前日まで3日間徹夜し、某書籍の校了と印刷所への入稿を果たした月曜日の夕方、ふとこうつぶやいたのである。「そうだ、スキー行こう」と。この疲れを癒やすには、何もかも忘れて雪山でリフレッシュするのがいい。それがいい。そうしよう!
ただ、スキー板やウェアのような大荷物を抱えて出かけるなんてまっぴらごめんだ。まあ、そもそもスキー装備の類いは一切持っていないんだけれども。とにかく、できるだけ身軽に雪山へ行って、スキーで遊んで、その記録も残しつつ、精神的にばっちり充電して帰ってきたい。が、そんなことは可能だろうか。
最近になって電子マネーのモバイルSuicaが、富士通のSIMフリースマートフォン「arrows M02」に対応した。もしかするとこのarrows M02さえあれば、あとは財布も何も持たずに雪山をエンジョイできるかもしれない。思えば、さかのぼること2年以上前の2013年、ARROWS NX F-06Eだけを持って北海道に行き、電池切れしながらも生還した筆者である。本土の範囲でスキー日帰りなんぞ楽勝のはずだ。
そんなわけで、思いつきだけでarrows M02のみを携えて日帰りスキー旅行を決行することにした筆者。都内からのアクセスが良くゲレンデコンディションも良さそうな新潟県の「ガーラ湯沢」に狙いをつけ、さっそく翌朝に出発することにしたのである。
※arrows M02で撮影している写真は一部で人物の顔にぼかし加工を施している以外、あえて修正や補正、トリミングなどは行っていません
モバイルSuicaで新幹線きっぷは気軽に買えるが……
荷物はarrows M02の他に、M02を使用している様子を撮るためのカメラ、スキーで滑っている様子をM02で撮るための自撮り用ポールとホルダー、小型三脚、それにポケットティッシュと汗ふきタオル、それらをしまうためのリュックのみとした。あと、もちろん服と靴も身に付けている。さすがに素っ裸でM02だけ持って雪山に向かうわけにはいかない。
ガーラ湯沢へ行くには上越新幹線が便利だ。ガーラ湯沢駅は上越新幹線の一部の終着駅で、東京から1本。しかもガーラ湯沢はJR東日本グループでもあるため、だいたいの支払いはモバイルSuicaでまかなえそうである。というか、全てをまかなえないと財布を持っていないからその時点で”アウト”なわけだけれど、とりあえず行ってみないと大丈夫かどうかは分からない。
時刻表を調べると、東京駅からガーラ湯沢駅へは1時間半程度。平日とはいえ満席で乗れなかったりすると困るので、前夜のうちに新幹線の特急券を手配する。きっぷの購入はもちろんモバイルSuicaアプリ。メニューの「モバイルSuica特急券」から購入手続きができ、指定席の場合は座席指定も可能だ。M02でサクッと購入したら、きっぷデータをスマートフォンのモバイルFeliCaチップにダウンロードしておく”受取り”操作も忘れずに行う。こうしないと、新幹線の改札でM02をかざしても通過できないので注意しよう。
また、モバイルSuicaで購入した新幹線のきっぷは、きっかり指定区間しか有効でないということも頭に入れておきたい。つまり、新宿から出発した場合、新幹線のある東京駅までのJRの乗車料金が別途必要になるのだ。紙のきっぷであれば、中心駅(東京駅)から近郊の都区市内駅間の在来線乗車料金も新幹線のきっぷ代金に含まれるようにすることが可能だが、モバイルSuicaでは必ず別になる。直接新幹線駅に行けるのでない限り、余計に電車代がかかってしまうだろう。「モバイルSuicaしか使わない」という縛りがないはずの皆さんは、紙のきっぷとモバイルSuica、どちらがトクかをよく考えて選択してほしい。
朝食をとり、ゲームをプレーしつつガーラ湯沢へ
出発当日の朝7時57分、新宿駅をスタート地点として、さっそくM02を改札にかざし、東京駅へ。朝早くに家を出たため、朝食をとっていないことに気付き、東京駅の駅弁屋で「牛たん弁当」(1400円)を買う。飲み物も欲しかったので、新幹線の車内販売でもM02で支払えるかどうか試そうと思っていたところ、ガーラ湯沢直通の上越新幹線「Maxたにがわ」は車内販売を行っていないとのこと。なので、駅構内の売店でお茶(140円)を購入した。ガーラ湯沢に新幹線で行く時は、あらかじめ駅ナカで食料を買い込んでおこう。
8時52分発のMaxたにがわ309号は、10時30分ちょうどにガーラ湯沢駅に到着する。その間1時間半あまり、弁当を食べたり、車窓を眺めたり、Webを見たり、マインクラフトをプレーしたりして時間をつぶす。ドコモのSIMで運用するM02は、新幹線で高速走行している間も、トンネル以外はほとんどつながり、通信レスポンスもほぼ普段通り。チップセットはSnapdragonのクアッドコア1.2GHzで、キャリアの最新ハイエンド端末に比べれば処理性能は落ちるものの、マインクラフトのようなシンプルな3Dゲームなら最高画質でサクサク遊べる。
気付けば新幹線はガーラ湯沢駅手前の越後湯沢駅に到着しようとしていた。車窓は徐々に雪景色に変わる。スキー場の情報を見て事前に170cmの積雪があるとは分かってはいたものの、問題なく滑ることができそうでほっとする。いや、実は正直に言ってしまうと、「本当に滑ることになるのか…」と不安な気持ちの方が強かったことを白状したい。勢いで「スキー行こう」と決めてしまったけれど、スキーを滑るのは17、8年振り。全く滑れず写真も満足に撮れずに帰ることになったら惨めなことこのうえない。
今さらながら、なぜスキーをしようと思ったのか。ガーラ湯沢駅の「ようこそGALAへ」という巨大な横断幕がさらに気を滅入らせる。が、ガーラ湯沢は、駅とスキー場の入り口となる施設「スキーセンター カワバンガ」が完全に直結しており、スキーウェアに着替えた後、ゲレンデの拠点「レストハウス チアーズ」まで屋内からゴンドラに乗って行くため、雪山の寒さを全く感じることなく滑り始められる。この快適すぎるスキー場で遊ばずに帰るのはもったいない。
というわけで、ガーラ湯沢駅を降りた筆者は、まず入り口からすぐのところにあるリフト券売り場で午前券・午後券・1日券・2日券など数種類あるリフト券を選ぶことにした。もちろんここでもM02を使い、モバイルSuicaで支払える。すっかり怖じ気づいていた筆者は、8〜13時まで滑れる午前券にして、テキトーに滑っている風に見せかけて撮影し、すぐに帰ってしまおうかと思っていたのだが、帰ったところで寝るしかなく、それだと普段の休日と変わらない過ごし方だと思い直し、フルに遊べる1日券(8〜17時まで有効。4600円)を選択した。
レンタルとロッカーが利用不可能!?
リフト券を購入したら、次はスキー用品のレンタルだ。ガーラ湯沢ではスキーはもちろんスノーボードの関連用品もレンタルでき、板やウェアだけでなく、ゴーグル、ニット帽、ヘルメット、グローブなどの小物も貸し出している。子供向けのソリもレンタルできるので、まだスキーやスノーボードを楽しめない小さな子供のいるファミリーでも雪山遊びを満喫できるだろう。
しかしここで、この日最大の難関が2つ続けて訪れた。1つ目は、本人確認証明書を求められたことである。筆者がレンタルしたのはスキー板、ブーツ、ウェア上下、ゴーグル、ニット帽、グローブの6点で、計9400円。これもM02をかざして支払うのだが、レンタルに当たっては本人確認証明書が必要になるのだ。一般的には免許証や健康保険証、学生なら学生証を提示するところだろうが、あいにくM02しか持っていない筆者には今証明書になるようなものは何もない。
ところが、レンタルの申込用紙には、本人確認証明書の例として「携帯電話」とあった。本当にこれで本人確認の証明になるのかどうか不安になりながら丸を付けたが、聞いてみると、申込用紙に記載した電話番号と端末の電話番号が一致すればOKらしい。今回は通話が可能なSIMを使っていたので問題なかったが、通話に使えないデータ専用SIMだとNGかもしれない。
ひと安心して装備一式を借り、今度は着替えるためロッカールームへ。しかし今度は、ロッカーを使うためのロッカー利用券を購入する自動販売機が、古い。どこからどう見ても現金しか受け付けないタイプだった。
ロッカー室で山盛りのスキー用品を前に途方に暮れる筆者。手持ちの荷物は少ないので、最悪ロッカーを利用しないという手もないことはない。ただ、スキーウェアを着ると、ここまで着てきた厚手の外套を手で持って滑るしかなく、撮影がままならないのが一番の問題だ。現金は当然持っていないし、「ロッカーだけモバイルSuicaは使えないから注意しよう!」で済ませてしまっては微妙に企画の根底が揺らぐ。
大荷物のスキー用品を抱え、ロッカールームをうろうろする筆者。ロッカー利用券の自動販売機はあちこちにいくつかあるが、そのどれもが現金専用だ。「これでダメならもう本当に帰ろう」という気持ちで、一か八か近くにいた男性スタッフにモバイルSuicaでどうにかならないか聞いてみると、「リフト券売り場でも買えますよ」と0.5秒で即答されてしまった。
財布を持っていないことは全く疑問に思っていないようで、当たり前のごとく応対してくれるのは、さすがJR東日本グループ、というところだろうか。他にもSuicaオンリーで利用するお客さんがいるのかもしれない。リフト券売り場のお姉さんにさっそくロッカー利用券(1000円)を発行してもらい、着替えていざゲレンデへ。ゴンドラに数分揺られると、そこはもう一面の銀世界だった。
当日の午前は晴れ間がのぞいていたこともあり、到着直後のレストハウス チアーズ付近は溶けかけたザクザクの雪。しかし午後になると曇り始め、初中級者向けのコースがある中央エリアの中間地点から頂上は時々雪がパラつく天候となった。雪質はパウダーではないものの、溶けかかっているような場所はなく、比較的滑りやすいコンディション。気温も低すぎず、寒くなければ汗をかきすぎることもない、快適そのものの1日だった。
寒くても、山頂でも、転んでも、arrows M02なら大丈夫
さて、極寒の雪山、ということにはならなかったものの、M02は米国防総省が指定する装備品に求められるMIL規格14項目に対応しており、そのうちマイナス20度を想定した「低温動作」とマイナス30度を想定した「低温保管」、さらには「低圧動作/低圧保管」という標高の高い雪山での使用に耐える性能基準をクリアしている。また、耐衝撃・耐振動性能のほか、ご存じの通りIPX5/IPX8に準拠した防水にも対応している。
例えば雪山で誤って雪の中にM02を取り落としてしまっても、派手に転倒してM02を入れているポケットの中に雪がたっぷり詰まってしまったとしても、あるいは気圧が低下する標高の高い山頂であっても、動作には全く支障がない。実際に11時から16時くらいまで、ずっとポケットの中に入れた状態か、自撮り用のポールに装着したまま、幾度となくゲレンデで写真や動画を撮影し、Webを閲覧し、Twitterにスキーで遊んでいる動画を投稿して仕事中の人たちを煽ってみたが、M02の動作が不安定になるようなことはなかった。こぶ斜面では一度転倒してしまったが、当然問題なしだ。
ちなみにM02のディスプレイには、かつて直射日光下で見にくくなると言われたこともあった有機ELを採用しているが、輝度やコントラストを自動調節するスーパークリアモードのおかげもあり、常にはっきり見える。雪面の照り返しが激しくフィルターレンズのゴーグルを装着しなければならないような場面でも、画面内容をしっかり視認できた。というよりも、画面の明るさや暗さは全然意識することなく普通に使えていた。
それと、スキー場で意外に重要なのが「手袋タッチ」機能だ。スマートフォンの画面をタッチするには、通常はどうしてもグローブを外さなければならない。しかし、寒さの厳しい雪山でそれは避けたいところだ。M02なら手袋タッチをオンにすれば、グローブを外すことなくタッチ操作できる。Twitterで文字入力して投稿するような細かな操作はさすがに難しいけれど、カメラを起動して動画や写真を撮るくらいなら厚手のグローブごしでも大丈夫。手がしもやけになることなく、M02をゲレンデで使い倒せるだろう。
久しぶりに滑ったスキーでも、意外に身体が覚えているようだ。山頂から終始プルークボーゲンで降りてくるようなこともなく、すっかり当時の感覚を思い出して気持ちよく滑っていると、あっという間にお昼時。レストハウス チアーズにある食堂は券売機でチケットを購入して注文する方式で、券売機のうち1台がモバイルSuicaを使えるタイプになっている。併設している用品店もモバイルSuicaで支払いOKだ。
昼食をとりつつ帰路の新幹線のきっぷを購入。その後は結局16時過ぎまでたっぷり滑り、2.5kmもある下山コース「ファルコン」で体力を極限まですり減らしてスキーセンター カワバンガへ帰着。足をぷるぷる震わせながらレンタルした装備を全て返却した後、モバイルSuica対応自動販売機でジュース(160円)を購入し一服した。
帰りの新幹線の時刻は17時16分。それまで少し間があったので、土産物店で編集部向けの「GALA ARMOND フロランタン」(650円)と家族向けの「半熟かすてら」(490円)2個を購入した。本当は晩ご飯もガッツリいきたかったところだが、余りにも疲れ果てて食欲がわかなかったため、「チーズ柿の種&イカピー」(140円)と麦ジュース(360円)を帰りの新幹線内でいただいた。
ちなみに、スキーセンター カワバンガには「SPA ガーラの湯」があり、雪山でかいた汗を洗い流したり、その手前にある休憩所で小休憩することもできる。というわけで、今回のスキー日帰りでは往復の足、リフト券、レンタル装備、食事、お土産、風呂と、あらゆるものの支払いをM02だけで済ますことができた。唯一現金が必要になるのは、休憩所にあるマッサージチェアだけである。
まだいける! 残り15%でNetflix
帰りの新幹線では麦ジュースをちびちびやって仮眠をとろうかとも思ったのだが、M02の電池が15%も残っていることに気が付いた。まだいける!
新幹線が大宮を過ぎたあたりでおもむろにNetflixを起動し、動画を見始める。解像度720×1280ドット、5インチサイズのM02の有機ELディスプレイが、Netflixの動画を美しく映し出す。5インチというディスプレイが、新幹線の座席前のトレイに三脚で立てて見るにはちょうどいいサイズだった。
18時40分、東京駅に着いた時には電池残量は5%。なんとここで、電池残量が少なすぎるためにカメラを起動できなくなってしまった。それでも東京駅からJRと地下鉄を乗り継ぎ、インプレス編集部にお土産「GALA ARMOND フロランタン」を届けたい。編集部に到着する頃には残量は3%となり、20時頃、スキーの思い出を語っているうちに電源が切れ、起動しなくなってしまった。だがしかし、モバイルFeliCaはスマートフォンのバッテリーが完全に放電しない限りは機能してくれる。
編集部を後にして、再び地下鉄に乗り自宅最寄り駅まで、電源の入らないM02で20時30分過ぎ、最後の改札を通過。朝は自宅を7時過ぎに出たから、13時間以上を補充電なしで乗り切ることができた。ありがとう、arrows M02。
最後に、この日1日M02で操作した内容とかかった費用を一覧にしてみた。レンタル費用がかさみ、総額としてはそれなりにリッチな国内旅行になってしまった気がする。けれども、モバイルSuicaに対応したM02ならスムーズに日帰りスキー旅行を楽しめることがお分かりいただけたと思う。実際にはあえて全てをスマートフォン1台に頼り切る必要もないだろうが、いざとなればヘビーな真冬のアクティビティを1台でこなせる安心感がarrows M02には備わっているのだ。