西田宗千佳のイマトミライ

第69回

PS5・Xboxで加熱するゲーム機商戦とそれぞれのプラットフォーム戦略

PlayStation 5

9月18日からPlayStation 5(PS5)の予約が開始された。ほとんどの店舗が「抽選式」であり、それでも人気が集中し、混雑が続いている(筆者もこの記事を書いている段階では、抽選登録が終わっていない)。

「プレイステーション 5」11月12日発売、39,980円から

ゲーム機の予約はさらに続く。マイクロソフトの「Xbox Series S」「Xbox Series X」も9月25日から予約が開始される。

Xbox Series X(左)とXbox Series S(右)

「Xbox Series X」49,980円。日本で11月10日発売

今年は「次世代ゲーム機イヤー」であり、発売日も見えて盛り上がってきた感がある。

一方、ソニーとマイクロソフトでは、ゲーム機プラットフォームづくりの方向性が異なる。どちらも「低価格モデル」を用意したのが次世代の特徴だが、その意味づけ・位置付けが異なるのである。

今回はそのあたりを分析してみよう。

PS5とXbox、似て非なる「低価格版」戦略

すでに述べたように、PS5と次世代Xboxには共通の特徴がある。それが「低価格モデルがある」ということだ。

PS5は「PlayStation 5 Digital Edition」(以下PS5 DE)があり、Xboxには「Xbox Series S」がある。どちらも光学ドライブを搭載しない、ネットワーク専用のゲーム機になっている。

PlayStation 5 Digital Edition

だが、両者はイコールではない。

PS5 DEは純粋に光学ドライブを取り外しただけで、機能・性能はPS5としては完全に共通で、下位機種という役割ではない。狙いは、高性能化したPS5のコストを下げて「399ドル」(39,980円)を実現することで、プラットフォームとしての一貫性を重視している。この点は、筆者がSIEのジム・ライアンCEOに行なったインタビューでも強調されている。

SIE ジム・ライアンCEOに聞く「PS5発売までの軌跡」

対してマイクロソフトは、「Xbox Series X」と「Xbox Series S」(以下それぞれXSX、XSS)を、「同一アーキテクチャではあるが性能が異なる機器」として作っている。

XSXはPS5と同等の高性能ゲーム機を目指しているが、XSSはXSXをベースに性能を落とし、より低価格に作れるモデルになっている。簡単にいえば、XSXは4Kを主軸にした製品だが、XSSは2,560×1,440ドット(1440p)まで。GPU性能とメモリー構成に大きな違いがある。

XSXとXSSのスペック比較から一部抜粋。4K以上を想定するXSXと、1440pまでのXSSでは処理性能が大きく異なる

そのためか、価格はPS5 DEより、XSSの方が価格が安い。前者が39,980円、後者は32,980円(ともに税別)と価格差は意外と大きい。発熱が小さくなるためか、XSSの方がサイズも小さい。

一方、前述のように性能は大きく異なり、XSSは4Kで利用できない。ここまで性能が異なると、ソフトを開発する際にも配慮が必要になる。

Xbox Series S(左)とXbox Series X(右)

PCを含めたサービス連携を軸に置くマイクロソフト

PS5が「同じ機能で一貫性を保つ」ことを重視しているのに、XboxがXSXとXSSという2つの形にプラットフォームを分けているのは、両者の方向性の違いを示す、典型的な部分といえる。

マイクロソフトは、現在のゲームシーンにおいて「PC」の市場が無視できないことを意識した戦略、といえる。

マイクロソフトはWindowsとXbox向けのゲーム開発基盤として「Direct X」を持っている。DirectXを基盤にすることで過去のXboxシリーズからの移行やPCとの互換性を保ちやすい、という特徴がある。多くのゲームはPCで開発され、そこからゲーム機へとターゲットを移す。PC版からゲーム機まで多様なハードウェアに対応するため、グラフィック表示などの切り替えは容易にするのが基本でもある。

そして、サービスの面でも「Xbox」ブランドでPCとゲーム機の連携を重視している。有料会員制サービスの「Xbox Live」の中にもPCと連動した「Xbox Game Pass Ultimate」が用意されている。月額1,100円と少し高めだが、Xbox Liveの有料版「Gold」に加え、PCとXboxの両方で100種類以上のゲームが遊び放題になる。

Xbox Game Pass Ultimateの詳細。月額1,100円で、Xbox向けの有料サービスとゲームの遊び放題がセットになっている

日本では提供が決まっていないものの、海外では、本体の費用+ゲームの遊び放題をセットにした「Xbox All Access」というサービスも用意されている。

Xboxだけでゲームを遊んでもらうのではなく、環境が揃っていればPCで遊んでもらっても良く、価格・プレイする場所・ハードウェアなどのバリエーションを重視するのが、マイクロソフトの戦略である。

別な言い方をすれば、費用に糸目をつけないハイエンドゲームPCはともかくとして、ゲーム機を「その時にもっとも快適かつ手頃にゲームができる環境」と位置付けるのが、Xbox One世代中期以降のマイクロソフトの戦略だ。XSXは「PCに近いが、もっとコスト的に有利なゲーム環境」の提示であり、XSSは「より手軽なゲーム環境」の提示、といっていい。どちらにしろ、軸はサービスである「Xbox Live」である。

「PCではない価値」にこだわるSIE

一方で、SIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)は、ゲーム機としてのプラットフォームを重視している。将来的に性能向上版が出るのはともかく、初期からターゲットとする性能が複数あることは、開発の負担を大きくする。ユーザーにとってもわかりにくくなる。過去から続く「ゲーム機という一貫したプラットフォームをターゲットとする」ことを軸に置いている、といってもいい。

SIEはゲーム機とゲームプラットフォームから収益を得ている。マイクロソフトはゲーミングPCが伸びても、Windowsから売り上げが立つし、Xbox Liveとの連携も伸びる。しかしSIEはそうではないのだ。

別の言い方をすれば、「なぜゲーム機でゲームをするのか」というプラットフォームとしての価値をわかりやすく提示できないと、ゲームファンをゲーミングPCにとられる可能性がある。

だから、ストレージモデルや最適化などを通し、「PCとは違う」部分をアピールする。特にPS5ではそれが顕著だ。そうした戦略ならば、価格を下げるためにプラットフォームの一貫性を失うのは得策ではない。

SIEとマイクロソフトの戦略は、どちらがいい、というものではない。単に「違う」のだ。ただし、それが各市場でどう受け入れられるかは、それなりに差があるだろう。

ゲーミングPCへの親和性が高いアメリカではマイクロソフトの戦略に魅力を感じる人の割合が増えるかもしれない。だが日本では、最近増えてきたとはいえ、「PCでゲームをする層」はそこまで多くない。となると、SIEのアプローチの方がわかりやすい。

ゲーム機が出ると性能の優劣で論争が起きたりもする。だが、いまやそこにあまり意味はない。どうゲームを作るのか、どんなプラットフォームにゲームを出すかで、画質や機能の活かし方は変わるからだ。そして前述のように、サービスが絡むことで、各社のハードウェアに対する考え方も変わる。上か下かを単純に論じることはできない。自分のライフスタイルにどのプラットフォームがフィットするのかを考える必要がある。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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