このところ、PC用モニターでも1920×1080ドット・16:9のパネルを採用する製品が増えている。「テレビ」向けの映像ソースだけを見るならば、これでもかまわないだろう。だが、PCをつなぐなら、必ずしもそうとは言い切れない。
外付け・別売のモニターにこだわってきたユーザーならば、以前は1600×1200ドット(UXGA)のパネルを使っていた、という人も少なくないはずだ。その場合、1920×1080ドットでは縦が短くなってしまう。ワイド化が進み、横方向の解像度が重要視されるようになってきたとはいえ、やはり「スペックダウン」は避けたい。FORIS FX2431TVは、「1920×1200ドット」のパネルを採用しており、縦方向の広さを「妥協」する必要がない。このサイズ帯ならば、やはりPCモニターとしての用途を大きく意識するのは必然。ほんの180ドットの差だが、やはり使っていて気持ちいい。また、PCゲーム愛好者にとっては、「1920×1200」ドットは、家庭用ゲーム機とは違う、ハイエンドゆえのパワーを生かせる「違いのわかる解像度」でもある。
FORIS FX2431TVは、HDMIを中心に多様な入力ソースに対応した上に、地上デジタル放送・BSデジタル放送・110度CSデジタル放送の「3波対応チューナー」を内蔵した製品だ。「TV」の名がついているのは、もちろん3波対応チューナーがついているが故のことなのだが、理由はそれだけではない。サイズ的には「PCモニター系」でありながら、色濃く「テレビ」の遺伝子をも受け継いでいることが、最大のポイントである。
その最も大きな違いは、パネルのクオリティである。FORIS FX2431TVに採用されているパネルは、低価格なモニターに使われる「TN型」ではなく、より発色と視野角の特性に優れた「VA型」である。テレビでは、多くのメーカーがその性能のために採用することが多い。
実際の製品でも、そのメリットははっきりと感じられる。TN型を採用した製品に比べると、色域全体での発色分布が自然で、妙な偏りがない。そのため、コントラストも良好だ。特に大きいのが、黒に近い「深い色」の表現力だ。低価格なTN型採用製品にありがちな「不自然な浮き上がり」を感じない。テレビとしてはもちろんなのだが、写真加工などのために、色に妥協のできないモニターを選びたい、という場合でも、十分使えるクオリティだと感じた。スペック上は、表現可能な色域がAdobe RGBカバー率で96%となっている。この結果、特にビビットなグリーンの再現性が良くなったと感じる。
この点は、「1920×1200ドット」であることにもつながってくる。FORIS FX2431TVでは、地デジやHDMIから入力した1920×1080ドットの映像などは、上下に黒い「縁」をつけて表示することになるのだが、VA型ゆえの「黒の締まり」があるからこそ、このような形でも不自然さを感じにくい。
もうひとつ「テレビらしい」クオリティを実現するベースとなっているのが、IP変換のクオリティだ。放送のようなインターレースの映像の場合、単純に液晶パネルに表示すると、動きが不自然になったり、細部に櫛形ノイズが発生したりする場合も多い。そういった問題が出ないように、テレビにとっては「IP(インターレース・プログレッシブ)変換」のクオリティが重要となっている。FORIS FX2431TVでは、見る限りかなりレベルの高いIP変換が行われているようで、安価なPC用モニターに見られるような不自然さは生まれていない。
他の「PCモニター系」製品にはなく、FORIS FX2431TVに存在する機能に、「HDMI CEC」がある。これは、テレビにおいて「ほにゃららリンク」のような、テレビブランド名のついた「リンク機能」として紹介されるもののことである。HDMIを介して接続された機器のコントロールを行うもので、主に操作を簡便化するために使われている。
FORIS FX2431TVの場合にも、HDMI CECに対応したブルーレイ・レコーダーなどを接続すると、FORIS FX2431TV付属のリモコンだけを使い、ブルーレイ・レコーダー側の基本的な操作が行えるようになる。再生・停止・早送りといった機能ならば、リモコンの持ち替えは不要だ。
HDMI CECは、テレビの世界ではすでに「標準装備」といっていい。FORIS FX2431TVが「テレビでありPCモニターである」といえる理由は、こういった「テレビ的機能の取り込み」に積極的である、ということにあるのだ。
FORIS FX2431TVは、3波対応チューナーを内蔵しているがゆえに少々高価となっている。価格的に厳しい場合、下位機種に当たる「FX2431」を選ぶと良い。チューナー関連の機能が削減されているため、価格が3万円程度安くなっている。だが、広色域パネルや、後述するゲーム向けのモードなど、ほとんどの機能はそのまま引き継いでいる。なお、FORIS FX2431TVは、先頃ポイント交換もスタートした「エコポイント」の対象ともなっている。7000ポイント分がもらえることになるので、その分も加味すると、価格差の負担も少し軽くなる。
パネル解像度の他にも、最近の「低価格PCモニター」とは違う点がある。それは全体のデザインだ。
このところのPCモニターは、低コスト化を考えてか、シンプルなボディやスタンドを採用するものが多い。それもひとつの考え方だが、角度調整などの操作性については、マイナスである。FORIS FX2431TVは、その点もしっかり作り込まれている。
スタンド部には、同社が以前から採用している「ArcSwing 2」という機構が採用されている。この機構は、モニターの向き・角度をスムーズに変更するためのもの。力をかけずに変更できる上に、変更後の安定度も高い。ちょっとしたことだが、クオリティの高さを感じさせる部分である。
また、ボディ全体が「かっちり」していることは、音質にもプラスに働いている。テレビ内蔵モデルなのでスピーカーも組みこまれているのだが、この音質もなかなか。一般的な薄型テレビでも、低音を発した時などに不自然な「ビビリ」を感じることがあるが、この製品ではそういったことを感じることもほとんどなかった。
背面には、「万能型モニター」の命でもある、入力端子がたくさん並んでいる。HDMIが2系統、PC入力用としてDVI-DとミニD-Sub15ピンの2系統、さらにコンポーネント入力・S端子/コンポジット入力といった「アナログ系」もある。
入力できるだけなら他と代わりはないが、機能面でのメリットが多いのも、FORIS FX2431TVの特徴といえる。
例えば「ポータブル」モード。この機能は、プレイステーション・ポータブルを接続した際に、その映像を「画面いっぱい」に拡大するものだ。PSPの外部映像出力機能は、元々480×272ドットの映像を、画面の中央に「拡大せず」に出力するもので、多くのテレビ・モニターでは、周囲に大きく黒枠ができてしまう。それをうまく拡大し、自然な「全画面表示」にしてくれるのが、FORIS FX2431TVの「ポータブル」モード。このような機能を持つ製品は、いまのところ他になく、非常に魅力的なものである。
同様に、ゲーム向けの機能として興味深いのが「リアルイメージ」と「スルーモード」の2つである。この2つは、「高解像度液晶であるがゆえ」の問題を解消しよう、というものだ。
液晶は、解像度の高い映像を鮮明に映し出しやすい一方で、解像度の低い映像が入力された場合には「拡大表示」が必須となるため、映像のエッジが極端に「眠い」ものになりやすい。また、画質を上げていくには、解像度変換やIP変換、コントラストの最適化などといった「絵作り」が必要となり、その処理にかかる分だけ、映像出力に、コンマ数秒分の「遅延」が発生しやすい。
放送やDVD、ブルーレイといった「映像」を流す場合、これらの問題はさほど深刻なものにはならない。自然画の場合にはアップコンバートなどのテクノロジーも進歩しつつあるし、そもそも遅延はごく短い時間だから、あまり関係してこない。
だが、ことゲームにおいては、これら2つが大きな問題となる。自然画向けのアップコンバートではシャッキリしていたはずの「ドット」がだるく、見づらい映像になりやすい上に、最短で「60分の1秒単位の反応」が求められる格闘ゲームや音楽ゲームの世界では、「映像入力から表示までの遅延」が大きいと、操作の違和感につながる。最近のゲームでは遅延を考慮して作られたものも増えてきたが、2005年より前に作られたゲームの場合、遅延は「ほとんど存在しないもの」として調整がなされているため、大きな問題になりやすいのである。例えば、1998年に初代プレイステーション用ソフトとして発売された音楽ゲームの元祖「ビートマニア」の場合、遅延の大きな液晶テレビで楽しむと、テンポの速い曲などでは、「GREAT」が出る最適なタイミングでボタンを押したつもりでも、遅延の分だけ遅れた格好になり「GOOD」に化けてしまう、といった問題が発生しやすくなる。
ここで、前者の「眠さ」を解消するのが「リアルイメージ」であり、「遅延による違和感」を解消するのが「スルーモード」である。
リアルイメージでは、映像のドットがぼけるのを防止した、「レトロゲーム専用」の画質モードといっていい。例えば、Wiiの「バーチャルコンソール」機能を使い、スーパーファミコン世代以前のゲームを楽しむ場合、特に大きな威力を発揮する。ドット絵全盛時代ならではのポップ感を楽しむなら、ドットのシャッキリ感は命。時には、ゲームの印象が一変してしまうほどの効果を発揮する。
スルーモードは、本来FORIS FX2431TVの持つ様々な高画質化機能を文字通り「スルー」し、最短の遅延になるようにするモードのことである。FORIS FX2431TVの場合、もっとも遅延が起きる設定の場合で、入力から「3フレーム」の遅れになるという。だがスルーモードでは、遅れは最低限である「1フレーム」まで少なくなる。これは、現在市場ある液晶テレビの中でも、最高クラスの性能といっていい。前出の「ビートマニア」で試してみたが、スルーモードでは、明らかにスコアの上昇が見られた。
これらの点を総合すると、HD解像度のゲームを楽しむ人だけでなく、「レトロゲーマー」にも最適なモニターといえそうだ。
レトロゲームを楽しむ場合には、ドットがぼけるのを防止する「リアルイメージ」が大きな威力を発揮する |
高画質化機能を「スルー」し、遅延を最短にする「スルーモード」。FORIS FX2431TVは遅延を最短1フレームに抑える |
FORIS FX2431TVは、価格に見合う多彩な魅力にあふれた製品だ。テレビメーカーは、32型以下の小型テレビにおいて、「フルHD対応」「HDMI CEC対応」「ゲーム対応」といった、高付加価値な機能を持つ製品を、ほとんど投入していない。だからこそ、PC向けモニターに注目が集まるわけだが、中でもFORIS FX2431TVは、画質・機能の両面でトップクラスの評価を与えられる製品といっていいだろう。
高画質モニターのブランドとして長年支持されてきた「EIZO」の力と、液晶テレビの今を見据える「こだわり」が融合した、非常にバランスのいい製品である。