2010年登場のFS2331はコントラスト性能の高いVA液晶採用モデルで、階調性のリニアリティや黒表現に優れた特長は今でも高い評価を得ているほど。そして昨年2011年に登場したFS2332は液晶パネルをIPS液晶に変更して、広い視野角を達成しつつ、超解像機能を搭載、加えて極まった低表示遅延機能までを身に付けた。今回の新モデル「FS2333」はどういう製品なのだろうか。
FS2333の液晶パネルは、先代FS2332から引き続きIPS液晶パネルが採用されている。実際にパネルをルーペで観察してみると、画素仕切りはとても狭く、開口率の高いサブピクセル構造になっていることが分かる。この開口率の高さと整然とした画素形状は、普段の視聴位置から見たときに、ドット単位の表現の美しさに現れてくれる。
今や液晶パネルは、IPSもVAも、それこそTNであっても、スペック表記上の視野角に大差はないが、「色調変位の少なさ」という着眼で評価すれば、やはりまだまだIPS液晶に優位性がある。実際、FS2333は、左右から斜めに見ても、見下ろすような視位置や、見上げるような視位置から見ても画面全域でほぼ均一な色味を保てている。
FS2333の表示画素の拡大。右の画像は、左の画像をさらにルーペで拡大したもの。サブピクセル開口率はきわめて高く、しかも形状は整然としているのでドット単位の表現も美しい |
画面サイズは23インチ(対角58cm)。視聴距離が数十センチとなるパーソナルモニター製品としては、小さすぎず大きすぎずのジャストサイズだ。解像度は、今や基準解像度となった感もある1920×1080ドットのフルHD解像度。型番が"+1"されただけなので、単なるマイナーチェンジかと思いきや、実は本体デザインが大きく変更されており、それに伴って各部に改良の手が加えられている。
まず、地味ながらも嬉しいのが、スタンド周りの機能性向上だ。ディスプレイ部の高さ調整機能が新搭載となったのだ。これは、マルチモニター環境を構築する上で便利な機能だ。23インチサイズで液晶モニター製品を揃えても、メーカーが違うと当然高さは違うし、同じナナオ製品で揃えたとしても製品世代で微妙に高さは違う。今やマルチ画面は特別なユーザーのためのものではないので、意外に重要な機能なのだ。
スタンドはスイーベル/チルト機構にも対応。チルト角は25°で普通だが、スイーベル角はなんと左右に各172°、合計で344°まで可能。個人的な要望だが、これにピボット(回転)機能まで付いてくれれば、さらに嬉しいかも。
本体周りで、面白いのが、背面上部にあしらわれた「取っ手」。これは、LANパーティー(ゲームパーティー)などで自前の機材を持ち寄ることが多い欧米ユーザーからのリクエストで搭載されたものらしいが、別に遠地への移動の際でなくとも意外に便利に使える。例えば、チルト角やスイーベル角の調整をこの取っ手を持ってやるととても楽に行えるし、掃除や整理の際にも、ササっとワンアクションで動かすことだってできる。
新搭載のスタンドは、前後のチルトが25°、左右のスイーベルが各172°可能になった |
上下60mmで高さ調整も可能に | 意外と便利な取っ手 |
接続端子群は、デジタル系としてはHDMI入力が2系統、DVI-Dが1系統だ。PS3はゲームの映像出力であっても著作権保護機構のHDCP制御がなされるが、FS2333はHDMI、DVIともにHDCP対応なので、PS3との接続もばっちりだ。アナログビデオ入力としてはレガシーなノートPCとの接続には未だ重宝するアナログRGB接続対応のD-Sub 15ピン端子を1系統備える。
スピーカーは出力0.5W+0.5Wのステレオ2CHユニットをディスプレイ部下部左右に実装。PCスピーカー的に、PC動画やゲームサウンドをカジュアルに楽しむのに活用できる。
FS2332以前にはなく、FS2333に新搭載されたサウンド機能としては、ヘッドフォン端子に加えて、オーディオ・ラインアウト端子が備わっている点が挙げられる。出力レベルがラインレベルになっているので、オーディオアンプやアンプ内蔵のアクティブスピーカーなどと接続することができる。AVアンプを介した本格的な5.1CHサラウンドや7.1CHサラウンドを使うまでもないが、それなりにちゃんとしたステレオサウンドを楽しみたいときに活用すると便利な端子だ。
なお、HDMI経由で伝送されてきたデジタル音声はちゃんとFS2333の内蔵スピーカー、ヘッドフォン端子、ラインアウト端子のいずれからも再生することが出来た(ただし、ヘッドフォン端子を利用すると、内蔵スピーカーやラインアウト端子は無音になる)。
接続端子パネル | スピーカーは本体正面の操作ボタン部両脇に、出力0.5W+0.5Wのステレオ2CHユニットを搭載 | |
ヘッドフォン端子とは別にラインアウト端子を搭載。こちらは本体の音量調整の影響を受けずにラインアウトレベルで出力される | ヘッドフォン端子は本体の音量調整の影響を受ける |
FS2333では、リモコンもリファインされている。これもユーザーからの要望に応えた結果だそうで、FS2332のカード型リモコンから、立体的なボタンがあしらわれたコンパクトリモコンに変更されている。
DVI-D端子とD-Sub 15ピン端子は[PC]ボタン、2系統あるHDMI端子は[HDMI]ボタンを押すことで交互に切り換えられるので、FS2333の端子全てに機器を接続しているようなフル活用ケースにおいても、使い勝手がいい。それと、音量上下操作、一瞬で無音にすることができるミュート操作もリモコンに独立したキーとして配置されているので、突然の来客や電話が掛かってきたときにも対応が楽ちんだ。さらに[EcoView]ボタンという省エネ機能専用のボタンを実装することで、昨今の節電ムードへの対応もアピールされている。使用環境の明るさに応じてバックライト輝度を調整したり(Auto EcoView)、入力映像の最大白レベルに応じてより一層のエコ動作を推進する機能(EcoView Optimizer)などは、この[EcoView]からワンタッチで操作することができる。「節電が重視される夏期の昼間だけこの機能を活用する」といった際にも、このボタンは便利に使える。
コンパクトリモコンに、白枠で強調された[Smart]ボタンによってカスタマイズができるのがFS2333に新搭載された「Smart Insight」機能になる。
この「Smart Insight」機能は、ナナオが提案する新発想の適応型映像処理技術で、入力映像信号を、ある意味積極的に調整する方向性の高画質化ロジックになる。非常に大胆な機能なので順を追ってコンセプトから解説することにしよう。
もともと人間の眼には、現実世界の情景を「見やすいように見る」特性がある。例えば、日の光が差し込む昼間の時間帯、室内の窓際に立つ人を見た時を思い浮かべて欲しい。自分は室内にいるので、瞳は室内に合わせた開度になっているので、その窓際に立つ人の顔はちゃんと見える。当たり前のことだ。しかし、この情景をデジカメで撮影すると、カメラのレンズに入ってくる光量の総和からシャッター速度やレンズ絞り開度を決定するので、窓から差し込む日の光が強い場合は、シャッター速度が速められたり、レンズ絞り開度が小さくなったりで、日の光だけ明るく映った全体的に暗い写真になってしまう。こうした経験がある人は多いはずだ。
そう、FS2333に搭載された「Smart Insight」機能とは、入力された映像信号を吟味して、適宜、人間の「見やすいように見る」視覚特性を再現してくれる機能なのだ。ナナオではこの「Smart Insight」機能を日本語で「暗部視認性向上技術」とも言っているが、実際、明部の煌めき具合は維持されて、見えにくい暗部の領域を見やすくする画調調整が行われる。なお、「Smart Insight」機能が利用できるのは画調モード「Game」「Cinema」「User1」「User2」「Eco※」で、「sRGB」「Paper」では画調のコンセプト上、利用することができなくなっている。(※「Eco」モードは、「Smart Insight」機能が常時オンとなっておりオフにはできない。)
「Smart Insight」機能の使い道の1つは、ホームビデオの映像やデジカメ写真を鑑賞する際だ。
多くのユーザーは、ビデオカメラやデジカメをオートモードで撮影していると思うが、このオートモードがうまく働かず、時々、上で述べたような「映像中に映り込んだ一部の明るい領域に引っ張られて、意図せず、シーン全体が暗く映ってしまっている」事がある。この時に「Smart Insight」機能を利用してやればいいのだ。
実際に、明暗差の激しいデジカメ写真などを見てみたが、まるでHDR(ハイダイナミックレンジ)撮影した写真から合成したかのように暗部から明部までがくっきりと見えるようになる。
この暗部の持ち上げ方には好みがあるので、「Smart Insight」機能にはオフを含めて6段階の効き方の強度調整ができるようになっている。オフが「0」に相当し、レベル1が最も控えめで、レベル5が最も強く暗部を持ち上げてくれる。レベル3とレベル4の境界が比較的大きく、レベル3までが弱め、レベル4と5はかなり強めに効くという感じなので、暗い領域がそれほど少ない映像ではレベル3までを活用し、多い映像ではレベル4以上を効果的に使うとよい…という活用指針を提言しておきたい。
明暗差の激しい写真や映像を見やすく補正してくれる「Smart Insight」機能。
この写真はFS2333の実機で、逆光撮影した映像を表示し、「Smart Insight」機能の強度を変更していったもの
Smart Insight 「オフ」 | Smart Insight 「1」 | Smart Insight 「2」 |
Smart Insight 「3」 | Smart Insight 「4」 | Smart Insight 「5」 |
「Smart Insight」機能、もう一つの使い道はゲームプレイにおいてだ。
制作側の演出意図であえて映像を暗く見づらく調整しているタイトルもあるが、ゲームを有利に進めたいアグレッシブなプレイヤーにとっては、これは邪魔でしかない。対戦型ビデオゲームを「eSports」と呼んだりするが、ゲームを競技として捉えてプレイしているそうしたプレイヤーにとっては、暗がりに潜む敵をライバルよりも早く見つけることが、勝ち負けに直結するからだ。これまでも、そうしたeSports系プレイヤーの一部は、自分の使用しているディスプレイのブライトネス値を上げて、ガンマ値を下げてプレイに臨むことがあったようだが、明部の階調が潰れてしまって明るいシーンでこのワザは使えないという歯がゆさがあった。
しかし、「Smart Insight」機能ならば、映像の明暗状況にリアルタイムに反応して明部階調を潰さずに暗部階調だけを見やすくしてくれる。いわば、eSports系プレイヤーにとって「Smart Insight」機能は、視覚拡張装置として活用できるわけだ。ナナオ側も、この「Smart Insight」機能をeSports系プレイヤーに使いやすく磨き上げるために、米英豪韓に拠点を構えるプロゲーマーチーム(eSportsチーム)「Fnatic」に開発協力を要請している。
Fnaticプロデュースの「Smart Insight」機能は画調モード「Game」選択時のみに機能し、効き方強度は「レベルオフ・1~5」という名前ではなく「オフ」-「RTS(Low)」-「RTS(Medium)」-「RTS(High) / FPS(Low)」-「FPS(Medium)」-「FPS(High)」といった名前になっている。ちなみにRTSはリアルタイムストラテジーゲーム、FPSはファーストパーソンシューティングを意味しており、各モードはRTSに適したモード、FPSに適したモードというふうに命名されたと思われる。さらに深読みすると、Fnaticが開発協力したということは、RTSはStarcraft系など、FPSはCounterStrike系などを想定していると思われる。
実際に使ってみると、通常の「Smart Insight」機能と効き方の強度が違うことが分かる。RTS(Low)とRTS(Mid)の境界が大きく、ある程度、ゲーム製作側の明暗演出意図を残してプレイしたい場合にはRTS(Low)がお薦めで、RTS(Mid)以上は、それこそ「暗視ゴーグル」の強度調整のようなイメージになる。
今回は、FS2333の評価に「Call Of Duty:Modern Warfare3」(以下CoD:MW3)をプレイしてみたが、この「Smart Insight」機能を暗がりのシーンに使うと、本当に暗視ゴーグルを着けてプレイしているかのようにゲーム世界を暗がりの奥の奥までを見渡すことができる。最初は、「Smart Insight」機能は「ずるい機能かな」とも思っていた筆者だったが、リモコンの[Smart]ボタンを押して、暗がりのシーンに来たときだけ適宜「Smart Insight」機能をオン/オフしていると、なんだか自分だけ特別に先行開発された新ガジェットを与えられて闘っているスーパーソルジャー気分に浸れるので、これも面白いかな、と思い始めてしまった。より一層、スーパーソルジャー気分を盛り上げるためにも(≒使い勝手を向上させる意味でも?)、次期FS233xには、ぜひとも音声認識機能で『Smart Insight オン!』『Smart Insight オフ!』でこの機能を切り換えられようにして、機能オン時には『Smart Insight オン』という音声レスポンスまでを付けて欲しい(笑)。
「オフ」 中央階段の敵兵は見える |
RTS (Low) | RTS (Mid) |
RTS(High) / FPS(Low) | FPS (Medium) | FPS (High) 強度を上げていくと、実は、最初から見えている敵兵の背後、階段の上段にもう一人、敵がいることがわかる |
FS233xシリーズと言えば、ゲーム対応液晶モニターとしても人気の高い製品で、「低表示遅延性能」と「高速応答速度性能」については特に気を使っている製品シリーズだ。実際、この性能部分をなにより気にしている読者も多いと思う。今回発表されたFS2333は、ゲームユーザーが最も重視する「低表示遅延性能」と「高速応答速度性能」の2大スペックにおいて、先代FS2332を上回ることになった。
具体的には、低表示遅延性能においては、驚きの0.05フレーム(60Hz時)未満を達成し、そして高速応答速度性能においては3.4msを実現したのだ。ちなみに、2012年6月現在で、「表示遅延0.05フレーム」「応答速度3.4ms」は、業界最速を謳っている。
表示遅延性能については、1フレーム未満であれば、ほとんどの人間には差が分からないと思われるが、スペック値から得られる「安心性能」という意味においては心強い。応答速度については、オーバードライブ回路による過電圧制御によって実現されるもので、映像の種類によっては輪郭がややノイジーになることがある。「3.4ms」の応答速度は、メニューの「オーバードライブ」設定を「強」設定にした時に実現されるもので、動く物体の輪郭がノイジーに見えるときはこの設定を「普通」とするといい。画面が縦横無尽に動くゲームプレイの時には「強」設定を試すのは悪くない。
なお、下にフリーソフトの「LCDBENCH」を用いて、オーバードライブ設定の効果を比較した動画を示す。LCDBENCH側は十字円の移動速度を3ms更新とし、撮影はカシオのEXILIM EX-FC150にて240Hz高速度にて行っている。オーバードライブ設定オフ時は十字円が描ききらないうちに移動してしまうため、線分の色が薄いが、「普通→強」と上げていくと、描画速度が上がり(=応答速度が上がり)これがはっきりとした色になっていくのが分かる。
嬉しいのは、FS2333では、「低表示遅延性能」と「高速応答速度性能」が、前述の「Smart Insight」機能を併用しても実現されるということだ。高画質化機能を利用すると一部の液晶モニターやテレビ製品では、特に表示遅延に影響が出やすいが、FS2333では問題がないのだ。
また、FS2332に搭載されていた超解像技術「Smart Resolution」機能と、画面中の動画領域を自動検出してSmart機能を適用する「Smart Detection」機能は、FS2333にも引き続き継承搭載されているが、これらの機能を活用しても、もちろん「低表示遅延性能」と「高速応答速度性能」は影響を受けない。高画質に遠慮せずとも「低表示遅延性能」と「高速応答速度性能」が実現されるのはゲームプレイを重視するユーザーにとっては嬉しい高性能だといえる。
昨年モデルのFS2332から型番に"+1"されたFS2333だが、「年次改良」以上の機能向上、使い勝手向上、性能向上がなされており、まさしく「最新のFS233xは最良のFS233xである」といった完成度になっている。
「業界最速!」を謳う「低表示遅延性能」と「高速応答速度性能」の部分は競合製品とのスペック競争の産物という感じはするが、しかし、そうしたアピールポイントにも確かな信頼感が伴っているように思えるのは、やはり「EIZO」というブランド力があるからなのだろう。取っ手の装着、スタンドやリモコンのリファインといったような、ユーザーからのフィードバックを元に改良を重ねてきている部分などは、特にEIZOらしい"きまじめさ"が感じられて好印象を抱く。
ナナオ自身も、この「EIZO」ブランドをこれまで以上に堅固なものに育てていこうという意志があるようで、このFS2333の発売を皮切りに、液晶パネルを含めた製品保証を5年/3万時間に拡大するそうだ(従来も製品保証は5年/3万時間だったが液晶パネルは3年/3万時間だった)。性能と価格が拮抗する製品に対しても、品質で優位に立とうということなのだろう。
FS2333は、全国の電気量販店やパソコンショップ等で7月13日より標準価格39,800円で発売が開始されるが、EIZOダイレクトでは、お得なセット商品も発売になるのでサイトをチェックしていただきたい。FS2333より新設されたラインアウト端子を積極活用するならば「EIZO×JBLデスクトップ・シアターセット」(EIZOダイレクト価格 49,800円)が、DTP用途、デザイン用途にもFS2333を活用したいならば「カラーマッチングツール EIZO EasyPIXセット」(EIZOダイレクト価格 49,800円)が、それぞれ単体購入より1万円も安くなるのでお薦めだ。
(トライゼット西川善司)
※画像はコール オブ デューティ モダン・ウォーフェア3のものです。
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トライゼット西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。AV WATCH誌ではInternational CES他をレポート。GAME WatchではPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。ブログはこちら。近著には映像機器の原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)、3Dゲームグラフィックス技術の仕組みをまとめた「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術」(インプレスジャパン:ISBN:978-4-8443-2755-4)がある。 |
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