前回までで、どうして「明るさ」と「クロストークの少なさ」が立体視の画質を左右するキーポイントなのか、ということが理解できたと思います。
それでは、この2つのキーポイントにおいて、液晶はどうなのでしょうか。
まず「明るさ」についてはどうでしょうか。
筆者の照度計を用いた実測実験では、同一画面サイズの液晶とプラズマにて同一映像を表示したときの明るさを計測すると、液晶はプラズマのおよそ二倍の明るさがありました。
特にシャープの新世代液晶パネルのUV2A技術搭載パネル)は、開口率が高く、LEDバックライトによりピーク輝度も向上しているため、圧倒的に高輝度です。シャープの立体視対応テレビ製品では、立体視時には500cd/m2以上の輝度になるため、眼鏡越しの輝度も約100cd/m2にできるとしています。対するプラズマは眼鏡越し輝度が40cd/m2未満になってしまいます。
プラズマは、その自発光原理ゆえに画素隔壁を極端に薄くできない物理的制約があり、フルHD化に際して画素数を増やした際、画素開口率を下げざるを得ませんでした。画素セル内の希ガスレシピや電極構造、蛍光体の改善などにより高効率化を推し進めたことで、今ではだいぶ改善されたのですが、液晶にはまだ遠く及ばないという状況で、現在、プラズマテレビ製品が輝度性能値をカタログに書くのをやめてしまったのはそういった事情からといわれています。プラズマは、輝度性能に関しては、今や、その自発光原理の強みが弱みとなってしまっているのかもしれません。
「クロストークの少なさ」はどうでしょうか。
プラズマは応答速度が速いと言われてきましたし、プラズマはここを美点として訴求してきた経緯もあります。確かに、プラズマの発光応答速度は、液晶が数msに対してプラズマは数μsであり桁違いに高速です。
しかし、前述してきたようにクロストークで問題になるのは「映像をいかに速く消すことができるか」…すなわち消光応答速度の方です。これについてプラズマはおよそ数msであり、液晶と同等かそれよりも遅いくらいなんです。
そこで、立体視対応のプラズマでは、この残光特性を見せないように、立体視眼鏡の液晶シャッターを早めに閉じる工夫を盛り込んでいます。
この工夫は実は諸刃の剣です。この方法は確かにクロストークは抑えられますが、その分、立体視眼鏡の開口時間を短くしてしまうため、目に届く光量が減ってしまいます。つまり、立体映像が暗くなってしまうのです。
一方、液晶は長らく応答速度が遅いと言われ続けていましたが、UV2A技術搭載パネルとLEDバックライト技術を持つシャープは、この点においてついにブレークスルーを見出しています。
UV2A技術搭載パネルの応答速度は4msで120Hz駆動の要求速度の二倍の速さもありますが、ポイントはLEDバックライト制御技術にあります。
LEDの発光応答速度はプラズマの発光応答速度と同等の速さがあるのです。
しかも、プラズマが苦手な消光応答速度も、LEDは発光応答速度とほぼ同じなのです。つまり、液晶パネル上の映像表示に合わせて、LEDバックライトをオン/オフさせれば、プラズマを圧倒的に上回る速度で映像を消すことができ、クロストークを激減させられるのです。
理論上は
・液晶パネル全面に映像を描く
・液晶パネル全面に対してLEDバックライトを高輝度に全発光させる
というプロセスが理想なのですが、高速応答性能を誇るシャープのUV2A液晶パネルといえどもその応答速度は4msあり、LEDバックライトの高輝度の全面発光は難しく、理想通りには行きません。
では、シャープはどうしたかというと、「液晶パネル側に映像が描き上がるタイミングに合わせてLEDバックライトをスキャン発光させる」工夫と、「1フレームを2回表示させる」工夫を導入したのです。
前者の工夫は、プラズマには及ばなかった液晶画素の応答速度のハンデを隠蔽し、クロストークを低減させます。そして後者の工夫は明るさを確保します。
シャープは、LEDバックライトスキャンを用いることで、プラズマには及ばなかった液晶画素の応答速度のハンデを隠蔽し、クロストークを低減させた。写真は5つのパーティションに分かれているデモ機による。パーティション単位ならば高輝度の発光は可能。 |
プラズマが仕掛け役を務めた立体視テレビブームですが、アクティブ型フレームシーケンシャル方式の立体視は、筆者個人としては液晶に分があるように思えます。とくに、高速応答で高開口率のUV2A液晶パネルと、卓越したLEDバックライト技術を有するシャープには、かなり強いアドバンテージがあると思います。
これから立体視テレビを店頭で目にする機会も多くなると思いますが、「飛び出している感」の感動に落ち着いた後で、ぜひとも「明るさ」と「クロストーク」を意識しつつ、立体映像の画質に着目してみて下さい。
違いが分かると思います。
(トライゼット西川善司)