CG21に対して、このFlexScan SX2462Wは「彩度が上がったのか!?」と思うほど目に映える。色域が広い事が影響しているのだろう。内部16bit処理は、PhotoshopでRGB/8bitからRGB/16bitへモードを変更、必要な処理をした後にRGB/8bitへ戻すのと同じ効果がある。つまり演算による誤差の丸め込みが減り、結果、発色が自然になるのだ。加えて先に上げた10bit入力のDisplayPortであれば出力も10bit。更に効果は増す。
このモニターによる発色の違いであるが、筆者がT660iからColorEdge CG21へ変えた時の第1印象が「自分の撮った写真が上手に見える!」だった。笑い話のようであるが、撮り貯めた写真を新しいモニターで次々表示したところ、これまで見えていた色とは、明るさ、コントラスト、色の正確さ、全体的なくっきり感……全てが別次元。同じことがFlexScan SX2462Wにもあてはまる。普通のモニターから乗り換えた時は、間違いなくその違いに驚く。
同社独自の「自動調光機能」と「温度センシング機能」にも注目したい。前者は電源オンから短い時間で輝度を安定させたり、経年変化によるバックライトの輝度をセンサーで感知し補正する技術だ。これにより電源オン時はもちろん、長い年月使っても安定した輝度を得られる。後者は環境温度によって変化する色度を抑える機能だ。どちらも安心&安定して長期間使えるモニターをユーザーに提供する。この安心&安定感こそ、筆者がEIZOブランドに持つイメージそのものだ。
モードのプリセットは「User-1」、「User-2」、「User-3」、「Text」、「Picture」、「Movie」、「sRGB」の7パターン。User設定では、ブライトネス、コントラスト、色温度、ガンマ、詳細設定(色合い/色の濃さ/コントラスト拡張/輪郭補正/ゲイン/6色調整)など、非常に細かく設定可能だ。ただ筆者も経験があるのだが、いろいろパラメータを触りだすと、段々何が何だかわからなくなってしまい結果おかしな色になりがちだ。はじめの間はメーカープリセットの明るさや色温度、ガンマを触る、もしくは後述するキャリブレーションにお任せする程度にした方が無難である。
解像度1,920×1,200ドット、液晶テレビにも採用しているオーバードライブ回路を搭載し、応答速度(中間色)5msなので、フルHD動画も楽々表示できる。またこの時、「アスペクト比固定モード」(全画面、拡大/アスペクト比固定、ノーマル/1:1)によって、1,920×1,080ドットのフルHDは、画面イメージを変えることなく表示可能だ。さすがに動画性能だけは応答速度50msと一桁違うColorEdge CG21は分が悪い。筆者は最近、動画編集もするので実際編集中の動画をいろいろ再生したところ、つながりや動きは明らかに差が出る。また、肌色が綺麗だ。もう少し動画編集の仕事が増えたらモニターも考えなくては……。
FlexScan SX2462Wはカラーマッチングツール「EIZO EasyPIX」に対応している。本体と一緒に送られて来たので試したところ、「写真観賞(5500K)」、「Webなど一般用途(6500K)」、「マッチング(ペーパーと比較)」、と3パターンとも驚くほど簡単に画面を調整できる。かかる時間も数分。そのほとんどが測定時間で、ユーザーは数クリックするだけだ。
手順はソフトウェアをインストール、USBをモニターへ接続、測色センサーをUSBへ接続、後はソフトウェアを起動し、指示に従い操作する。難しい知識は一切必要無く、初心者でもモニターを調整できる。プリセットが3つ設定できるので、用途に応じてワンクリックで環境を切り替えることも可能だ。更に「タイマー機能」で、再調整のタイミングを通知する機能付きと、至れり尽くせり。せっかく色にこだわりFlexScan SX2462Wを購入するならぜひ揃えたいアイテムだ。
測色センサーとインストールCD。FlexScan SX2462Wに対応したEIZO EasyPIXはバージョン1.0.6となる |
手順は左側を見るとわかるように、たった4ステップ、数分で終了する。その数分のほとんどは測定時間だ |
EasyPIXを起動するとタスクバーに常駐する。プリセットは3つあるので、各々違った設定をし、用途に応じて切れ替えれば便利だ |
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こうして約1週間FlexScan SX2462Wを使った感想は「約10万円でこのクオリティが得られるとは驚き!」と言うことだ。最近クオリティさえ望まなければ液晶モニターは驚くほど激安になっている。しかし安いモニターは安いなりの理由がある。パソコンを操作する時、人とのインターフェースはモニター、キーボード、マウス、スピーカーが主なデバイス。これらが変われば全く違うパソコンを操作している気分となる。筆者は昔から「この中でも特にモニターは滅多に買い換えないので、少々高くても良いものを買うのが結果的に安い買い物となる」と言っている。
6年前のColorEdge CG21もこれだけ使えば十分元を取っているのでそろそろ引退の時期。そう考えると、価格と性能がうまくバランスしているこの「FlexScan SX2462W」はなかなか優れもの。投資する金額もお手頃だ。ぜひ「EIZO EasyPIX」と併用し、満足&安心のパソコンライフをおくってほしい。
■FlexScan SX2462W
http://direct.eizo.co.jp/shop/c/cSX2462W/
■EIZOダイレクト
http://direct.eizo.co.jp/
■株式会社ナナオ
http://www.eizo.co.jp/
■ナナオ、10bit入力対応DisplayPortを装備した「FlexScan SX2462W」
~ハードウェアキャリブレーション対応の「ColorEdge CG243W」も
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/20090623_295663.html
■ナナオ、「ColorEdge」など24.1型液晶ディスプレイ2機種
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/20090623_295786.html
■ナナオ、24.1型WUXGA/IPSパネル搭載の動画制作向け液晶
-放送規格対応のカラーモード採用。DisplayPort装備
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20090623_296060.html