私は以前よりレビュー記事やフォトコンテストの講演などで「液晶モニター」の重要性をうるさいほど叫んできた。フィルムやライトボックスなどのアナログ時代から、デジタル化への移行期間が終わろうとしている。なのにNikon D3やCanon EOS-1D MarkIIIなどプロ用デジタル一眼レフカメラを使いながら、「sRGB」のコンシューマ向け液晶モニターで、自分の作品をレタッチしているプロカメラマンがまだまだ多く見られる。 最上位カメラでなくても、今は高解像度でAdobe RGBでの撮影ができるカメラがほとんどだ。プロでなくても自分の作品作りをしているハイアマチュアカメラマンも、液晶モニターを選ぶときはよく考慮してほしいものだ。
プロ、ハイアマチュア用液晶モニターといえば数社から発売されているが、なんと言ってもナナオの「EIZO」ブランドだろう。昔から医用画像表示モニターという生命に関わる信頼性の求められる分野で高品質なモニターを作ってきたというバックボーンが、他に負けない液晶モニターを作ってきた。多岐に渡る分野でワールドワイドに定評のある「FlexScan」シリーズや、よりクリエーティブワークに特化した「ColorEdge」シリーズがある。各製品特徴があるので自分の目的に合った製品を選ぶべきだろう。
今回は1月30日に発売したカラーマネージメント液晶モニター「ColorEdge CG242W」をレビューしてみよう。これを選んだ理由に「加法混色性能を向上させる3D-LUTに対応」という新しい技術が入っているからだ。大きさも24.1型の(WUXGA、1920×1200)と、日々RAW現像やレタッチをPhotoshop CS4で頑張っている私には、ちょうど良い大きさで気になる液晶モニターだ。2007年6月に発売した「CG241W」もレビューし、その性能に満足していたのだが、新しい製品はきっとよいものを持っているに違いない。スペックを見ての大きな違いは「DVI端子が1つになり、次世代インターフェースDisplayPortを搭載」「Adobe RGBカバー率96%が97%に拡大」だ。コントラスト比もアップしている。ということは、「液晶パネル」が変わり「画像表示エンジン」に「3D-LUT」が追加され表示性能が変わっているはずだ。自分の画像レタッチにマッチした液晶モニターかさっそく見てみよう。
撮影が終わり自宅に戻ると、夜中にRAW現像~レタッチ作業が待っている。こんな毎日な私が様々な液晶モニターを使い、Photoshop CS4などレタッチソフトを使うのに、一番手頃な大きさが24.1型モニター(WUXGA、1920×1200)である。このCG242Wはその24.1型モデルで、A4見開きが実寸で表示できる大きさだ。モニター部の厚みは他社のコンシューマ機に比べると85mmと分厚いし、本体全体で7.1kgと重い。これは後で触れるが高画質高機能のために必要な厚さなのである。かといってこの程度の厚さで実用上問題になることはまずないだろう。スタンドは上下82mm幅で昇降でき、力をかけずに上下調整やモニター部を縦90度回転して縦位置表示もできる。このような縦横回転や上下運動させても安定感はバツグンでふらつくことはない。またチルト上40度も合わせて、自分の疲れない位置にセットできる。これはCG241Wで好評だったスタンド及びチルトなどはそのまま引き継ぎ、使いやすさや安定感を重視している。
外見上CG241Wと違うのが、入力端子である。CG242WではDVI-I端子(デジタル/アナログ)が1つになり、新たに次世代インターフェースであるDisplayPortを1系統装備している。このDisplayPortはDVI規格に替わるもので、15mの長距離信号転送が可能など、先端的なスペックを持っている。また、コンパクトで抜き差ししやすいコネクター形状など、使い勝手も良くなっている。まだ対応したグラフィックカードは少ないが、長年使うことを考えると今後多いに活躍するだろう。
CG242Wは、EIZOダイレクトでは「ColorEdge CG242W センサーセット」と「ColorEdge CG242W単体」の2つのモデルを販売している。どちらも「遮光フード」「クリーニングキット」が同梱され、センサーセットの方はキャリブレーション用「センサー」が付属する。 CG242Wの液晶面はノングレア処理されているため、光が乱反射し写り込みしない利点がある。しかし部屋の蛍光灯などの光によって表面が微かに白っぽくなり、黒が締まって見えないことがある。この「遮光フード」はそんな余計な光をカットし、プロの作業をサポートしてくれる。また専用のクリーニングキットを使い、安心して液晶面の掃除ができる。(市販のでは液晶面のコーティングが取れないか心配で使えなかった)
「ColorEdge CG242W センサーセット」はキャリブレーション用センサーが付いてくるのだが、この同梱のセンサーだけを買おうと思ったら4万円はする。もちろん製品版はソフトウェアキャリブレーション用ソフトが付いてくるのだが、EIZO独自の付属の専用キャリブレーションソフトウェア「ColorNavigator」を使うので不要だ。絶対お得なセットだ。
簡単「遮光フード」取り付け
同梱の専用「遮光フード」は内側がフェルト加工されており、内側での乱反射は起きないようになっている。はめ込むだけで簡単に装着でき、接着剤や両面テープなどを一切使わずにセットできる。上面中央はスライドしてセンサーを取り付けることができる仕様となっている。 以前雑誌の企画で液晶モニター用遮光フードを自作したが、固定するのにマジックテープなどを使って貼り付けることになるなど、ここまで完璧なものは作れなかった。やはり純正に勝るものはないと思い知ったのである。
ハードウェアキャリブレーションで安定したRAW現像を!
「ColorEdge CG242W センサーセット」のメリットを紹介しよう。先に述べたように、同梱された専用キャリブレーション用ソフトウェア「ColorNavigator」を使えば簡単に「ハードウェアキャリブレーション」を行うことができるのだ。ソフトウェアーキャリブレーションとの大きな違いは、液晶モニターの色や階調をハード的に調整してくれるので、表示する写真を劣化させることなく液晶モニターで見ることができるのだ。それに対してソフトウェアキャリブレーションを行うと、グラフィックカードから液晶モニターに送る信号を減らしたり間引くなどして、目的の色を出している。その結果階調の減少や色の劣化が起きる場合がある。
このようにハードウェアキャリブレーションを行えば、目的の白色点・ガンマや輝度に合わせることができ、液晶モニターが経年劣化しても定期的に調整することで同じ状態を保つことができる。キャリブレーションは、プロやハイアマチュアなら必須といえるのだ。
我々写真に携わる者の作業は、「撮影」→「RAW現像」+「画像レタッチ」→「納品」or「自分のライブラリー」という流れになる。撮影時には仕事の内容によって異なるが、RAWで撮影することが基本である。現在多くのデジタル一眼レフカメラならRAWでも撮れることが当たり前になっている。RAWで撮ることのメリットはカメラ設定で変更されない、撮影時の生データとして記録され、「RAW現像」で再現もしくは自分好みの写真に仕上げる点だ。液晶モニターが色や階調をきちんと表示できない状態でどうやって「RAW現像」や「レタッチ」をするのだろう。答えは「限りなく不可能」である。白やコントラストは色情報やヒストグラムを見ての作業である程度のことはできる。ただそれしかできないということだ。
この「CG242W」は、コンシューマ向け液晶モニターの表示可能域(sRGB)を大きく超えるAdobe RGBカバー率97%(面積比100%以上)の広色域を持っている。またsRGBやJMPAカラーも余裕をもってサポートしている。プリンターなどデバイス間のより厳密なカラーマッチングや広色域のカラーマネージメントシステムの構築が可能な仕様だ。解像度は1920×1200で、最大表示色は約1677万色8bit対応(約680億色中/12bit-LUT)。ここまで見れば現在ある液晶モニターの中でもトップクラスの仕様だということはわかる。ところがそれ以上に個別の色コントロールする技術「3D-LUT」を導入している。これはRGB各色別々のテーブルで調整していたものが、RGB立体状で1つのテーブルとしてコントロールするものだ。この技術で今まで以上に正確な色やグレースケールの表示が可能になっている。
技術的なことがわかったところで、実際視覚的にも優れて見えるか確認してみよう。
RGBとCMYのグラデーションテスト
ここでは一般的な他社製24.1型液晶モニターと比較してみる。RGBとCMYを各色グラデーションをPhotoshop CS3で表示、それをNikon D3でRAW撮影した。RAW現像時に色温度をそろえ、コントラストを0にしている。あくまでも同じカメラの同じ撮像素子を通しての比較なので、色は多少見た目と違うが、色および傾向は同じと思ってほしい。
各色グラデーションを見ると色やグラデーションに差があることが一目瞭然だ。色は「CG242W」は「他社」に比べ赤、緑、黄色の彩度が高く、青の彩度は低い。「他社」赤は黄色がのってしまいオレンジになっている。シアンは他社製の方が濁って見える。グラデーションは他社の青が1/3ぐらいまで色飽和が起きてしまい、きれいなグラデーションになっていない。このように単純な色でもだいぶ違って見えるものである。
グレースケールテスト
黒側は(0・0・0)(2・2・2)~(20・20・20)と白側(255・255・255)(253・253・253)~(235・235・235)の階調を並べてある。このチャートを「CG242W」で表示し、Nikon D3でRAW撮影する。適正露出での撮影と黒側の階調を顕著にするために5段露出を明るく撮影した。またRAW現像時に色温度を整えコントラストを0にして現像してある。 白側はトーンカーブでコントラストを高くして各スケールの差がわかるようにしてある。
黒側のグレースケール結果
「輝度ムラ・色ムラ」テスト!
「CG242W」は、輝度ムラ・色ムラを補正して画面全体が均一になるように、「デジタルユニフォミティ補正回路」を搭載している。輝度と色度を画面の各ポイントにて測定し、画面全体で均一になるように補正しているわけだ。こういった補正回路のない他社製品と比較してみると驚くべき「デジタルユニフォミティ補正回路」の威力がわかる。
「CG242W」はAdobe RGBカバー率97%、面積比だと100%は超える広い色域を持っている。グラフのsRGB色域と比較しても大幅に広い色域なことは一目瞭然である。このAdobe RGB色域で撮影した写真を表示して比較してみる。「CG242W」と「他社」で同じ写真を表示させ、RAWで撮影。現像時に各モニターで白を表示撮影して得た色温度に調整し、露出等も同じ条件になるようにしてある。
写真を扱っている者として、予想以上の結果が出たことに驚いている。上記の結果を見て、sRGBのコンシューマ機を使ってグラフィックデザインや写真を扱うプロはいるだろうか? また、ColorEdgeシリーズは、プリンターや印刷等とも連携のとれるキャリブレーションモニターだ。職人は腕だけでない、よい道具も使わないと良い作品は作れないものだ。是非この「CG242W」でよい作品を作ってもらいたい!
※すべてAdobe RGBで撮影したデータで色温度を6000Kを前提にしている。そのためsRGBのモニターで見ると緑の彩度が乏しくなったり、モニターのセッティングによっては評価のコメントと違って見えることがある。
若林直樹
雑誌、広告等の仕事の傍ら、ライフワークとして自然や癒される空間を求めて国内外を旅している。撮影対象はICチップからアフリカ象まで幅広い。デジタルカメラは1995年からコンパクトからプロ機までテストレビューに携わる。自宅ではフェレットをこよなく愛し、我が家で生まれた5匹と暮らす。いつかフェレットの写真集を出そうと企み中。HPはhttp://homepage2.nifty.com/nao-w/http://direct.eizo.co.jp/shop/c/cCG242W/
■カラーマネージメント液晶モニター ColorEdge
http://direct.eizo.co.jp/shop/c/cCG/
■EIZOダイレクト
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■株式会社ナナオ
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