FlexScan EV2335W(以下、EV2335W)は、従来モデルのFlexScan EV2333W-H(以下、EV2333W-H)に比べ、デザインが大きく変更されている。EV2333W-Hでは、スタンドも含めボディカラーがホワイト系の「セレーングレイ」が設定されていたが、EV2335Wでは液晶ベゼル部分のみがホワイト系で、液晶背面およびスタンド部はブラック系のツートンカラー「グレイブラック」となった。モニター部とスタンド部がすべて黒色で統一された「ブラック」モデルは継続して用意されている。ただ、スタンド部のデザインなどは、従来モデルのようなメカメカしいものから、どちらかというとシンプルなものへと変更されており、見た目にはかなりおとなしくなったという印象が強い。とはいえ、シンプルながら、おなじみのスクエアデザインは健在で、ナナオの液晶モニターらしさは失われていない。
FlexScan EV2335Wで新たに用意された、ツートーンカラーの「グレイブラック」。液晶ベゼル部は薄いグレーで、液晶背面およびスタンド部はブラックのカラーリング |
本体が黒色で統一された「ブラック」モデルも継続して用意されている |
スタンド部は、従来のFlexStandにかわり、FlexScan SX2762W-HXやColorEdge CG275Wなどで採用されている、FlexStand 2を新たに採用。低位置から高位置まで最大195mmの広範囲な高さ調節機構、上30°のチルト調節機構、左右各172°のスウィーベル機構、液晶画面を縦位置で利用できる右回り90°のピボット機構と、広範囲の位置調節が可能となっている。これだけ自在に位置調節が可能となっているにもかかわらず、液晶面のぐらつきは全くといっていいほどなく非常に安定している。このような優れた品質を実現している点は、さすがナナオといった感じだ。ちなみに、このFlexStand 2のデザインが、従来のFlexStandよりシンプルになっていることも、EV2335W全体がシンプルに見える要因のひとつとなっている。
デザインが一新された「FlexStand 2」を採用。広範囲の位置調節が可能にもかかわらず、液晶面もしっかり安定している | 縦位置利用のためのピボット機構も備える | 円形のスタンド底面。左右各172°のスウィーベル機構を持ち、動きもなめらか。液晶をしっかりと支えている |
最も高い位置に液晶を調節した状態 | 最も低い位置に液晶を調節した状態。ほぼ地面すれすれまで下げられる。低位置から高位置まで最大195mmの調節範囲を持つ |
液晶を最も上に傾けた状態 | 液晶を最も下に傾けた状態。上下30°のチルト調節が可能 |
スタンド背面下部には、ケーブルを束ねる部分が用意されている。煩雑になりがちなケーブルもキレイにまとめることができる |
EV2335Wは従来モデル同様、1,920×1,080ドット表示対応の液晶パネルを採用している。ただし、従来モデルではVA方式の液晶パネルであったのに対しEV2335WではIPS方式の液晶パネルが採用されている。
以前は、VA方式は高コントラスト、IPS方式は広視野角/低色度変位というように、方式の違いによって表示性能に若干の差があり、製品の位置づけによって採用されるパネルの種類も異なっていた。ただ最近ではパネル自体の高性能化が進んだことで、VA方式とIPS方式との間には大きな表示性能の差は見られなくなってきた。EV2335Wで採用されているIPS方式の液晶パネルは、コントラスト比こそ1,000:1と従来モデルよりもやや低いが、視野角は水平・垂直とも178°と非常に広く、応答速度もオーバードライブ回路搭載により黒白黒で16ms、中間階調域で6msと、ビジネス用途をターゲットとする液晶モニターとしては十分に高速だ。
動画を表示させても、残像を感じることはほとんどなかった。もちろん、液晶パネル表面はノングレア処理となっているため、外光の映り込みはほとんど感じられず、文字入力中心のビジネス用途でも快適に利用できる。
ところで、IPS方式の液晶パネルは以前よりも大幅に低価格化が進んだことで、現在ではIPS方式の液晶パネルを採用する液晶モニターが多数を占めるようになっている。今回EV2335WがIPS方式の液晶パネルを採用したのは、ナナオ基準をクリアする品質を確保したうえで、価格を安めに設定できるからと考えていいだろう。そういった意味では、IPS方式の液晶パネルの採用は大いに歓迎したい。
EV2335Wでは、従来モデル同様、DisplayPort×1、DVI-D(HDCP対応)×1、D-Sub15ピン×1と、3系統の映像入力端子が用意されている。映像用途や一般ユーザー向けの液晶モニターで不可欠なHDMI端子は用意されていないが、純粋にPCのみを使い倒す用途には対応機器の増えてきているDisplayPortの方がHDMIより使い勝手が良いだろう。また、サウンド面では従来モデル同様、内蔵スピーカーがモノラル仕様のため、ステレオ音声入力端子を用意するとともに、左側面にはヘッドホン端子が用意されている。
プリセットの表示モードとしては、sRGBモードと映像表示に最適化されたMovieモードに加え、表示映像を紙に近い見え方に調整できる「Paperモード」を用意。これは本来、紙に似た色味とコントラストに調整することで、目への負担を和らげ疲れ目を抑制するための機能だが、簡単な印刷物を作成するときなどに印刷後の雰囲気を画面上でイメージする場合などに重宝しそうだ。ユーザーが調節したパラメータを記憶するUserモードも2モード用意されているので、表示設定を用途に合わせて調節し、瞬時に切り替えて利用することも可能だ。
また、EV2335Wでは、従来モデルで対応していた、カラーマッチングツール「EIZO EasyPIX」の対応が省かれている。こういった部分から、EV2335Wの位置付けがはっきりわかるだろう。
EV2335Wの接続端子部。左から、DisplayPort×1、DVI-D(HDCP対応)×1、D-Sub15ピン×1、ステレオ音声入力×1。3系統の映像入力端子が利用できる | ヘッドホン端子は、本体向かって左側面に用意されている | モノラルスピーカーは、液晶面下部に搭載 |
左:表示モード「sRGB」、右:表示モード「Paper」。Paperモードは紙に近い色味とコントラストに調整することで、目への負担を軽減する表示モードだ | 表示モードは、ユーザーが自由に調節できる「Userモード」を2つ含む、5モードが用意されている |
従来モデルでは、ビジネス用途のみならず、優れた発色性能が要求される動画処理やWeb製作、CAD用途などもカバーしていたこともあり、カラーマッチングツールへの対応も実現されていた。もちろん、それだけ優れた品質を実現していたのは間違いないが、価格もやや高くなっていた。
それに対しEV2335Wは、一般オフィスや金融機関など、映像よりも文字などの表示が中心の用途をメインターゲットとすることで機能を集約しコストを削減している。スペックだけ見ると、機能面が弱まっているように感じるかもしれないが、合致する用途では、逆に製品としての魅力が高まっているように感じる。製品の位置づけを明確にするという意味でも、こういった割り切りはアリではないだろうか。
ちなみに、機能面が弱まっているとは言っても、それはプロレベルの表示品質を要求する層から見ての話。筆者はさまざまな液晶モニターを見てきたが、EV2335Wの表示品質は同じ価格帯の他の製品よりも優れており、一般ユーザー層からすると、デジカメ写真や映像コンテンツを表示させても十分に満足できるだろう。つまり、ビジネス用途だけでなく、一般ユーザー層にも十分に魅力のある製品であることは間違いないのだ。
従来モデルでは、バックライトに冷陰極管を採用しながら、バックライト輝度を制御することによって最大消費電力が45W、工場出荷設定の標準消費電力が25Wと、優れた低消費電力が実現されていた。しかしEV2335Wでは、バックライトに低消費電力の白色LEDを採用。これもあって、最大消費電力は35W、工場出荷設定の標準消費電力は16Wと、さらなる低消費電力化が実現されている。
ところで、EV2335Wでは、従来モデルに搭載されていた人感センサー「EcoView Sense」が省かれている。一方で、調光制御機能の「EcoView Optimizer」が新たに搭載された。これにより、周囲の明るさに応じて快適な調光制御を行う「Auto EcoView」の機能に加え、画面の表示コンテンツの明るさ(まぶしさ)も加味した、より快適な調光制御が行われるようになった。さらに、LED特有の超低輝度への調光も可能となっている。こういった新機能の搭載により、EcoView Senseを省いたとしても、十分に優れた省電力性能を実現しつつ、さらに疲れ目の抑制などエルゴノミクス性を強化しているわけだ。また、輝度に応じた節電度合いを確認できる「EcoView Index」機能も従来モデルから強化され、現在の電力削減量やCO2削減量も表示されるようになった。
エコという意味では、ボディに採用している再生プラスチックの比率も従来より向上している点もポイントとして挙げられる。省電力性のみならず、省資源という意味でもエコが追求されているわけだ。
細かい部分では従来モデルから仕様面やターゲットとする用途が若干変化したEV2335W。とはいえ、実際に表示される映像の品質は十分にクオリティが高く、同クラスの他の製品と比べても、頭ひとつ抜け出ているという印象だ。しかも、FlexStand 2の採用によって、縦画面や広範囲な高さ、チルト角度、左右のスイーベル調節が可能な点は、競合製品に対する大きなアドバンテージとなるだろう。そしてなにより驚きなのが、これだけの表示品質や製品品質を実現しながら、実勢価格で39,800円と、安価な価格が実現されているという点だ。従来モデルのEV2333W-Hと比較すると15,000円ほども安価になっているのである。コストパフォーマンスという意味でも、競合製品を圧倒していると言っていいだろう。
また、ビジネス用途をターゲットとする製品では、価格だけでなくアフターサービスも重要な要素となるが、その点も安心だ。ナナオでは、5年間保証を提供するとともに、修理品引き取りサービスや、代替機無償貸出サービスを用意。さらに、法人向けとしてオンサイトまたはセンドバックの保守サービスメニューも豊富に用意されており、用途に応じた保守サービスを選択できる点も大きなメリットとなるだろう。
もちろん、ビジネス用途をターゲットとしてはいるが、デジカメなどで撮影した写真や動画の編集作業などにも十分に対応できる表示品質を備えており、一般個人向けとしても魅力のある製品であることは間違いない。Office系アプリケーションを中心とした、テキストを扱う用途が多かったり、Webアクセスなどが中心という人に最適ではあるが、オールラウンドに活用できる液晶モニターとして、広くオススメしたい製品だ。
(平澤 寿康)
[本記事は、2011年9月6日現在の情報です]