通常液晶モニターの場合、輸送時の衝撃を避けるためにかなり大き目の箱になっていることが多く、またモニタースタンドが邪魔にならないように取り外した状態で梱包されているのが普通だ。ところがEV2023Wの場合、箱そのものがかなり小さめである。また感心したのは、外箱に「どういう具合に梱包されているか」が一目でわかる図が記載されていることだ。内部のパッキングは合理的で、筆者のようにさまざまな製品をさんざ開梱している人間にとっては別に難しくはないのだが、こうしたことに慣れていない利用者でも図を見ながら簡単に設置が可能だ。もっとも、実際には上のパッキングを取り去ると、こんな具合で設置されているから迷うことはないだろうが、こうした「わかりやすさ」を重視した梱包には好感が持てる。
今回試用したのは、FlexStandが組み合わせれたパッケージだが、こちらの場合モニターが90°回転するので、ケーブルの接続なども非常に容易。接続後はスタンド裏側のケーブルホルダーにまとめておけるので、無駄にケーブルがとっ散らかることもない。
箱を取っておいて、あとで梱包しなおすなんてことが多いケースでも、やはりこうした説明が箱に記載されていると便利である。 |
すでにスタンドが取り付けられた状態で梱包されているので、このまま上に引き上げて即座に設置できる。 |
FlexStand採用モデルの、FlexScan EV2023W-H |
映像や音声ケーブルはこちら側に集中。反対側に電源ケーブルが接続される他に、音声用のケーブルが1本追加される形になる。 |
構造の見直しにより、大幅に薄く、軽くなった新デザインの筐体。
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FlexStandは、台座のでっぱりにより壁面などに直接支柱が当たらないようになっている。
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ボディ背面には、「EIZO」ロゴが刻印されている。
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EV2023Wには、FlexStandとTriStandという2種類のスタンドが用意されている。もちろん100mmのVESAアームの取り付けも可能だが、個人的にはこのFlexStandの選択をお勧めしたい。大きさという意味ではTriStandよりちょっと嵩張るが、最大225mmの昇降範囲を持ち、スウィーベルは左右172°、チルトは30°の範囲を持つ。また先にも触れたとおり画面回転機構を持っており、容易に縦型モニターに変更できる。背面の主電源スイッチを切るときなどにも便利だろう。
ちなみにTriStandの方は、奥行きこそ微妙に減るが、昇降幅は60mm、チルトは25°と調整範囲が減ってしまう(スウィーベルは同じく左右172°)。また縦横の回転機構が省かれるので、一度FlexStandに慣れると使いにくいと感じてしまうほどだ。「いっそこのFlexStandを単体販売してもらって、ウチのモニターのスタンドと取り替えたい」とか思ってしまうが、残念ながらFlexStandはEV2023W専用。VESAマウントでなく独自のホールド機構を使っており、変な話だが「FlexStandを使いたければEV2023Wを!」ということになる。
代替画像です
ここまで稼動範囲が大きいと、液晶の裏に物を置いておき、普段は液晶を下げて使い、取り出すときには液晶を上に上げるといった芸当も現実的。またこの上下動、ダンパーの効きがすばらしく、気持ちよく動く。 |
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アームが動くのではなく、スタンドの下に回転ユニットが仕込まれ、これが動く形となるので、回転も楽々。 |
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こちらは簡単に動かないようにちょっと渋めの感触。とはいえ、堅いというほどではない。 |
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こちらも適度な堅さを残しつつ、軽快に動く。しいて残念な点を挙げれば、これはあくまでもハードウェアのみで実現しており、なので画面を縦型にしたい場合には自分でディスプレイドライバの設定を行う必要があること。もっとも、煩雑に縦横を入れ替えるといった使い方はちょっと想定しにくいので、まぁ影響はないだろう。 |
さて、いよいよ液晶本体そのものである。画面サイズは20.0型のWXGA++(1600×900pixel)である。VAパネルを採用とあって、とりあえず普通に使うには全く支障がない。もちろんデザイナーなどが利用するであろう、発色などを厳密に表示しなければならない用途にはやや不安が残る。また、FPSなど動きの激しいゲームではやや残像感が気になるが、この価格帯の製品にそこまで求めるべきではないだろう。
スピーカーはモノラルで、音質はというとそこそこ。なのでDVDやBlu-rayの鑑賞には正直あまり向かない。もっとも液晶モニターにそれなりの音質を出せるスピーカーを内蔵させるとなると、どうしても機構的な制約があるから枠を大きくするとか(スピーカーを斜めに配置するために)厚みを持たせる必要性が出てくる。内蔵スピーカーはWindowsの警告音の再生などの用途に特化させ、DVDやBlu-ray、音楽再生などには別途スピーカーなりヘッドホンなりを使うのが正しいアプローチであろう。ちなみに入力はアナログ(D-sub)とデジタル(DVI-D)の2系統で、DVIの方はHDCPにも対応している。
その他としては、ナナオの製品ではおなじみFineContrast機能が搭載され、用途に応じて輝度やガンマ、色温度などの調整が可能だし、必要ならば同梱されるScreenManager Pro for LCD(DDC/CI)を使い、アプリケーションごとに特定の表示に切り替えることも可能だ。ScreenManager Pro for LCD(DDC/CI)ではまた、PC側からこまかく表示設定を行うこともできる。この他にも、連続作業時に適切に警告を発してくれるEyeCareユーティリティ、目新しいところではEIZO ScreenSlicerなんてものも加わった。これは画面に複数のウィンドウを表示する場合、決められたレイアウトに合わせてウィンドウの位置や大きさを調整してくれるというもの。あらかじめレイアウトを決めておけば、あとはウィンドウの移動時にShiftを押しながらドラッグするだけで、自動的にレイアウトにあわせてウィンドウが整列してくれるというものだ。
初期パターンは全部で7つだが、ユーザーが自由に新規でパターンを登録することができる。 |
これは三分割例だが、どんどん分割数を増やしたり減らしたり、位置を調整したりもできる。 |
こうした小技が充実しているのもナナオらしいとも言えるが、今回のEV2023Wの最大の特徴は省エネである。具体的に言えば、パワーセーブをなるべく長く取ることでトータルの消費電力を減らそうというものだが、液晶モニターにおける「パワーセーブ」とは、バックライトを消してしまうことをも意味するわけで、今度は使い勝手が悪化しかねない。使い勝手を悪化させずにパワーセーブ時間を増やすためには、ユーザーの利用状態を細かく監視する必要がある。
これを実現するのが、EcoView Senseと呼ばれる仕組みだ。具体的には本体下部に設けられた人感センサーである。単純に言えば、液晶モニターの前に作業者が居れば通常モード、不在の場合はパワーセーブモードとするわけだが、これだけでは使い勝手がよくない。そこで距離判定(作業者との距離が120cmないし90cmを超えたらパワーセーブに入り、120cmないし90cm以下になったら復帰)、ゆらぎ判定(液晶モニターの前を誰かが通り過ぎるだけ、といったケースではいちいち復帰させない)、静物判定(椅子の背もたれが120cm以内にあるとか、作業者が液晶の前で突っ伏して寝てしまうなんてケースではパワーセーブに入る)といった細かな判定を用意している。ただ、画面を眺めながら腕組みして長考、なんてケースはさすがに今回対応できない。そこでパワーセーブに入る前には画面左上に警告が表示される様になっている。もちろんこれらが鬱陶しいというユーザーのために、このEcoView Senseを無効にすることも可能だ。
ちなみにパワーセーブモードから復帰する時には現在の省電力モードが表示されるほか、EcoView Index表示を行わせることで、現在の液晶モニターの消費電力の状態を知ることもできる。エコの第一歩は、まず自分がどの程度の電力を消費しているかを知ることであり、そうしたことに便利な仕組みと言えよう。
中央の黒い楕円形の奥に赤外線センサーの発光部と受光部が設けられている。発光部からは一定間隔で赤外線を送り出し、作業者で跳ね返った赤外線を受光部で受け取り、ここから作業者の有無や距離、動き方などを判断する仕組み。 |
さすがにこれがいきなり表示されると結構びっくりする。ちなみにこれが表示される場合、まず全体のコントラストがやや落ちるようになっており、余計にも警告が目立つ。 |
センサー部右に位置するEcoViweボタンを押すことで、この画面の表示/設定も可能。 |
これは何かというと、輝度を下げるとそれに応じてバーが延びてゆく仕組み。輝度が高いほど消費電力が増えるわけで、不必要に輝度を上げずに使いましょう、という気になりやすい仕組みである。 |
ひととおりEV2023Wを使ってみた感じでは、なかなかよさげである。FlexStandも、見た目ほどに奥行きを占有しないし、昇降できる幅がかなり大きいので配置の自由度も高い。FlexStandを搭載したモデル(EV2023W-H)の他、TriStandを搭載したモデル(EV2023W-T)もラインナップされ、こちらは同社の直販価格で2000円ほど安くなっているが、機能差を考えるとFlexStand搭載モデルをお勧めしたいところだ。
価格からもわかる(FlexStand搭載モデルで¥37,800)とおり、同社の製品の中では廉価版という位置づけにあるが、それでもガンマ特性や人感センサーの精度調整は1台ずつ手作業で行っているとか、保障期間が5年間(普通は3年、廉価品だと1年なんてものもある)というあたりはさすがナナオのブランドが付いた製品というべきか。低価格品にありがちな安物感を感じさせないデザインや作りこみなども、さすがというべきだろう。予算は厳しいけど、やはりナナオを...といったユーザーにお勧めしたい一品である。