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応接室のドアを開けてお茶を運ぶロボット「ニョッキー」

川崎重工業は7月25日から8月12日までの期間、来客時のパントリーサービスの一部を、双腕自律走行ロボット「Nyokkey(ニョッキー)」が行なう実証実験を、ロボットの開発拠点でもある同社明石工場総合事務所内で行なっている。実証実験開始から2週間ほど経った8月8日、現地で実証実験の様子が報道公開された。「Nyokkey」はオフィス内を走行し、応接室の重たいドアを開けて、飲み物を届けた。

汎用のサービスロボット「Nyokkey」

パントリーサービスを行なう「Nyokkey」

業種別GDP構成比を見ると製造業は約20%だが、サービス業は49%。しかし、まだ全業種の3割でしかロボットは使われていない。技術的に難しいからだが、産業用ロボットメーカーの川崎重工はいま、サービス領域への進出も進めている。そのプラットフォームとして開発中のロボットが「Nyokkey」だ。

Nyokkeyは通常の高さは150cm、重さは約75kg。最大可搬質量は6kg(ハンドの重さ含まず)、最高速度は6km/h。顔はタッチパネルモニタとなっている。台車には前後にLiDAR(レーザーセンサー)、頭部と手先にはRGBカメラと深度センサーがある。首はニョキッと伸びる。これと今後の成長を期待して植物がニョキニョキと成長する様子が名前の由来だ。

ニョッキー正面
ニョッキー側面
愛らしい顔など人とのコミュニケーション能力も重視
今回運ぶ飲料は台車部上のトレイで運ぶ

自走するだけではなく実際にものを運べることが特徴だ。二つの腕を使うことで、ドアやエレベータなど人が利用する環境でも、無線による通信などを使うことなく、人と同じ手段を使って動くことができる。掃部氏は「移動作業には必ず腕が必要」と述べた。

自律移動だけではなく、川崎重工独自の遠隔協調システム「Successor(サクセサー)」を使って、人による遠隔操縦にも切り替えられる。完全自律では難しい作業も、人が遠隔から介入する半自動とすることで、ロボットが作業をこなせるようになる。

ニョキッと伸びる首。最大で190cm程度になる
腕のリーチは長い
胸部には遠隔操作時に用いる魚眼カメラ
ガッチリしたハンドは開発中のヒューマノイドで用いていたものと同じ

サービスを受ける側も理解が必要

川崎重工業 精密機械・ロボットカンパニー ロボットディビジョン 商品企画総括部 先進技術部長 掃部雅幸氏

川崎重工業 精密機械・ロボットカンパニー ロボットディビジョン 商品企画総括部 先進技術部長の掃部雅幸(かもん・まさゆき)氏は、汎用的な機能を持ち様々な分野で活用できるプラットフォームロボットとしてのNyokkeyを紹介した。

川崎重工はNyokkeyを使って既にいくつかの実証実験を行なっている。藤田医科大学病院ではエレベーターを操作して乗降している。また3月に行なわれた「2022国際ロボット展」では配送ロボットとの連携や台車配送をデモした。羽田イノベーションシティでは川崎重工が作った食堂でカレーなどの配膳サービスを行なっている。

掃部氏は「様々なサービスを行なってきたが人間の共存する環境にあるものは千差万別。一品一様」と述べた。ドア一つ一つも微妙に違う。がたつき、かたさ、痛み具合、なめらかさが微妙に一個ずつ違う。人間は簡単に開けられるが、ロボットにやらせようとなると画像認識やアームの軌道生成、力制御などが必要になり、非常に難しい。

身近なものは全て異なり、ロボットが操作するのは難しい

ではサービスロボットは普及させられないのか。掃部氏は「サービス提供側の努力だけではく、受ける側の理解も必要」と述べて、今回の実証実験では川崎重工が自らサービス提供と受ける側両方の立場に立とうと考えたと述べた。

国際ロボット展でのデモでもドア開けは行なっていたが、そのときはアームの軌跡だけで行なっていた。だが重たいドアではそれだけでは難しく力制御しながら少し開けて、体全体を使って扉を押すことでドアを押し開ける。

現在、Nyokkeyは2023年の市販に向けて3代目を開発中。一部のユーザーと一緒に用途を探索し、様々な業種に市場参入していくことを目指す。そのために川崎重工では共創空間「YouComeLab」を設置。一緒に社会課題を解決していこうとするパートナー企業と開発を進めている。2025年には本格展開を目指す。

ロボットが普及していない分野での活用を目指す
可能性は無限大とのこと

「Nyokkey」のドリンクサービス

本来のパントリーサービスは、応接室からかけられた電話に従って、パントリー担当者がドリンクを用意し、Nyokkeyのお盆にセット。その後、ロボットがオフィス内を走行。応接室の重厚なドアを開け、飲み物を届けるというフローになっている。

今回はロボットが廊下を走行する様子、ドアをノックして開ける様子、そして室内に入って挨拶するというデモが紹介された。ロボットは事前に走行してマップを作っており、そのマップを元に走行する。ドアにはARマーカーが付けられており、頭部のカメラで認識してドアノブを操作する。

掃部氏は「オフィスにも課題とニーズはたくさんある。また、オフィスで動かすことは一般の人がロボットを知る機会でもある。知ってもらうためにはビル業界は意義が大きい」と語った。インフラのバリアの程度や、サービスのレベルをどこで妥協できるのかを探ることもできたという。発展途上のものでも積極的に市場に出し、「とにかく社会実装を早く進めたい」とのことだった。