ARROWS × ケータイ Watch

ARROWS×ケータイWatch

ARROWS NX F-05F 開発ストーリー

「Super ATOK ULTIAS」誕生秘話 ~完結篇~

変換辞書の充実の代償に失われた「快適さ」

開発途中のユーザーレビューでのSuper ATOK ULTIASへの評価は、「遅い」の一言に尽きた。

文字入力時の効率的な予測変換で重要な要素の1つは、言うまでもなく「変換辞書の充実度」だ。しかし、ありったけの言葉を変換辞書に詰め込み、「ミスがあっても補正してくれる」多数の機能を搭載した結果、変換する際の動作がとんでもなく重くなってしまった。

「ユーザーレビューで用いられたバージョンでは、変換エンジンが賢いことはわかってもらえたものの、文字入力で最も重要な"快適さ"が完全に失われていました」(商品企画 吉田氏)

いわば、頭でっかちになり足回りの強化が追いついていなかったわけだ。

開発途中バージョンへの酷評は、両氏にとってまさに、抱いていた懸念の現実化だった

「当時のバージョンは、動作面のチューニングがまだまだ不足していました。キーを1回押すたびに変換候補が表示するまで待たされ、2テンポ、3テンポも遅れてようやく目的の言葉を入力できる始末でした」(開発チーム 東條氏)

いくら予測変換の候補が適切であっても、文字入力のスピード自体が落ちてしまっては、使えないとされるのは当然かもしれない。しかも、動作が遅いだけでなく、タッチミスが多くなりがちであることも明らかになった。

 

原因究明へ

動作速度向上を至上命題とし、改善に向けて取り組み始めたプロジェクトチームだったが、その道のりはまだまだ遠かった。

変換速度を速くするためのカギは、ATOKの変換エンジンのチューニングにあった。しかしその部分はジャストシステムの虎の子であり、秘中の秘。この内部にアクセスしたり、ソースコードに触れられるのは、開発元のジャストシステムだけだ。

もちろん、ジャストシステム側でも改善を続けていたが、富士通のチームは、納得のいく性能を実現するために、自分たちでも改善に動き出した。

ユーザーがキー入力した文字をもとに、ATOKのエンジンが変換辞書にアクセスし、ワード検索して変換候補としてユーザーインターフェース側へ返す、それら一連の動作の中に何か改善できる部分がないか、アルゴリズム上で工夫できる箇所がないか、ログデータとにらめっこしながら、しらみつぶしにあたっていった。

あくまでも"外側"から見える範囲のことしかわからない。しかし、その"外側"から見たデータをもとに、エンジンの内部アルゴリズムを推測し、チーム全員から改善のアイデアを募って、ジャストシステムへ要望をいくつも出していった。ジャストシステムは、自分たちの検証結果と同様に、富士通からの要望についてもできるだけ実現できるよう改善を続けた。

ユーザーのキー入力のログを取得するツールも新たに開発した。社内レビューやユーザーレビューを行った際の全員の"入力ミス"を収集し、どういった内容を入力した際にミスする傾向にあるのか調査した。そこで多かったミスに至る流れについて原因を突き止め、フリック入力時の指の移動距離に応じた判定方法を調整したりするなど、さまざまな改善を施していった。

第5世代のタッチパネルの性能もフルに活かす

ひたすらにSuper ATOK ULTIASのチューニングを進める一方、ハードウェア側の開発も進んでいた。スマートフォンの文字入力は、タッチパネルなどのハードによっても大きく快適性が左右されるからだ。

そのためF-05Fでは、タッチパネルのセンサーに、最新の第5世代のものを搭載した。前モデルのF-01Fでは第4世代のセンサーが使われていたが、それと比べてタッチ精度や反応速度が飛躍的に向上。しかも、起動しているソフトウェアなどに応じてタッチ感度を変化させられる機能も備えている。

これにより、文字入力時とそうでない時とでタッチ感度を変える、といったことが可能になったのも大きいと吉田氏。

「ホーム画面を操作している時と、Webを見ている時、そして文字入力時とでは、最適なタッチ感度は違うのではないかと考え、画面モードごとの感度設定を微妙に変えてチューニングしていきました」(吉田氏)

たとえば文字入力の場面では、タッチするキーを選ぶ際に、画面に触れるか触れないかの微妙な位置で指が迷うことがあり、感度が高すぎると誤入力が増えてしまう。逆に、Webブラウザーなどではスクロールしたい場面なのに感度が低すぎると、スムーズにスクロールできないことになる。

従来の機種では、タッチパネルの感度を常に一定値にしか設定できなかったため、ある意味どんなシーンでも無難に使える"中間値"を決め打ちするしかなかったが、F-05Fでは各場面で最適なタッチ感度を設定できるようになり、それが文字入力時の無用なミスを減らすことにつながった。

東條氏によれば、トグル入力、いわゆるケータイ入力にも苦労したという。

「フリック入力では1文字1文字の入力にある程度の"間"が発生しますが、トグル入力では、たとえば"お"と入力しようとした場合に同じ"あ"のキーを4回、間断なく連打するといったケースが頻繁に発生します。

ATOKのエンジンの仕組み上、1度キー入力するたびに予測変換の処理が走ります。フリック入力のときはそれでかまいませんが、トグル入力では逆にスムーズな動作を妨げてしまいます。これを抑制し、スムーズにトグル入力できるようインターフェースやハードウェア側で対策を施すことができたのも、プロジェクトチーム全員からのアイデアによるものでした」(東條氏)

地道な積み重ねが「快適さ」を生んだ

そうした地道なチューニングを繰り返していった結果、実際に製品として世に出た「ARROWS NX F-05F」と「Super ATOK ULTIAS」が、最終的にどのように仕上がったのか。

それは店頭で実際に端末をいじれば一"触"瞭然、速度の遅さを感じさせない操作感だ。

「社内テストのとき、動作速度が遅かったので、とある上司にこっぴどく怒られたんです。でも、最後にはほめてもらえました。やってよかったな、と」(吉田氏)

ただ、最終的な製品の出来については「決定打となる大きな要因があったわけではない」と吉田氏。

富士通のチームとジャストシステムの開発陣が一丸となり、互いに意見を持ち寄りながら大小さまざまな改善を積み重ねていくことによって、ついに"快適"と言える変換速度に到達することができたのだ。

ジャストシステムに聞く
「Super ATOK ULTIAS」開発について

「Super ATOK ULITAS」を富士通とともに作り上げた日本語入力システムの雄、株式会社ジャストシステム。ここでは、株式会社ジャストシステムの開発担当者に、Super ATOK ULTIAS開発に際してのあれこれをうかがいました。

ARROWS NX F-05Fとそのコンセプトについて

当社としては、日本語入力が必要となるあらゆる場面でATOKを使っていただきたいという思いがございますので、プリインストールモデルでも最高のATOKを提供できる機会がいただけたと思い、大変ありがたいお話かなと思いました。とはいえ、「日本語入力システム」をメインのセールスポイントにするとお聞きしたのは正直びっくりしました。

通常の開発過程との違いや新鮮な部分などは?

当社としても、日本語入力が必要となるあらゆる場面で最高の日本語入力システムを提供したいと思って長年開発にあたってきましたが、富士通様と共同開発をするにあたって富士通様の並々ならぬ開発への熱い思いが新鮮というか、感動しました。

通常提供のATOKは、低スペックスマホにも使われることを考慮していると思うが、今回は搭載機種が限定されるということで、CPUの処理速度などはそれを想定して作っている?

最新のCPUやメモリを想定して開発しました。やはりCPUやメモリなどのスペックが高い方がよりよい機能を搭載して動かせるので、高性能な仕上がりになっていると思います。

変換エンジンのスピードについて、富士通からの改善案が来たときの感想は?

当社としても、よりよいものができるようさまざまなチューニングを試しておりましたが、外部の方からもご提案いただけたことは当社としても視野が広がりますし、刺激にもなりますし、ATOK for Android自体の開発にも役立てることができるので、ありがたかったですね。

最終的な出来や、今後の意気込みについて

言葉は日々変化していくものですし、環境が変われば日本語入力システムに求められるもの変化していくものだと考えています。そのなかでも、常によりよい日本語入力システムを提供できるよう努力していきたいです。

言葉の意味がわかる辞書機能と、いずれ何かが起こる「フリック学習モード」も用意

ほかにも、とにかくありったけのアイディアが詰め込まれていったSuper ATOK ULTIAS。ジャストシステム側からも、Android向けATOKだけでなく、 Windows向けのATOKで提供している機能も含め、スマートフォンでも提供したら便利だろうと思われるさまざまな機能が提案され、実装されている。

「開発時点で収録できる語彙しか入れられなかったのを、なんとかしたかった」(吉田氏)という思いから実装した「ATOKキーワードExpress」。既にジャストシステムの「ATOK for Android」では実装されていた機能だが、ジャストシステムからの提案を受けて採用した。話題になっている言葉や最新の専門用語などをジャンルごとに随時受信して、変換辞書に組み込めるようにしている。

さらに、日本各地の方言を収録した辞書や、郵便番号から住所に変換できる機能もジャストシステムからの提案を採用した。変換辞書の完成度については、数あるスマートフォン向けIMEの中でも「最高クラスと信じて疑わない」と吉田氏は自信を見せる。

最新の語彙を受信できる「ATOKキーワードExpress」
頻繁に新しい言葉が追加される
MENUキーを右フリックすると郵便番号入力モードに
郵便番号を入力して"変換"するだけで、住所を入力できるようになる

コンセプトの1つ「単なる変換辞書に止まらず、情報収集もサポートしてくれる」という点についても、変換候補のワードを長押しすることで、言葉の意味を表示する機能で実現した。吉田氏は「言葉の意味を手軽に知ることができるので、その言葉を使って良いか迷ったときに役に立つはず」と話す。

変換候補を長押しすると言葉の意味が表示

その他、地図アプリや乗換案内アプリなどで一般的に地名を入力すべき場面では、予測変換の候補のうち地名を優先的に表示するといった、気付きにくいところでありながら使い勝手には大きく影響しそうな機能も備えている。

Web検索ではこのように変換候補が表示されるところ......
マップで検索する時は地名が優先的に現れる

フリック入力が苦手な人でも、わかりやすいインターフェースで上達していける「フリック学習モード」も、吉田氏は強くおすすめする。どの方向にフリックすれば何の文字が入力されるのか、わかりやすいようにキーに文字が刻印されているほか、文字入力の速度を表示したり、すばやく入力できると「Excellent!」などとほめてくれたりするなど、ゲーム感覚で楽しく使える仕組みになっている。

楽しみながら上達していける「フリック学習モード」

入力していくに従って徐々にアメーバ状に広がっていく各キー中央の円模様が、「最大まで広がって"コンプリート"すれば、何かが起こる」(東條氏)という遊び心が用意されているのもうれしいところだ。


Super ATOK ULTIASの開発に際し、悩むことも多々あった両氏。「文字入力が、本当に端末のウリになるのか」と疑問を持ったこともあった。

だが、取材に応じた彼らの顔は晴れ晴れとしていた。最高の変換精度、語彙数、機能、操作性。最終的にはスピードを犠牲にすることなくそれらの要素を実装し、まさしく「最高の文字入力」を実現できたという自負があるからだろう。

だが、彼らはそこで満足することはしないようだ。

「コストやスケジュールの面から、当初考えていたいくつかの機能はまだ実現できていない」と吉田氏。今後発売される同社製スマートフォンなどにも継続してSuper ATOK ULTIASを搭載していくとのことで、より一層快適な文字入力に向けて機能強化を進め、"史上最高"を更新するIMEを作り続けていくつもりだ。

Super ATOK ULTIASはこれからも「最高の文字入力」を追求し続けていく......

関連リンク

その他の最新記事

ARROWSのことを何でも掲載する研究所 ARROWS@ 富士通公式サイト 富士通モバイル YouTubeチャンネル

LINEUP

[PR]企画・製作 株式会社インプレス 営業統括部
問い合わせ先:watch-adtieup-arrows1306@ad.impress.co.jp
Copyright (c) 2015 Impress Corporation. All rights reserved.